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136、子供冒険者の危機

子供冒険者視点



「くそっ! こんなことになるなんて!」


 吐き捨てるように言いながら剣を振るう。

 スケルトンはなかなか死なない。二度三度剣を叩きつけるとようやく動きを止めた。

 だが周りには数百ものスケルトンやゾンビがいる。

 未だ何とか防ぎきっているのはモンスターの動きが鈍いからである。

 

「キティ! ゾンビを早く倒してくれ!!」

「わかってる! やってるわよ! テルクこそさっさと倒してよ!!」


 キティは杖に魔力を込め力を増幅させるとファイアーボールを発動させる。

 ゾンビは炎に包まれながら歩いてくるが、しばらくすると足が崩れ、バランスを保てなくなり地面に倒れ込んだ。


「ダメ! 魔力がもうもたない!!」

「気合で頑張れよ!!!」

「無理なものは無理なの!!」

 

 そのやり取りは悲鳴に近い。

 キティは歯を食いしばりファイアーボールを唱え続ける。

 狙うはゾンビだ。

 剣でゾンビを倒すのは時間がかかる。

 なのでファイアーボールで倒した方が効率がいい。

 テルクとキティは倒す敵を分担しながら奮闘していた。


「おい! イシュリー! まだ回復は終わらないのか!?」

「ひぃぃ! ごめんなさいごめんなさい!」


 イシュリーと呼ばれたエルフの男の子は負傷した右足にヒールを発動させようとしていた。

 だが痛みで集中ができないようで中々完治しなかった。


「くそっ!!!」

「イシュリーに当たらないで!! もとはと言えばテルクが罠に引っかかったんじゃないの!!!」

「うるさい! お前だって宝だって喜んでいただろ!」

「い、言ってない! 宝だったらいいねって言っただけ!」

「嘘つくな!!」

「ついてない!!」


 激しい言い争いのさなかも二人は頑張ってモンスターを倒す。

 だが多勢に無勢。

 次第に壁際へと追い詰められていった。


「はぁはぁ……もう……ダメ……魔力が空……」

「キティ!? せめて杖で叩け!! ここで頑張らなかったらもう終わりだぞ!」


 動きを止めてしまったキティにスケルトンの剣が襲い掛かる。

 動きは遅いがキティにそれを避ける体力がなかった。


「くそがぁぁぁぁぁ!!!!!」


 テルク咄嗟に剣を捨て、そのスケルトンに体当たりをした。

 

「テルクっ!?」

「くそぉぉぉぉ!!!!」


 スケルトンを地面に叩きつけると足で踏みつける。

 粉々に粉砕するが、いつの間にか次のスケルトンが襲い掛かかっていた。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」

「いやぁぁぁテルク!」


 背中を切りつけられよろめく。

 後ろを振り向くと既に数匹のゾンビやスケルトンが攻撃を仕掛けようとしていた。


 ──もう無理だ。


 咄嗟にそんな考えが頭をよぎる。

 そう考えたらテルクは自然とキティに覆いかぶさるように抱きしめていた。


「テルク!?」

「ごめん……本当にごめん!」

「テルク……」


 キティも覚悟を決めた。

 二人はせめて苦しまないように願いながら目を瞑る。


 ──その時、激しい風が巻き起こった。

 あまりの衝撃に二人は互いが互いを支え抱きしめ合いなんとか踏みとどまる。


 二人はゆっくりと目を開けた。

 まずはキティがそれを目にした。

 テルクの背後に立つは黒いマントをした背の高い男。

 黒い髪をした顔立ちの整ったイケメンだった。


 次にテルクが振り返った。

 上から見下ろされる顔は笑っていた。

 だけどそれは決して見下しているという表情ではなかった。

 その男はテルクに声をかける。


「よくやったな。お前は男だ」


 そういってテルクに手を差し伸べた。

 その瞬間、安堵やら嬉しいやらの気持ちが一気に沸き上がり、テルクは声を出して泣いた。

 それにつられるようにキティも泣き出し、元から泣いていたイシュリーもさらに泣いた。

 



 泣き終わるころにはあれだけいたモンスター達は一匹残らず殲滅していた。

 テルク達の周りには男の仲間だと思われる美しい女性たちがいた。テルクの傷を治してくれたのもエルフの女性だった。


「あ……受付の時にいたお姉さんたちですね! 本当にありがとうございま──」


 キティがそう言って慌てて立ち上がるのだが、魔力の消耗が激しかったためによろけてしまった。

 

「おっと、魔力がないんだから無理するな」


 黒マントの男がキティを抱きかかえた。


「えっ……あっ……は、はい……」


 今までに聞いたこともないような高い声でそう答えて真っ赤になるキティ。

 テルクは胸にざわつきのようなものを感じて思わず顔を歪めた。

 だがそんなことよりも男に興味が移った。


「本当にありがとう兄ちゃん! すげえ強いんだな!」

「ふふ、まあな。お前もいい根性だったぞ」

「へへっ! 兄ちゃん名前は?」

「俺はベアルだ」

「ベアル兄ちゃんか! 俺はテルク!」

「テルクか、覚えておこう」


 黒マントの男はキティをそっと座らせると、今度はテルクの頭をぐちゃぐちゃと撫でた。


「っておい! 子ども扱いするなよ!」

「俺にとってはテルクは子供だ。それにそんなくだらないことにこだわらないで腕を磨け。実力ですべてをねじ伏せろ」

「うぐっ!」


 正論を言われテルクは何も言い返せなくなった。

 その様子をみたキティはぷぷぷと口を手で隠して笑う。


「さて……次はお前だが……」


 ベアルはイシュリーに近づいた。


「あ……」


 イシュリーは自身が何もできなかったことを恥て俯いてしまう。


「まだ完治してないな。ヒール」


 治りが浅かった右足に手をかざすと完全に傷を癒した。


「イシュリーは俺達が危険な時も何もしてくれなかった……噂は本当だったんだな!」

「ちょっとテルク!?」

「本当だろ!! スケルトンなんかの攻撃を受けて足を怪我してさ! そのあとはずっと俺たちに守られっぱなしだったじゃないか!! 冒険者ギルドでパーティーから追い出されたのをみてキティが可哀そうだっていうからパーティーに入れたのに!!」

「なんでそんなこと言うのよ! 足を怪我しちゃったんだからしょうがないでしょ!!」

「じゃあなんでさっさとヒールしないんだよ!! ヒールもろくにできないなんてただの役立たずじゃないか!」

「ひどい! テルクがそんな心の持ち主だったなんて知らなかったわ!!」


 ヒートアップするテルクとキティ。

 その二人をベアルが制した。


「まあ待て二人とも。名前はイシュリー……だったか? ヒールをろくに使えないのには訳がある……違うか?」

「え……あ……」


 イシュリーはただただうろたえるばかり。

 そんな態度にテルクはさらにイラついた。


「ベアル兄ちゃんが聞いてるんだから答えろよ!」

「そ、それは……」


 それでも煮え切らない返事にイシュリー。

 テルクの怒りは今にも爆発しかけていた。


「なるほどな。ベアルよ、お主の言いたいことは分かったぞ」


 さっきから黙って聞いていた美しい水色髪の女が前に出てきた。

 そしてイシュリーの前でかがむと、コソコソと何かを小声でつぶやいた。


「えっ……何故それを!?」


 イシュリーはビックリしたようで、今まで聞いた中で一番大きな声でそう言った。

 すると水色髪の女はまたコソコソと話をする。


「本当ですか!!?」

「うむ我もそうだ。苦労するだろうが頑張るのだぞ」

「は、はい」


 何やら二人で分かりあっているようで、テルクは疎外感を感じるのだった。

 周りを見渡すと他の女性たちも何やら察したような顔をしていた。

 分からないのはテルクとキティだけだった。


「イシュリーは自信を持て、そうすればここら一帯では一番強くなるはずだ……そしてテルク。お前は嫉妬なんかしないでイシュリーと研鑽し腕を磨け。そうすることでもっと強くなるだろう……だから頑張れよ?」

「なっ!! 何言ってるんだよ兄ちゃん!!!」


 はははと笑うベアル。

 真っ赤になって否定するテルク。

 するとさすがに気がついたのキティもニヤニヤとした。


「ごめんねテルクの気持ちも分かってあげなくて……私のことが好きなんだもんね? そりゃイシュリーばかり肩に持ってたら嫉妬しちゃうよね」

「う、うるせええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 ダンジョン内に場違いな大笑いが起こった。



 ──この子たちは近い将来Sランク冒険者として名をはせることになるのだが、それは別の話である。

 



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