141、次の目的地
本日も宿での作戦会議である。
今日の結果を得て、今後の方針について決めなくてはならなかった。
「次の目的地は南魔族大陸にしようとおもう」
俺はそう宣言した。
現在地は北魔族大陸の最北部であるためかなりの移動をしなくてはいけないが、南魔族大陸には高難易度のダンジョンがある。俺としては是非ともそこを攻略したかった。
だがその一言に3人娘は凍り付いていた。
「南魔族大陸にはダンジョンが二つあるんだけどぉ……ベーさんはどっちに行こうと思ってるの?」
「もちろん最高難易度のSSS級ダンジョンだ」
「ですよねえ~」
シャロはそう言って肩を落とした。
「そ、それは……ベアルさんならともかく私たちには荷が重すぎます」
ナルリースの発言に3人娘は全力でうんうんと頷く。
するとよく分かってないレヴィアが、「そこはそんなにヤバいのか?」と聞いてきた。
「ヤバいってものじゃないにゃ! 未だかつて誰も攻略したことのないダンジョンでSランクパーティーでも2階までしかたどり着けてないという攻略不可能といわれている場所にゃ!」
「そんなにやばいのか……ちなみにベアルは行ったことないのか?」
「あるぞ」
皆の視線が集まる。
その中でも一段と目を輝かせているのはリーリアだ。
「期待に沿えずに悪いが、その2階までしかいけなかった冒険者が俺の事だ。1階だけでもかなり広いし敵も強力だった。それに運悪く戦争も起きて攻略どころではなくなってしまったからな」
「ということはベアルさんたちが2階までいってからは誰もその先にいけてないってことなんですね」
再び沈黙が訪れる。
だがその沈黙も各自異なるものだった。
「私いきたい!」
いの一番にそう発言するのはリーリアだ。
それに続くように、「我もいくぞ」「私もいこう!」とレヴィア、アナスタシアと続く。
「私ももちろんご一緒させていただきます」
セレアは当然というようにそう言った。
3人娘たちは「え!? 本当に!!?」といった表情で明らかに動揺していた。
何か一つ、後押しがあれば賛同しそうな雰囲気である。
「ちなみにそのダンジョンは運がよければ1階でも一生暮らせるくらいの金が手に入ることもあるぞ」
「僕もいく~!」
「シャロ!?」
俺の発言に即座に釣られたのはシャロであった。
あとはナルリースとジェラだった。
「確かに敵は強いが1階はSランクの敵しかでてこない。お前たちが3人で戦えばきっと勝てるだろう」
「ダンナがそう言うのならSランクとも戦ってみたいし行ってみようかにゃ」
「ジェラまで……」
ジェラは戦いは好きだが無謀なことはしない。だが勝機があるのならば挑戦したい気持ちの方が勝っていたのだ。
あとはナルリースだけだ。
「わ、私は自分に自信がないんです……」
「ナルリース、確かにSSS級ダンジョンを止めて他のダンジョンに行くのもいいだろう。ここからずっと東にいった所にイルミナという湖畔の町がある。そこにもダンジョンがあるのだがいかんせん遠い。イルミナに行ってから南に向かうと一か月くらいのロスになる……この意味は分かるだろ?」
「時間がありませんね……」
カオス復活まで最短で10か月という時間制限がある。
それまでに強くならねばいけないのだ。
「もしSSS級ダンジョンを攻略できるようになればそこを周回したいんだ。そうすれば俺たちの魔力も上がるし、強力なアクセサリーも手に入るだろう。伝説モンスターとも戦えるかもしれない……それにもしお前に危機が迫ったら──」
「──あっ!」
俺はナルリースの肩を抱き寄せる。
「絶対に守ってやる」
「は、はいぃぃぃぃ」
湯気が出るんでないかと思うほど顔を真っ赤にするナルリース。
相変わらず初々しい反応で大変可愛らしい。
「おい! 我も守ってくれないのか!?」
拗ねたような表情で対抗意識を出してくるレヴィア。
「なんだ、守ってほしいなら守ってやるぞ」
「ぐっ……守ってほしいが我は強いから不要なのだ……ぐぐぐ」
守ってほしいがそれはプライドが許さないと心が葛藤しているようだ。
こいつもこいつで大変に可愛らしいやつだ。
「まあ、そんなことが無いように慎重に進んでいくから安心しろ」
「わ、わかりましたぁ~」
未だに顔が赤いナルリースと「ぐぐぐ」と自問自答しているレヴィアを尻目に明日からの事を話し合った。
向かうは南魔族大陸だ。
─
時間を節約するために馬車は使わずにひたすら飛行して南魔族大陸と向かった。
アナスタシアとジェラは風魔法を使えないので皆で交代で運んだ。
だが道中にアナスタシアはフェニックスの力を解放し使用することを覚えた。
聖痕モードを発動した反動で法力はまだ戻ってなかったが、フェニックスの力は別物らしい。
背中に赤い翼を生やすと自力で飛行しだした。
「すごいぞこれは! こんな風に自由に飛べるのは気持ちいいな!」
しばらくすると自在に操れるようになり今では誰よりも速かった。
飛行して10日、ようやく南魔族大陸の国境の目印が見えてきた。
ここから先は南デルパシロ王国が管理する場所となる。
「ようやく南魔族大陸へと入った! 目的地まではあと少しだ! みんな頑張れよ!」
既に皆は満身創痍だ。
魔族大陸は大きいため大陸を半分移動するだけでもかなりの時間を費やした。
馬車で移動していたらさらに倍の時間はかかっただろう。
国境を越えてすぐに堅牢な塀で囲まれている街が見えてきた。
「あれが国境の街エルガントだ」
街の検問を通るためすぐ近くで着地した。
そして無言で検問所へと並ぶ。
皆の考えることは一つ。
早く宿のふかふかのベッドで眠りたい。
ただそれだけだった。
「お次どうぞ」
順番が来たようなので最初に俺が顔を出した。
「中に入るには身分証が必要です。何かお持ちですか?」
「ゴールドを払えばいいんじゃないのか?」
「今は戦争が近くて厳しくなっているのです」
「そうか……ではこれで頼む」
俺はギルドカードを見せた。
「ふむふむ、なるほど。フォレストエッジのベアルさんですか……はい、大丈夫です。では1000ゴールド頂きます」
「随分と高いな」
「戦争が近くて高くなっているのです」
「そうか……これでいいか?」
「はい、丁度いただきました。ではどうぞ」
続いてリーリア、レヴィア、アナスタシア、ナルリース、ジェラ、シャロと続く。だが最後に残ったのはセレアだった。
しまったな……セレアは身分証がないんじゃないのか?
いざとなったらどうしようか……そう考えていた時だった。
セレアは検問官に軽く会釈をするとそのままスッと通り抜けた。
何の違和感もなくただただ自然に。
これには他の皆もぽかーんとしていた。
「どうしたのですかみなさん?」
「いや、どうしたのですかって……なんで通れるのだ?」
「ふふふ、だって私は精霊ですよ?」
「え? いやまあそうだが……今は肉体があるではないか」
レヴィアがセレアのほっぺをつまむとプニプニとした。
「やふぇふぇくだふぁい」
「姿が見えているだろう」
セレアはたまらずレヴィアの横を通り抜けて俺へと抱きついてきた。
「私は存在を認識させないこともできるのです」
「そ、そうだったのか」
「はい、意識をすれば私の気配を消すことくらい造作もないことなんです。精霊は気に入らない人には気配も悟らせないし契約もしない。これは精霊にとっては普通の事なのです」
「なるほど……だから魔法は使えたり使えなかったりするわけか」
「はい、大好きな人にだけ特別ってわけなんです」
意外なところで魔法の謎が解けた。
どうやら精霊の気まぐれだったらしい。
そう考えると俺はすべての魔法を使えるからラッキーだったな。
「ねえぇ~とりあえず宿に泊まろうよぉ~僕もうくたくただよ~お願いしますぅぅ」
杖で体を支えるようにして歩いているシャロが蒼白な顔で懇願してきた。
休みもほどほどに飛び続けていたので、魔力がつきかけて倒れる寸前だ。
「ああ、すまんすまん。とりあえず明日まではゆっくり休むとしよう」
街の探索は俺一人ですればいい。
疲れた仲間を寝かせるべく宿に向かった。




