134、心配事と初モンスター
翌朝、俺たちはダンジョンの前へと来ていた
「お父さんここがダンジョン?」
「そうだ」
「……なんか想像していたのと違う」
眼前にそびえるは大きな建築物。
多少豪華な外装となっていて他と差別化できてはいるが、ダンジョンと言われると疑問がわいてしまうのも頷ける。ただの大きな家と言われれば反論はできない。
客を迎える扉の上には『ようこそ初心者ダンジョンへ』という豪華な看板が張り付けてあった。実にシンプルで分かりやすい。
「家の中にダンジョンがあるの?」
「まあな……もともとダンジョンがあった場所に家が建てられたんだ。町で管理することにより通行料を取り、品物を売買し、この町は発展していったんだ」
「なるほど! ダンジョンがあったから町ができたんだね」
「そういうことだ。ではいくぞ」
中に入るとギルドのような受付がたくさん並んでいた。
一人一人ここで受付を済ませ奥の扉へと入っていくのだ。
並んでいる間ヒマなので周りを見渡してみる。するといかにも初心者ですという冒険者パーティーが横の列に並んでいた。
ピカピカの真新しい鎧に身をまとった男の子剣士にぶかぶかな服で杖をもった童顔な女の子、まだ日の光を一切浴びてないかのような白い肌の小柄で華奢なエルフ男の子。
どうやらリーダーは剣士のようでダンジョンについての知識を一生懸命語っている。
「ういういしいねぇ~」
「あたしたちにもあんな時代はあったにゃ」
「ちょっと……あなたたち年寄りくさいわよ」
そんな三人娘の熱い視線に気がついたのか、若い冒険者たちはこちらに視線をやった。
「なんだよ姉ちゃんたち! 何か文句でもあるのか?」
「ちょっとテルク! やめなさいよ」
「だってなんかニヤニヤした表情でこっち見てるから」
「僕も止めておいた方がいいと思う……特にそこの男の人はやばいよ」
男の人とは俺のことだろう。
ちらちらとこちらを窺うエルフの男の子は完全に腰が引けている。
しかし俺の事を恐ろしいと思うことは才能のある証拠だ。さすがエルフといったところか。
「ごめんなさい、へんな意味はないの。ちょっと昔の自分たちに重なってしまって懐かしいなって思っただけなの」
すかさずナルリースが弁明をした。
「うんうんそうだよぉ~」
「可愛いなって思っただけにゃ」
自分たちが舐められてると感じたのだろう。テルクと呼ばれた剣士の子は憤慨をする。
「くそっ! みんなして俺たちを外見で判断するんだ! 今に見てろ! このダンジョンを攻略して見返してやる!」
「ああもうっ! ……本当にごめんなさい、こいつ昔からこうなんです」
杖を持った女の子がぺこりと謝ってきた。
「いいえ、こちらこそごめんなさいね。でも無理はしちゃ駄目よ。自分たちの実力にあった攻略をしていくのよ」
「はい、ありがとうございます」
ナルリースの言葉に剣士の子は聞く耳持たないといった風にそっぽを向いた。
反対に丁寧にお辞儀をするのは杖を持った女の子だった。エルフの男の子はビクビクとしているだけだった。
うーむ……心配である。
初心者ダンジョンとはいえ階層が深くなるほどそれなりに強い敵は現れる。
駆け出しの冒険者には当然無理な階層だ。
杖を持った女の子がしっかりしているので、無理をしないと思いたいが。
考えていると受付の順番が回ってきた。
若い冒険者パーティーも同時に受付を済ませて既にダンジョンに潜っていた。こちらのほうが人数が多いため長引いたからだ。
とはいえいつまでも気にかけてはいられない。
こちらもこちらで初心者ばかりである。
「ではいくか」
「うん! ついにダンジョンだね! わくわくしてきた!」
リーリアは期待を胸に興奮冷めやらぬようだが、きっとがっかりすることになるだろう。
それくらいここのモンスターは弱いからだ。
「まあ今日はあくまでダンジョンの説明だ……あまりはりきりすぎるなよ?」
「うん! わかった!」
俺は皆がいることを確認すると、足早に歩き始めた。
「ダンジョンは基本入り口は一つだが、地下一階はかなり広い構造となっている。地下二階へと下りる階段は一つだけじゃなくていくつもあるんだ」
まだ入り口に近い為か大勢の人がいた。
そこをすり抜けるように奥へ奥へと進む。
「とりあえずここは人が多い。手前の階段は混むだろうから奥へと行く」
「はーい」
このダンジョンは石がメインの造りとなっていて、多少押してもビクともしなく頑丈であり、いたるところにランタンの光が灯っていて全体的に明るかった。
「ランタンは誰かが定期的に交換しているわけではない。なので永久に光っていることになる。ダンジョンの謎の一つだな」
「誰かに盗られたりしないのか?」
「やってみるか?」
俺の挑戦的な表情にレヴィアはムッとなり、ランタンに手をかけた。
「むっ! 動かないぞ!」
強引に引っ張るがビクともしない。
ムキになったレヴィアは手に消滅の魔力を込めた──しかし!
「なんだと……この石の壁……普通の壁ではないな!?」
突きさそうとした指が壁で止まる。石の壁ごとランタンを引きはがそうとしたのだが突き刺さらなかったのだ。
「そういうことだ。ダンジョンは不思議な力で守られていて破壊することはできない。まあだからこそ全力で戦えるんだけどな」
「なるほどな」
─
しばらく進むと目の前に一体のスケルトンが現れた。
白い骨のモンスターで一番弱い奴だ。
カツカツと音を鳴らしながらゆっくりと進んできた。
「でた! モンスターだ!!」
リーリアが興奮する。
スケルトンは相変わらずゆらりゆらりとこちらに向かって進んできていた。
「お父さん! あいつはこちらを油断させようとゆっくり動いているの?」
「いや……あれが全力の速度だ」
「え?」
まるでまともに歩くことができない老人のようなスピードである。
こちらから近づかなければあと数分は待たなくてはいけないだろう。
「私戦ってみるね!」
「ああ」
リーリアはとことこと歩いていくと、スケルトンの前で一旦停止した。
スケルトンは目の前のリーリアを認識すると、これまたゆっくりと剣を振り下ろしてきた。
リーリアはその剣を指でつまんで止めると、そのままひょいと剣を奪い取った。
スケルトンは既に何も持っていない右手をそのまま縦に振り下ろした。
「お、おとうさーん……」
「……最初の敵はそんなもんだ」
さすがのリーリアもあまりの弱さにトドメを刺すのが可哀そうになってしまったようだ。スケルトンの右手に剣を返してあげていた。
「ほ、本当に弱いのだな。これではそこらへんの子供でさえ勝てるのではないか?」
レヴィアもあまりの弱さに度肝を抜かれていた。
「これでも倒せば魔力は手に入るんだ……駆け出しにはなくてはならない相手だ……と思いたい」
「にゃはは。まあもうちょい下の階層にいけばマシなのがいるはずにゃよ」
「そうと願いたいものだ」
俺たちはスケルトンを適当にはねのけながら進んでいった。
すると地下二階へと下りる階段を発見した。
「ここが地下二階……あれ? 隣にある青い光はなに?」
リーリアが指さす方向に青い光柱があった。
地面には魔法陣のようなものが描かれていて、その描かれた線に沿うように青い光が発光していた。
「それは帰還の魔法陣だ。理屈は分からんが地上へと戻ることができる」
「そんなものがあるんだね! これは階段の所にあるの?」
「基本はそうだな。広いダンジョンだと随所にあるイメージだ」
「そうなんだ!」
リーリアが近寄っていく。
「これって中に入ったらすぐ戻っちゃうの?」
「中に入って3秒経ったら転送される」
「3秒か……結構それがキモになりそうだね」
リーリアは3秒という数字に強く難色を示した。
実際リーリアの考える通り、この3秒がネックとなる。
魔法陣に入れるのは一人が限界だ。
となると俺たちのパーティーは8人いるから全員転送するのに24秒かかることになる。これはもし逃げるのに使うとしたらかなり長い時間だ。
「逃げるのに使おうとは思わないことだ。極力そうならないように事を運んでいくことが大事だ」
「うん! わかった!」
「いい子だ。では下りようか」




