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14、港町へ行こうか



 数日前。


 浜に一つのビンが流れてきた。

 それをあけて見ると、なんとそこに入っていたのは黒い液体だった。

 俺たちは慎重にそれを確かめた。主に俺が。

 匂いを嗅ぎ、触って、舐めて、飲み込んだ。

 しょっぱいような、甘いような。それにコクもあり、酸っぱさもあり、そして何より美味かった。

 焼いた魚にかけて見たらその美味しさに感激し、その液体で煮てみれば、魚特有の生臭さも消え、ほろほろと口の中でとろけるその軟らかさと旨みに舌鼓を打った。

 リーリアもいたく気に入り、毎食その液体を使って魚を食べた。

 魚だけでは物足りず鳥も食べたいと、気合で魔力探知し、根気よく探して鳥を捕まえていた。

 鳥にその液体をかけるとすごく絶妙で、鳥一匹がまるで魔法のように胃に消えていった。

 そんな幸せも終わりのときを迎える。

 

 黒い液体がなくなってしまったのだ。


 俺とリーリアは絶望した。


 一度覚えてしまった味は忘れる事ができない。

 俺は300年もこういう料理を食べてこなかった。塩料理に慣れてしまった体にこの黒い液体である。昔を思い出し恋焦がれてしまったのも仕方がない。


 リーリアもこの島から出た事がないので塩しか知らない。

 そこにあの黒い液体だ。

 生まれて初めて知るその味はリーリアの世界を変えてしまったといっても過言ではない。

 リーリアは毎日のように空のビンを逆さにしては、ため息をついていた。

 

 ……そんな姿は辛すぎる。

 時間が解決してくれるのを待つか。

 だが一度知ってしまった衝撃は今後に禍根かこんを残すかもしれない。

 お父さんはこの味を知っていたのに私に食べさせないようにしていた……とか。

 外の世界に行けば毎日これを味わえるんだ……とか。

 負の感情は一つ一つは小さくても積み重なればいつかは爆発してしまうだろう。

 それだけはなんとしても止めたい。

 ……ならば俺も覚悟をするか。



 ■



「えー発表がある」


 突然の一言にリーリアもリヴァイアサンも何事かと目を丸くする。


「リーリアは可愛く、そしてとても可愛く成長した」

「えへへ」


 リーリアの頭を撫でる。うん、今日も可愛い。


「そして戦闘能力もどこに出しても通用するレベルまで到達している」

「そ、そうかなぁ?」


 この発言に対しては不安があるようだ。

 不安を解消させるようにさらに撫でる。


「ベアルよ……何が言いたいのだ」


 リヴァイアサンは撫でる行為ができない。うらやましいのだろう。俺が撫でるのを邪魔しようと急かす。だがやめない。


 よーしよしよし。



「リーリアには中央大陸、港町フォレストエッジに行ってもらおうと思う」


 少しの静寂が流れる。


「ええぇぇぇぇ!!!!」

「……ほう?」


 反応は両極端だが驚いていた。


「知っての通り、俺たちは黒い液体を食してしまった。その反動で今どんな気持ちだ? リーリア」

「……うん、胸にぽっかりと穴が開いたように辛いよ」


 リーリアは胸を押さえると苦しそうな表情をした。

 傍から聞くとまるで失恋したような感じだが、まさにそのような感じなのだ。


「なので港町フォレストエッジに買い物に行ってもらいたいと思っている」

「えっ! 買い物!?」

「ああ、他人と会ったことが無いリーリアは不安かも知れない。だが俺たちの食事事情が危機的状況なのだ、わかってくれるな? リーリア」

「……うん、私、今本当につらい。あの液体の味を知ってしまって。こんな思いをするくらいなら知らないほうがよかったって思ったりもしたけど……」

「リーリア……」


 下を向いて涙をこらえるリーリア。

 

「でも! 私は黒い液体を知ってよかったって心の底から思ってる! だから私! すごく怖いけど買い物に行きます!」


 俺の顔をしっかりと見つめるその眼は決意とやる気に満ちていた。

 美味しいものが絡むとどんな困難も乗り越えてしまうだろう。


「ああ! よくぞ言った! すべて任せたぞ!」

「はいっ!」


 こうしてフォレストエッジに向かう事は決定した。


「そうだ、ついでに服や武器なんかも見てくるといい、あ……お父さんの服も買ってきてくれると嬉しいな」

「うん! わかった! カッコいいの選んでくる」


 それは楽しみだ。リーリアの選んでくれたものならどんなものでも着てしまうだろう。例えそれが着ぐるみでもな。


「盛り上がってるところ悪いが質問がある」


 きゃっきゃと買い物についてリーリアと盛り上がってたらリヴァイアサンから挙手きょしゅがあった。まあ胸鰭だが。


「ん? 何だ?」

「我は人間の世界では金が必要な事を知っている。その金はどこで調達するのだ?」

 

 もっともな意見である。

 だがそこにぬかりは無い。


「これを見てくれ」


 手に持つは虹色に輝く一枚の鱗。

 

「む、それは我の鱗ではないか」

「そう、あの時もらった鱗だ。これは多分高く売れるだろう」

「ふえーそうなんだ?」


 伝説の魔獣の鱗なんて価値があるに違いない。

 実際にこれで武器や防具を作れば相当強力な物が作れるだろう。

 三年前に剥ぎ取ったのでいい感じに汚れている。あまりに新品だと目立ってしまうかもしれないからな。


「あの時、売ると言っていたのは本心だったのか……」


 がくりと頭を垂れるリヴァイアサン。

 すまんな。でも他に金になりそうなものなんて無いんだ。


「いくらくらいになるの?」

「そうだな、レアの素材であるからざっと10万ゴールドとかじゃないか?」

「なるほど……って言われてもよくわからないかも!」

「だよな、まあ実は俺も相場はわからんが、鱗を売れば今回の買い物は困る事がないと思うぞ」

「そっか!」                                             

 


 リーリアとリヴァイアサンには言ってないが、俺には他に危惧することがあった。

 それはリーリアとセレアの会話によって感じた事だ。

 この島の食事事情は本当に悪い。なんせ魚魚魚、ときどき鳥だからな。

 まったく野菜を取っていない。海草は取ることもあるが美味しくない所為かあまり好きでないようで、たまに煮る時に使うくらいだ。

 その所為か分からないが、リーリアの成長が遅い気がするのだ。

 いや、リーリアはまだ八歳だから杞憂きゆうするには早すぎるのは分かっている。

 しかし今のうちに対策をしておかなければ後悔するのは目に見えている。

 健康で立派な女の子に育てたい。これは俺の夢であり目標であるのだ。妥協するわけにはいかない。


 


「ところでベアルよ。どうやってフォレストエッジまでいくのだ?」

「そんなの決まっているだろう? リヴァイアサン、お前が運ぶのだ」

「なぜ我が……」

「俺だって自分で町まで届けてあげたいさ、しかし島からでられないのだ。かといってリーリアだけで飛んでいくのも心配だ。距離も長いからな……嫌なのか?」

「リヴァちゃん……」


 俺とリーリアの視線が突き刺さる。


「……もちろん良いに決まっておるだろう」

「リヴァちゃんありがとう!!!」


 リヴァイアサンの顔に飛びついてはしゃぐリーリア。

 まんざらでもないリヴァイアサン。


 ふっ


「リヴァちゃーん」


 俺も抱きついてやる。


「気持ち悪いわ!!!」


 全身全霊で拒否された。

 そして俺の抱きついたところは入念に水で洗っていた。


 ──計算通り。


 リーリアとの抱擁の時間を短くしてやった。

 それにリーリアも楽しそうに笑っているので俺の大勝利だ。



 しかし自分はかなり丸くなったと思う。

 父親らしくというのは常に思っていたのだが、リーリアとリヴァイアサンと生活しているうちに、自然と自分を出すようになった。

 カッコつけようと思っていてもぼろは出るし、もう旧友といっても過言ではないリヴァイアサンとのやり取りも男同士の馬鹿みたいな会話になってしまう。

 今更取り繕っても遅いので、ありのままの自分をだしている。

 ただ親として最低限の威厳だけは失わないように努力はしようと思う。



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