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131、再びナルリースと……

 

 

 薄紫色の綺麗な髪を丁寧にとかす。

 俺の上でちょこんと座るリーリアからは甘い香りがした。

 こんな香りは知らない。きっと王妃か誰かからもらったものを使っているのだろう。リーリアも年頃だからいろいろ試してみたいのだ。

 少し長くなった髪に櫛を通す。

 リーリアも気持ちよさそうに櫛の動きに合わせてゆらゆらと揺れていた。

 そんなとき、控えめなノック音が聞こえた。


「だれだ?」

「ナルリースです」

「入っていいぞ」


 ガチャリと扉の隙間からこちらを窺うようにゆっくりと入ってきた。

 そして丁寧にゆっくりと扉を閉める。

 こちらに向き直ったナルリースは何かを言いたそうにもじもじとしていた。

 

 先ほどのやりとりが脳裏に浮かぶ。

 今も近づけば逃げてしまいそうなほど及び腰だ。


「そこではなんだからお前もこっちにきて座らないか?」

「えっ……」


 若干の思考のあと、リーリアと視線が合うと、ほっとしたような表情をした。

 うーん、警戒されているな。

 ちょっと強引に迫り過ぎただろうか。


 ナルリースは緊張しているようでガチガチになりながらベッドまでくると端の方にちょこんと座った。


「……もっと近くに寄って来たらどうだ?」

「は、はい……」


 ちょこちょこと細かくお尻を浮かせては座り、また浮かせては座りを繰り返し、少しずつこちら側へと移動してくる。

 

「さっきの話、考えてくれたのか?」

「はい……私なりに一生懸命考えました」


 硬直しながらもギュッと拳を膝の上で握っている。

 とても緊張しているのがわかった。


「私、部屋からでたほうがいい?」


 リーリアが遠慮がちに言った。

 ナルリースは顔を左右に振る。


「ううん、リーリアにも聞いてほしいわ」

「そっか。わかった」


 浮きかけた腰をまた沈める。

 すっかり聞く体制は整った。


「さっきレヴィアと話をして全部聞きました。その時、胸が締め付けられるように苦しかったんです。それでやっと私自身の心を理解できました」


 今度はしっかりとこちらに向き直った。

 頬は赤く、訴えかけるようなうるんだ瞳をしていた。

 そしてはっきりと口に出して言った。


「私はベアルさんを愛しています」


 静寂が辺りとつつむ。

 手は小刻みに震えていた。

 俺は思わずその手を掴み引き寄せた。

 「あっ」という声がしたが抵抗はなかった。

 引き寄せて肩を抱くと甘くていい匂いが鼻腔をくすぐった。

 

「俺も愛しているぞナルリース」


 ナルリースの額の髪を優しく払うと、そっとキスをした。

 するとみるみるうちにナルリースの顔が真っ赤になっていく。


「えっ、あ、あの! リーリアが見てるのにそんなこと!」

「これくらいなら挨拶だ」


 そう言ってもう一度してやった。

 湯気がでるんじゃないかってくらいに顔を真っ赤にしたナルリースは硬直して動かなくなってしまった。

 

「ナルリース可愛いね」

「だろ? こんなに可愛い嫁を貰えて俺は幸せだな」


 間近で俺たちのやりとりを見せつけられたリーリアはニヤニヤとしている。

 その顔をみてハッと気がついたナルリースは心配そうな表情をした。


「ご、ごめんなさいリーリアの前でこんなこと……」


 どうやらナルリースは少し勘違いをしているかもしれない。

 リーリアもそれを思ったようで、


「ねえ、もしかして私が昔に言った、『お父さんを取らないでね』って言葉を気にしてる? あの時は本気だったけど今は応援しているんだよ?」

「え? ……そうなの?」


 俺とリーリアの顔を交互に見ている。

 俺が「ああ」と頷くと、「はあぁ~」と気が抜けたような声を発して体重をかけて俺に寄りかかってきた。どうやら力が抜けたようである。


「ていうかお父さん説明してないの?」

「……したようなしてないような?」

「してません!!!」


 うっかりしていた。

 まああの時は全力で告白をしていたのだ。

 仕方ないということにしておこう。


「まあ、それは悪かった。でもこのようにリーリアも歓迎してくれている。だからいい家族になれると思っている」


 そう言って今度は唇にキスをしようと接近した。

 だが、ナルリースはそれを両手で拒んだ。


「で、でもそういうのは二人だけの時にしてくださいっ!! さすがに恥ずかしいですから!!」

「お父さん……さすがに私もどうかとおもうよ」


 リーリアはさすがに呆れているようでジト目をしている。

 

「ダメか?」

「ダメ! レヴィアに聞いたんだからね! お父さんは見境なかったって!!」

「そ、そうですよ! 昼間からとかは恥ずかしいので、せめて夜だけとかにしてください!」

「そうか、ではこれからイチャイチャすることにしよう」

「えっ……あっ!」


 ナルリース自身が言ったことだが、しまったという顔になる。

 そして「うぅぅぅ」と真っ赤な表情で頭を抱えて考え込んでしまった。


「お父さん……ナルリースをいじめるのもほどほどにね……」

「悪かった。あまりに可愛すぎてな」


 二人でナルリースをなだめた。

 涙目になりながら頬を膨らませるナルリースも可愛かった。


「あーあ、熱くなってきたから私退散しようかな」


 そういってリーリアはベッドからぴょんと飛び降りた。


「えっ! ちょっとリーリア! 私を一人にするの!?」

「うん、私はレヴィアの部屋にいくね」

「──ちょっ!」


 ナルリースは腕を伸ばしてリーリアを掴もうとしたが空を切る。

 そこには既に誰もいなく、ドアが閉まる音が空しく響いた。


「二人っきりになったな?」

「え……ああぁぁ……」

「覚悟はできているんだろうな?」

「ま、まだです」

「まあ、覚悟が無くても俺には関係ないけどな」

「えっ……あ、ちょ────」


  

 再び元気を取り戻した俺は長い夜を過ごすのだった。




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