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144、南の魔王



「さて、ここが最後だったかな」


 あれからモンスターに会わずにここまできた。

 帰還魔法陣がある部屋にはモンスターがでない。今手をかけようとしている扉が東側最後のモンスター出現部屋だったはずだ。

 俺は扉に手をかける……が扉は開かなかった。

 ということは、この中で誰かが戦闘中であるということを意味していた。


「……まあ、すぐ終わるだろ」


 この部屋は不思議なもので隣の部屋で戦っていても全く音が聞こえない。それどころか魔力探知も効かなく全てが遮断された部屋となっていた。

 俺は扉に手をかけたままじっと待っていた。

 数分後、ギギギと音を立て扉がゆっくりと開きだした。


 倒してすぐ扉を開いたので濃い霧が立ち込めていた。

 巨大な物体が部屋の中央で横たわっている。あれがモンスターだろう。

 モンスターを挟んで奥側に人の気配がする。

 俺がゆっくりと歩を進めると、たちまち部屋中に魔力が充満する。

 奥にいる人物が俺を警戒しているようだ。


「そこにいるのは誰!? 名を名乗りなさい!!!」


 空気が流れる音と同時にピシッと俺のすぐ近くで何かが地面を叩いた。

 俺は歩みを止める。

 

「お前が南の魔王だな? ちょっと頼みがあるんだが」

「……ちいっ、刺客か」

「いや、ちが──っむ!?」


 強烈な何かが首筋をかすり、赤い血がにじみ出た。

 咄嗟に避けていなければ首が飛んでいただろう。


「まて、話を聞いてくれ」

「こんな場所に頼みごとをしに来る酔狂な奴はいないわっ!」


 空気の流れが変わった。

 木の枝のように無数に分かれた攻撃が高速で繰り出される。


「ここにいるんだけどなっ!」


 俺は悪態をつきながら攻撃をひたすら躱した。


「これは鞭か!」


 一見すると不規則なようだが、実は規則性のある軌道に見覚えがあった。

 

「なかなかやるわねっ! これでどうかしらっ!!!」

「むっ!!」


 手数が倍となって襲い掛かってくる。

 両手で鞭を操っているのだろう。

 なかなかに器用な奴のようだが、俺には通用しない。

 すべて紙一重で躱しながら、ちょっとずつ前へ進んでいく。


 鞭の動きが風の流れを作り、だんだんと霧が薄くなっていく。

 モンスターが回帰し、小さな人の影が見えてきた。

 あれが南の魔王か。

 声からしても思ったがやはり女のようである。

 あまり手荒な真似はしたくないので、一気に距離を詰めようとした。

 その時──


「な、なんなのよあんた!! こうなったらっ!!!」


 二本の鞭はぐるぐると巻き付き一本の太い鞭となり、鞭全体に魔力が膨大な魔力が流れ込む。

 

「バーストウィップ!!!」


 鞭は俺めがけて勢いよく叩きつけられようとしていた。

 

 ……なるほどな。

 このバーストウィップという技は地面についた瞬間に周囲の爆発する。

 鞭が直接当たらないのならば爆発させてしまえばいいと考えたわけか。


 俺はあえて避けずにその鞭をワザと向かっていった。

 

「観念したわね!!」


 嬉しそうな南の魔王の声がした。

 俺はそれを無視して襲い掛かってくる鞭を片手で掴む。


 ふう、心地よい魔力だ。

 掴んだ片手から俺の中に魔力が流れ込んだ。

 そう……魔力吸収を発動させた。


「は!? なんでよ!!!」


 自分の技が発動しないことに明らかに動揺している南の魔王。

 俺はその一瞬のスキを突き、懐へと飛び込んだ。


「なっ────あうっ!」


 俺は南の魔王の腕を掴み勢いのまま壁へと激突した。

 あまりの速さだったからか南の魔王は頭を強く打ち付け苦悩の表情を浮かべた。


「~~~~っ! いったいじゃないの!! ってあれ?」

「…………」


 目と目が合った。

 俺もそうだったが、南の魔王も目を丸くしたまま固まっていた。


「お前……サリサか?」

「あ、あんたは……ベアル……ベアルよね!!!」


 南の魔王は300年前に別れた俺の彼女であった。

 お互い動揺しているためか、何も喋れない状態で見つめ合う。


 サリサは大人っぽくなっていた。

 顔はもともと美人であったが、釣り目がよりきりっとして、薄く塗られた口紅も大人っぽさを演出している。

 ストレートに伸ばしているピンクの髪もしっかりと手入れをしているようで艶があり、とてもいい匂いがした。

 身長だけはあまり伸びなかったようだが、胸は成長しているようでかなりの大きさとなっている。


「い……いつまで手を掴んでいるのよ……」

「あ、ああ……そうだな」


 俺はゆっくりと手を離した。

 サリサはじーっと俺の顔を見ている。

 俺もサリサのその瞳から目が離せないでいた。

 互いに何も言えずに時間が過ぎていったが、だんだんとサリサの表情が怒りの表情へと変わっていった。

 ああ、やばいと思った時、頬に熱い衝撃が走る。

 俺はビンタをされていた。


「あ、あんたいったい今までどこにいたのよ!!! あたしが……あたしがどれだけあんたを探したと思ってるの!!!!」


 今度は胸倉を掴まれてグラグラと揺らされる。 


「あたしをほおっておいてどこかに行って!!! いつの間にか戦争に参加してると思ったら魔王になって!!! それで魔王になったと思ったらすぐどこかにいっちゃって勝手すぎるわよ!!! ふざけるんじゃないわよ!!!」


 今までたまった鬱憤を晴らすかのようにまくし立てる。

 胸倉を掴んでいた手は、怒りで震え、次第に殴りモードへと変わっていく。

 どんどんと強烈な一撃が叩き込まれていた。


「ぐ……す、すまん。あの時は本当に勝手だったと思っている。俺はバカだった……迷惑をかけてすまなかった」

「迷惑すぎるわよ!! どこかに行ってそれで死んだって言われた時の私の気持ちがわかる!!? 目の前が真っ暗になってひどく絶望したわ!! でも私は死んだなんて信じなかった!! 嘘だって思ったからあたしは世界中を探して……それでも見つからなくて…………う……うぅ……」


 サリサの声は次第に小さくなっていき嗚咽と変わる。

 その目からは大粒の涙を流していた。

 俺を叩く手も弱まっている。


「……すまん」


 その一言しか言えなかった。

 俺は本当にダメな奴だ。

 そもそもサリサがこんなにも心配してくれていたなんて微塵も思っていなかったのだ。

 今更ながら罪悪感しかなかった。


 サリサはしばらく泣いて落ち着いた後、恥ずかしそうにこめかみのあたりを押さえた。


「ははっ……あんたの顔みたら一気に感情が押し寄せちゃった……あー……とっくに諦めていたと思っていたのに自分でもビックリ……でも言えなかったこと言えてスッキリしたわ」


 そう言って笑って見せた。

 俺はその笑顔に心から救われた。


 ──だが次のサリサの一言によってまた俺の表情は凍り付いた。


「……それで私を探してたってことは、よりを戻すために帰ってきてくれたのよね? 大丈夫、心配しないで! 私、あなた以外の男には魅力を感じなくてずっと一人でいたの。今は魔王となってしまったけど、二人で一緒に南デルパシロ王国を守りましょ!」



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