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128、レヴィアと……



「それでお父さん。どっちから告白するの?」


 朝食にしては豪華な料理を食べながら、リーリアは早速会話を切り出した。


「もちろん二人同時だ」

「えーーーー!!!」


 がたんと席を立ち、テーブルに乗り出すリーリア。

 あまり勢いよく立つものだから紅茶がこぼれそうになった。


「あらあら落ち着いたらどうですかリーリアちゃん」

「あ……ごめんなさい」


 この場には王妃もいた。今朝王妃のほうから誘いにきたのだ。

 リーリアとしばらく離れ離れになるからと一緒に朝食を取った。

 朝食中の話題はもっぱら俺の告白の話になる。

 王妃も女性である。色恋沙汰には興味津々で会話に入り込んできた。


「でも……二人同時はさすがにないのではないかしら」

「そうなのか? 俺としては二人に優劣をつけたくはないのだが」

「だとしてもよ! ベアルさんは乙女心が分かってないわ。ロマンティックな場所で好きな人と二人っきりで、ムードが最高潮の時に告白されたいものよ」

「……そういうものか」

「私もそう思うよ! せめて一人一人別々に告白したほうがいいよ」


 リーリアと王妃に反対されては仕方がない。

 俺は恋愛ごとに関しては素人であるから、ここは素直に女性の意見は取り入れよう。


「だが今日のうちにしたい……王妃よ、ロマンティックというがどこかいい場所を知っているか?」

「うふふ、そういうことなら任せておいて! とっておきの場所を教えてあげるわ」

 


 

 ──




 皆との集合場所は中央の噴水広場だ。

 俺とリーリアはいち早くその場に行くと他の面子を待っていた。

 するとぞろぞろと宿方面からやってきた。


「あら、ベアルさん早いですね」

「集合はもう少し後だったはずだが?」


 ナルリースとレヴィアが並んでやってきた。シャロとジェラも後方にいる。

 前夜、城に行く前に集合時間と場所を決めていた。

 今日は大事な話があるので遅刻したくなかったのだ。


「ああ、ちょっとな」

「うんうん、ちょっとね」


 俺とリーリアは互いに顔を見合わせて笑う。


「なによリーリアまで……二人そろって変だわ」

「なにか企んでいるのではあるまいな?」

「ううん、むしろ良いことだよ」

「いいこと?」

「うん、今日は自由時間にしようってお父さんと話したの」

「自由時間? フォレストエッジには帰らないの?」

「せっかくラグナブルグまで来たのに買い物とかしなくていいの?」


 リーリアがそう言うと、追いついてきたシャロとジェラも食いついてきた。


「あ~買い物はしたいかもねぇ。この国のファッションも見ておきたいし」

「そうだにゃ。大会を見ていたからお店は見てないにゃ。武器屋とか回ってみたいかもにゃ」

「決まり! じゃあ町の西側にいこう!」

「町の西側というと高級店が並ぶ方面だにゃ。お財布に優しくないにゃ……それに貴族が入るような店に入れるかにゃ?」

「それなら大丈夫だ」


 俺はそう言うと王家の紋章が入ったメダルを見せる。

 それに皆の視線は釘付けとなった。


「優勝賞品でもらったやつだ。これがあれば優遇措置を受けられるらしい」

「私も持ってるよー!」


 俺とリーリア、ここに二つの王家のメダルがあった。


「これで二倍の効果が……」

「さすがにそれはないな」


 シャロのボケにすかさず返す。

 何故か嬉しそうにニヤ付き親指を立てるシャロがムカついた。


「ともあれ今日はそこで豪華に過ごそうという訳ですね?」

「ああ、優勝賞金もあるし、今日は俺がおごろう」

「「なんだってー!!!!!」」


 おごりという言葉に反応するレヴィアとシャロ。

 互いに思い浮かべているのは違うものだろうが、その顔はにやけている。


「では早速いくのだ! ご飯か!? まずはご飯か!!?」

「何言ってるのレヴィア! とりあえず宝石でしょ!!」

「あほか! 昼はまだだし、シャロは自分で買え」

「「うえーーーん」」


 賑やかな休日となりそうだった。





 この日の計画は俺とリーリアと王妃とで一緒に考えた計画だ。

 まずはレヴィアに焦点を置いた。

 レヴィアが求めている物で幸せを感じるものと言えば食べ物である。

 世界中の料理を食べつくすのが夢を豪語しているだけあって珍しいものには目がない。

 ではそんな料理をたくさん出されたらどうだろう。

 満足いくまで美味しい料理を食べられる……それはレヴィアにとって夢のような時間であるに違いない。


 ならばその時間を作ってあげるこそが俺の役目である。

 事前に目当ての店に行き、王家のメダルを見せて昼を貸し切りにさせてくれと頼んだ。

 オーナーは突然の要望に最初は渋い顔をしていたのだが、俺が事情を話すといい笑顔になり、「そういうことなら」と協力してくれた。

 どのくらいの量の料理を作るのかと聞かれて、山くらいだと言うと、オーナーは大変驚いて、「それを誰が食べるのだ」というから「底なし怪物のレヴィア」と冗談交じりに答えると、これまた驚いた顔をして、「まさかうちの店にもくるとは! ありがたい!!」と喜び小躍りをしていた。。

 どうやらパイロの町での食べっぷりは海を渡ってここラグナブルグにも知れ渡っていて、知る人ぞ知る伝説として有名になっていたようだ。

 オーナーは意気揚々と料理長に向かって支持を出した。「店の食材だけではたらん! 今すぐありったけの食材を買ってこい!」と。


 


 昼食時、皆と食事をした所がこの貸し切りにした店だった。

 俺の提案でレヴィアは満足行くまで食べさせてあげるということになっている。

 レヴィアは非常に喜んで、「本当にいいのか!? 本当にいいんだな!!?」と何度も念を押してははしゃいでいたのだった。

 まるで子供みたいに目を輝かせて喜ぶレヴィアを見て、あ……なんと可愛らしいのだろうと改めて愛おしく思えてしまうのだった。

 告白を意識しだした途端、好意が倍増したかのように思えるのは何故なのだろうと疑問に思う。

 こんな気持ちをレヴィアやナルリースがずっと持ち続けていたとしたのなら、なんと強い心を持った女性たちなのかと尊敬の念を抱いた。

 俺は絶対に我慢できん。

 俺はこの時点で既に二人を自分の妻にしてやるという欲望めいた決意を存分に抱くのだった。


 リーリアが俺の耳元で、「あとはお父さん次第だからね」と囁いて店を出て行った。他の皆もリーリアに連れられるように出て行く。

 これは計画通りで俺とレヴィアだけにする作戦である。

 そしてここからはリーリアの言った通り、俺の腕の見せ所であった。


 俺はレヴィアに付き添う形でその食いっぷりを眺めていたのだ。

 面白いように皿の上の料理が胃袋に収まっていく。

 いや、本当に胃袋に入っているのかも怪しい。

 その小さな体のどこに入っているのか分からない。まるで異次元である。


 すでに作り置きされていた料理が無くなり、スタッフ総出で料理を作っている。

 レヴィアが待つ形となりナイフとフォークを両手に持ち幸せそうにしていた。


「次の料理はなんであろうか? すべてが美味しすぎて幸せなのだ……ベアルよ。本当に全部食べてしまっていいのか?」

「ああ、かまわない。お前のために用意したのだからな」

「えっ……我のためなのか?」


 きょとんとするレヴィアに俺は優しく会話を続けた。


「ああ、レヴィアの喜んだ顔が見たくて用意した……ほら、口元にソースがついてるぞ」

「──あっ」


 手を伸ばし口のソースを親指で取り、そのまま俺の口へと運んだ。

 甘酸っぱく美味しい味だ。


「なななな! なにをするのだ!?」

「ソースがついていたらお前の可愛い顔が台無しだろう?」

「な────っ!」

「お待たせしました。季節の魚介のカルパッチョになります」


 次の料理が運ばれてくる。

 だが、レヴィアは口をパクパクさせており、料理に気付いていない。


「ほら、次の料理がきたぞ」

「あ……ああなのだ……」

「安心しろ。また口元が汚れたらふき取ってやるから」

「~~~~~~ッ!」


 顔を真っ赤にして、下を向き黙々と料理を食べ始めるレヴィア。

 だがそのスピードは先ほどとは打って変わってゆっくりとなっていた。

 それもそのはずだ。フォークとナイフを使って一口サイズにしてお上品に食べているからである。

 俺はその様子に思わずククっと笑ってしまった。


「な、なにを笑っているのだ!?」

「いや……本当に可愛いと思ってな」

「おぬし! 我をバカにしているのか!?」

「くくっ……ほら、そんなペースでは料理が食べきれないぞ」

「ぐぬぬ……誰のせいだと……」


 俺が後ろを指さすと、次々と料理が完成していた。

 それをみたレヴィアは再び火がついたのか、大きく口を開けると一気に食べだした。


「それでこそレヴィアだ」

「ふぉるふぁい」


 俺はすっかりレヴィアの食いっぷりに見惚れていたのだった。


 ──数十分後。

 すべての料理が出され、レヴィアはそれを完食した。

 

「はぁ~幸せだ。こんなに満腹になるまで料理を食べられるとは思わなかったのだ」

「いい食べっぷりだったぞ」


 満足げに机に突っ伏すレヴィア。

 対面に座っている俺はレヴィアの髪を指でいじる。

 

「ん……やめるのだぁ」

「つやつやだな」

「いっぱい食べたからな」


 どうやら体の変化は髪にもでるようだ。

 サラサラでつやつやなので満足したということか。

 俺は無言で髪を触り続けた。

 レヴィアはなすが儘にされていて静かだった。寝てしまったのかと思ったから思わず名前を呼んだ。


「……レヴィア?」


 するとすぐに返事は返ってきた。


「……ん? どうしたのだ?」

「眠いか?」

「少しだけな」

「じゃあ膝枕してやるぞ」


 そう言うと、急にガバっと起き慌てたような驚いたような表情をして、


「おぬしやはり今日は変だぞ! 妙に優しいというかなんというか……本当にどうしたのだ!?」

「優しくしたらおかしいか?」

「おかしい!」


 どうやら怪しまれてしまったらしい。

 俺としても本心で言っているのだが、今までの行いが悪すぎたようだ。

 だが俺としても引くわけにはいかない。

 席を立ち、向かいのレヴィアの元へと行くと、ひょいと持ち上げお姫様抱っこした。


「──っな!」

「オーナー、休憩室を借りるぞ」


 事前に把握してあった休憩室に向かう。

 その間もレヴィアは、「ま、待つのだ! 本当にどうした! な、なにをするつもりなのだ!」と動揺していたが、逃げようとはしなかった。

 俺はその様子を見て心底楽しくなったが、さすがに今日は優しくしようと決めてある。

 

 休憩所に着くとベッドにレヴィアを優しく寝かしつける。

 俺は頭部の方に腰を掛けると、パンパンと膝を叩いた。


「ほら、膝枕してやるっていっただろ?」


 それを聞いたレヴィアは一瞬ぽかーんとすると、


「ほ、本当に膝枕するためにここに連れてきたのか?」

「ああ、そうだぞ。 ……なにか他の事を想像したか?」

「し、してないぞ!!!」


 悲鳴を上げるかの如く否定をするレヴィア。

 ふう、とため息を一つつくと素直に頭を乗せてきた。

 俺は頭をゆっくりと撫で始める。


「気持ちいいのだ」

「そうか、よかった」


 しばらく無言になる。

 部屋は無音でまるで時が止まったかのようだった。

 何分経っただろうか。

 綺麗な寝息が聞こえてきた。

 顔を見るとあんなに大食いをしたとは思えないような可愛らしい寝顔であった。

 俺は自然とその顔に近づく。

 意識はせず、本当に自然と。

 気がついたらレヴィアとキスをしていた。


 レヴィアの唇は温かく気持ちよかった。

 なのでそれをまだ感じていたく、長い間唇を重ねていた。

 何分だろうか。

 ゆっくりと唇を離すと、目を見開いていたレヴィアと目が合った。

 互いに何も言わなかった。

 俺はもう一度接近する。

 レヴィアは目を閉じてそれを受け入れた。

 


 


 今はベッドで横になっている。

 隣には一糸まとわぬ姿のレヴィアがいた。


「なあレヴィア」

「……なんだ?」

「結婚するか」


 するとレヴィアは突然笑い出した。


「あはは! 順番が逆ではないのか!」

「そうかもしれないが……まあ、俺達だしいいだろ?」

「そうだな……そうかもしれぬ……では結婚しよう」


 互いに求めるように唇を重ねた。

 しばらくそうしていると、俺は言わなくてはいけないことを思いだした。


「あーそうだ。大事なことを言わなくてはいけないのだった」


 棒読みのような俺の発言にレヴィアは怪訝そうな顔をした。


「嫌な予感がするが……言ってみるといい」

「ナルリースとも結婚しようと思っている」

「お、おぬしというやつは……」


 呆れたような諦めのような声をだし、目を細めて睨むレヴィア。


「決めていたことだったんだ。お前たち二人とも好きでどっちか選べなかった」

「く……おぬしらしいと言えばそうなのだが……開き直ったように言うな!」


 ぺしっと頭を叩かれる。

 

「仕方ないだろう? 二人とも欲しかったんだ。もちろん平等に愛す」

「うぐっ……まあ、百歩譲って我はいいとしよう。だがナルリースは恋愛というものに憧れを持っているのではないか? 許すとは思えないから拒否されるかもしれんぞ」

「それでも俺と結婚したいと思わせて見せるから安心しろ」

「その自信はどこから生まれてくるのだ……」


 呆れたようにため息をつく。

 でもすぐに目を細めて、俺の体に触れてきた。


「我はもうお主の魅力にメロメロだ。だから拒否するという選択肢はない。むしろ我が先にいることでナルリースが諦めるのならそれはそれでいいだろう」

「じゃあいいんだな?」

「うむ、おぬしの妻となろう」


 再びどちらからともなく唇を重ねる。

 

「ところで我を先にしてくれたということはそこに何かしらの優位性があったからではないのか?」

「いや、特にない。むしろレヴィアの方がちょろそうだったから最初にしたんだ」

「お、おぬしというやつはーーー!!!!!」


 レヴィアは怒りベッドの上で暴れる。

 それを押さえなだめているうちに二回戦が開催されたのは言うまでもない。

 


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