142、国境の街エルガント
宿を取った後、俺は街の探索を開始した。
一緒に行動するのはリーリアとアナスタシアだ。
3人娘は長旅でくたくた、レヴィアは腹が減ったということで宿で食事にありつき、セレアに至っては「人の多い所は疲れますので」と言って宿に残った。
「お父さんどこ行くの?」
「そうだな……まずはダンジョン場所を再確認しておきたい。あとは最近の情報とアクセサリーを見ようと思う」
「情報は分かるけどアクセサリーも?」
「ああ、基本ダンジョン産のアクセサリーは自分たちで使うものだが『かぶった』時は売ることがあるんだ。それを見ておきたい」
「えっと……『かぶった』ってどういうこと?」
「ああ、『かぶった』というのはダンジョン用語で、ようは同じ部位のアクセサリーが出てしまったって意味だな」
「同じ部位?」
「ああ、例えばアナスタシアはこの前手に入れたネックレスを装備してるだろ? 追加で二つ目を装備してもネックレスの効果がなくなってしまうんだ。どちらかを取り外すと効果は戻るんだけどな」
「そうなんだ! 不思議だね!!」
「だから『かぶった』アクセサリーは必要な方を残して売ってしまうんだ」
そんな話をしていたらダンジョンのある建物の前にきた。
「この建物の中にダンジョンがある」
「すごく立派だね! 早く入りたい!」
「SSS級ダンジョンがあるだけのことはあるな……まあ、ラグナブルク城に比べたら大したことはないな!」
突然アナスタシアが会話に加わってきた。
先ほどまではリーリアと手をつないでニコニコしていたのだが、リーリアの興味が建物に移ってしまったことで対抗意識を燃やしてしまったようだ。
俺は苦笑しつつも会話を続けた。
「この中にはもちろんダンジョンもあるが、ダンジョン産のアクセサリーも売買されている。それにかなり高いが宿もあるし酒場もある。ダンジョンに通うことになるから明日からはここで生活することになるだろう」
「楽しみ! 早く入ろう!」
入口には誰もいなかった。
どうやら建物への出入りは誰でもできるようだ。
俺は両扉へと手をかけ、一気に扉を開け放った。
「わぁ! すごいね!」
リーリアの感嘆の声も人々の雑踏にかき消される。
建物内は人であふれており活気に満ちていた。
冒険者たちの笑い声や罵声、売り子の呼びかける声にどこからか聞こえてくる泣き声。
そう、言うなれば冒険者ギルドと酒場と露店街が一か所にまとまっているようなそんな場所であった。
早速俺達は広い建物内を詮索し始める。
宿屋だけでも数店あるし、酒場はさらに多い。
建物の隙間を埋めるように露店商もいてじっくり見て回ると数日かかりそうだった。
このままでは明日になってしまいそうなので、とりあえずダンジョンの位置を確認することになった。
昔の事なので覚えていないが最奥に進んでいけばあったはずである。
道なりに真っすぐ進んでいくと数分の後にダンジョンの入り口らしきご立派な部屋の前へと辿り着いた。
その部屋の扉の前には兵士が二人いた。
俺たちはその兵士の元へと歩み寄った。
「中に入りたいのだが?」
「ここはSSS級ダンジョンです。Aランク冒険者以上でなければ通れないのですが」
「俺はSランクだ」
「冒険者カードを見せて下さい」
俺は冒険者カードを渡した。
「すごい! 確かにSランクですね! あなたはここら辺の人ではないですよね?」
「ああ、中央大陸からきた」
「なるほど……だから見たことが無かったのですね! Sランクの人ならここら辺では有名になりますから!」
「そ、そうか……で、入っていいのか?」
「はいどうぞ!!」
俺は扉に手をかけて開けようとした……が声をかけられた。
「ああ待ってください! お連れ様も冒険者カードを見せて下さい!!」
「代表者だけではダメなのか?」
「ダメなんです。冒険者ランクAでなければ入れないことになっています」
「……それは困ったな」
リーリアはまだBランクになったばかりだ。
アナスタシアに至っては冒険者ですらない。
このままだと二人は入れないことになる。
「なぜAランク以上という制限ができたんだ?」
「え、えっと……」
俺の問いに青年兵士が困った顔をした。
すると隣にいた中年兵士が助け舟をだした。
「こいつはまだ知らなかったな……丁度いいから教えておこう。前にとある青年が運よくこのダンジョンからアクセサリーを持ち出せたんだ。それが一生遊んで暮らせる金となってな。その噂を聞いた若者がこぞってダンジョンへと入った……結果は悲しいことに全滅だ。そういうことがあったから入場を厳しくしたってわけだ」
「そ、そうだったんですね! 先輩ありがとうございます!」
なるほどな。
しかしそうなると本当に困った。
悩んでいるとアナスタシアが中年兵士に声をかけた。
「では実力を示せば問題ないのではないか?」
「ん? ああ、それはそうなんだが俺達ではどうすることもできない。ここを管理しているのは南デルパシロ王国だ。魔王様が許可を出したのならこちらとしても問題はないんだけどな」
「南の魔王か……ならばそいつから許可をもらおうか。南デルパシロ王国に行けば会えるのか?」
「魔王様は現在このダンジョンで腕を磨かれているんですよ!!」
「お、おい!」
青年兵士が嬉しそうにそう言うのを中年兵士が焦って発言を制した。
「え? 言ったらダメだったんですか?」
「魔王様が内緒だと言っていただろうが!」
「あっ!! ──いてっ!」
どうやら青年兵士はちょっとおバカのようである。
中年兵士からげんこつをくらっていた。
「なるほどな……魔王がこの中にいるのか。では俺が話をつけてくるから二人は情報でも集めておいてくれ」
「えぇ……私も入りたかったけど……残念」
「ではお言葉に甘えてリーリアと遊んで……もとい情報でも集めていよう!」
「だーめ! ちゃんと真面目に情報を集めるから」
「そ、そうか……じゃあお姉ちゃんと一緒に酒場でも見回ろうか」
二人のやり取りを背中越しで聞き、苦笑しつつ扉を開ける。
さあ、久しぶりのSSS級ダンジョンでも見て回るとするか!




