15、セレア
次の日、俺たちは準備をする。
出発は明日。最終確認も怠らない。
といっても別にこれといって持っていくものは無い。
鱗一枚を大きな布切れに包んでリーリアに持たせる事にした。
鱗を売った後はこれに調味料とか服とかを入れて持って帰るのだ。
あとは町の常識や買い物の仕方などを改めて教える。座学で一応教えてはいたのだがリーリアが不安がっていたので念には念をだ。
しかし時間が経つにつれリーリアの表情が曇っていく。
顔は青ざめ、体は震えている。俺の話もうわの空のようであった。
そしてついに、
「お父さん……やっぱり怖いよぉ」
涙を浮かべ俺に抱きついてきた。その小さな体は震えていた。
……ああ、そうか。
戦闘の強さでいえばもう大人も顔負けの実力はある。頭のよさも天才の部類だ。
──だが、まだ小さな女の子だ。
それも島からでたことがなく、他人とも話したことがない。
気持ちでは町に憧れを持っていても、それが不安じゃないと言えるだろうか。
俺は優しく頭をなでた。
リーリアが落ち着くまで頭をなでる。
「お父さん……」
すんすんと泣いていた声も俺を力強く掴んでいた指も徐々に収まってきた。
そして体の震えが止まった。
「お父さん────」
リーリアが何かを言いかけた時。
────そこに何かが現われた。
「え、君は誰だ?」
いた。
気が付いたときに。
リーリアの隣に金髪の少女が。
「………………」
金髪の少女は何を言うでもなくそこに佇んでいた。
「え? お父さん? もしかして見えるの?」
俺の視線の先に金髪の少女がいる事に気が付いたのかリーリアも驚いている。
「ということはもしかしてセレアなのか?」
こくん
セレアと呼ばれた少女はゆっくりと頷いた。
驚いた。
何故突然見えるようになったのかわからない。
俺はその姿をよく確認した。
白いドレスのような服を着て、金髪の髪は腰まで伸びている。
顔はリーリアと双子みたいに似ているが、体はセレアのほうが発育がいいみたいで少し年上に見える。
リーリアよ……同い年くらいと言ってたのに少し盛ったな……。
そんな考えを見透かされたのかセレアは恥ずかしそうに腕を交差させた。
先ほどまで泣いていたリーリアもそれを見て、俺を睨むと「お父さんは見ちゃだめー!」と顔に抱き付いてきた。
ううむ、可愛いやつめ。
落ち着いたリーリアを引き剥がし地面に置く。
まだ「むー」と唸っているが、事情を把握したかった。
「では改めて聞くが君はセレアなんだな?」
コクリ
今度は普通の速度で頷く。
やはりまだ会話はできないようだ。
「でもなぜ急に見えるようになったんだ?」
その疑問を聞いて見る事にした。駄目で元々だ。
セレアはリーリアを指差した。
そして今度は俺を指差す。
次に自分を抱きしめるジェスチャーをして、最後に泣くまねをした。
「うーん……つまりリーリアが俺から離れたくなくて悲しいからセレアがでてきたと?」
コクリ
正解のようだがわけが分からなかった。
えーと、つまりどういうことだ?
頭の整理がまだできない。
「あれ!? もしかしたらセレアの言葉がわかるかも」
「本当か?」
「うん、なんか繋がった気がする」
何もかも突然すぎて訳がわからない。
だがリーリアとセレアの間で何らかの進展があったことは間違いないようだ。そして俺にも見えるようになった。
「ふむふむ、なるほど……え? そんなことができるの?」
どうやら二人は会話をしているようだ。
セレアも口を動かしていて、俺には聞こえないのだがリーリアが頷いていた。
そして数分後、リーリアは俺に向き直った。
「えっと……どうやら魔力以外にも進化の条件があったみたい」
「ほう、それはなんだったんだ?」
「……ないしょ!!!」
「ええっ」
顔を真っ赤にしている。
うーむ、気になる。
相当恥ずかしいことだったのか。
リーリアはしばらく顔に手を当てて心を落ち着かせているようだった。俺もそれをゆっくりと待つ。
そして落ち着いたのか改めて俺に向き直る。
「……あのね、お父さん。セレアがこの島に残って私の視点? を見せてくれるみたい」
「視点? どういうことだ?」
「えっとね、ビジョンって魔法みたい。まあとにかくセレアの体にふれてみて。あっ! 変なところ触っちゃ駄目だよ!」
リーリアよ、お父さんを信じて欲しい。
俺は言われるまま肩に触れた。
「目を瞑ってセレアに魔力を送って、そっとね」
目を瞑り、ゆっくりと優しくセレアに魔力を送った……すると、目の前に自分の姿が現われたではないか。
だが視線が低い。これは……リーリアの視線か?
『お父さん見えてる?』
頭に直接聞こえるようにリーリアの声が響き渡る。
『ああ、聞こえてる』
俺も声をだしてみる。
視線の先にいる俺は口を動かしていないようだ。
どうやらこの状態のときは精神はリーリアと共にあるようだ。
『よかった、お父さん。私もお父さんの声聞こえるよ! すごいね!』
どうやらこれはセレアの精霊としての魔法なのか。
セレアに触れることでリーリアと繋がる事ができる。
視界はもちろん声も共有できるとはすごい魔法だ。
『これで一緒に町を見れるね!』
『確かに。これなら俺も安心できるし、久しぶりに町も見ることができるんだな』
『うん! よかったね!』
『ああ』
これならば本当に安心だ。
実際の手助けはできないが声にだしてアドバイスできるのはでかい。
今回行ってもらうフォレストエッジという町は比較的安全な場所だが、裏通りはどこも酷いところはある。
そういった場所を回避できるし、リーリアは可愛いから寄って来る男もいるだろう。そんな連中から守るために俺が目を光らせていなければなるまい。
『ところでこれは魔力を切れば戻るのかな?』
『うん、私が常にビジョンの魔法を発動し続けるから、お父さんはセレアに魔力を送ればいつでもつながる事ができるよ』
『常にって……魔力消費は大丈夫なのか?』
『すごく微量な魔力しか使わないんだ。だから一生使ってても魔力切れは起こらないと思う』
『そうか、こんなに便利なのに消費も少ないなんて……』
俺は魔力を流すのをやめてみた。
すると視線は高くなり、目の前にはリーリアとセレアがいた。
うん、戻ってきた。
「これは便利だな、すごいぞセレア」
リーリアにしてるように自然な動きで頭をなでる。
セレアは嬉しそうに目を細めた。
「あ、セレアだけずるい! お父さん私も!」
横を見ると羨ましそうなリーリアの視線がある。
空いてる手でリーリアもなでてやった。
「えへへ」
うむ、なんか子供が増えたみたいでいいな。
■
そして翌朝。出航の準備は整った。
リーリアはリヴァイアサンの頭の上に乗り角を掴んで立っている。
その表情は凛々しく、その姿はまさにドラゴンを従える勇者のようだ。
鎧とか着たら可愛いのかもしれない。そんな妄想を膨らませてしまう。
俺はセレアと共に見送りだ。
まあ見送った後はすぐに小屋へと戻り、ビジョンで見ようと思っている。
「では行くぞ。飛ばすからな、しっかりつかまっているのだぞ!」
「……うん! しゅっぱーつ!!」
少しだけ心配そうに俺の方を見るが、少しだけ目を瞑るとすぐに前を見て元気よく号令をかけた。
波も立てずに物凄い速度で海上を滑るように進む。
そしてあっという間に見えなくなった。
「相変わらず早いな……それじゃ戻ろうか?」
セレアに視線を向けると、コクンと一回頷いた。
……しばらくこの少女と過ごす事になるのだな。
なんとなくどぎまぎしてしまう。
というのも赤子の頃から一緒にいるリーリアならいざ知らず、昨日初対面の女の子と一緒に生活するなんてことは体験した事がない。
リーリアがいなくなり改めてその事を意識することになった。
「あーなんだ、ビジョンの魔法を使いたいから基本は近くにいてくれると嬉しいが、何かしたい事があったら遠慮なく言ってくれ」
そう言ってセレアを見る。が、ふるふると首を振ると俺にしがみついてきた。
ええええぇぇぇぇ!!!
どうしたんだいきなり!
ピッタリと俺にしがみつき離れる気配がない。
「えっと、セレア……どうしたんだ?」
そう言うとセレアはこちらを見上げ微笑む。
うん、可愛い。
もちろんリーリアの方が可愛いとか、そういう比較とかではなく単純に小動物的な可愛さがセレアにはあった。
ついつい俺はいつのも癖で頭をなでる。
するとセレアは嬉しそうにしている。
その時、
『セレア!?!?!?!? 何してるの!!!』
ビクッ
思わず手を離してしまったが、セレアは気にせずに抱きついたままだ。
急に頭の中に大きな声が流れ込んできたのだ。
『私のほうからもセレアの視線を通して見れるんだからね!!! なかなかお父さんがビジョン使ってこないから心配になってきて見れば……ってセレア! 私がいなくなったとたんお父さんに何してるの!』
どうやら心配……というか完全に嫉妬だなこれは、可愛いやつめ。
『心配させてすまんな、なんかセレアが俺から離れたくないみたいでな』
『ううぅ……恐れていたことが起こってしまった……』
『そうなのか?』
『うん……お父さんがセレアの姿を見れないときから、セレアはよくお父さんを見ていたんだ。だからもしかしてと思ったけど……』
『まあ甘えたいだけじゃないか? そう気にする事もないだろ』
『そうかもしれないけど……ずるい』
『これから小屋に戻ってビジョン使ってつながるから機嫌直してくれな?』
『うん……待ってるからね?』
一旦魔力を切る。
ふう、まさかリーリアからもつながることができるとは思わなかった。
しかしどんどん甘えんぼになってる気がするな。
好かれる事は父親としては非常に嬉しいんだけどな。
おっと、早く小屋に戻らねばな。
「セレア、リーリアが心配するから小屋に戻るぞ」
こくりと頷いた。




