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126、その夜……



 決勝戦が終わった夜、俺とリーリアはラグナブルグ城に招待された。

 優勝者への賞金の授与とパーティーへの誘いである。

 特に俺はエルフの国代表という立場なこともあり、国賓扱いされるので絶対に来るようにとアナスタシアから釘を刺された。


 城下町と城の間には少し距離があり、城は丘の上に建っている。

 城から迎えの使者がやってきて馬車に乗り込む。

 ゆっくりと動き出した馬車は、今なだらかな坂道を上がっている。

 俺とリーリアは広い馬車の中で寄り添いながら座っていた。


「ねえお父さん。今日は御馳走がでるんだよね?」

「ああ、きっと見たことがないような料理がたくさんあるぞ」

「わあ! すごい楽しみ!」


 リーリアは未だ見ぬ料理に想いを馳せうっとりとしている。

 ……幸せそうで何よりである。

 この横顔をずっと守りたい。そう思わずにはいられなかった。


「お父さんどうしたの? 私の顔になにかついてる?」

「ふっ、なんでもないぞ」

「えー? なにー」


 考えていたことを飲み込んだ。

 結婚について、まだ伝えるのは早いのではないかと思った。

 

「そういえば城での生活はどうだった? 楽しかったか?」

「ん~」


 リーリアは少し悩んだ後。


「楽しかった……かな?」

「なぜ疑問形なんだ」

「それはね……お父さんがいなかったから」

「ふふ、そうか……嬉しいことを言ってくれるな」


 俺の顔をみてニッコリと笑う。

 俺はリーリアの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「みんな優しくしてくれて大切にしてくれたけどね……なんか違うなって思っちゃうんだ。私にはお父さんがいて、レヴィアがいて、ナルリースやシャロやジェラがいる生活の方がしっくりくるというか……楽しいし嬉しいのかも」

「……そうか」


 素直に嬉しかった。

 そう思ってくれてるとは思いつつも、言葉にしてくれるだけでこんなに嬉しく安心するものなのか。

 俺はリーリアの肩を抱き寄せる。

 リーリアは抵抗せずに頭をコツンとつけ寄りかかってきた。


「うん、やっぱり私の居場所はここかな」


 馬車の進みと同じようにゆっくりとした時間が過ぎて行った。




 城に着くとまず服を着替えさせられた。

 俺は貴族が身に着けるような黒いタキシード姿。リーリアは薄ピンク色の可愛いドレス姿だった。

 特にリーリアのドレス姿は評判がよく、妖精のようだと声を掛ける人すべてから絶賛された。

 どうやらそれは王妃が選択したものであるらしく。本人の前にいったら、「やっぱり可愛い! 想像の通りだわ!」と抱きしめられていた。

 リーリアも慣れたようで、「お母さん! 皆の前なんだから!」と王妃を諫めていた。

 言われた王妃も、「あらいやだ、うふふ」と嬉しそうに笑うのだった。


 ……正直にいってこのやり取りは嫉妬した。

 事前に俺達といるほうが楽しいと言われていなければ不安で病んでいただろう。

 俺は余裕の心を持って、二人を見守ることにした。


 少しするとパーティーが始まった。

 どうやらこのパーティーは形式ばったものではなく、優勝者の健闘を讃え、労い、親睦を深めることを目的としているらしい。

 決まっているのは時間になったら優勝者への授与式がある程度だ。基本的に自由なのである。

 俺とリーリアの元にはこの城の関係者が次々とやってきた。

 中でもシニアの部の優勝者であるガイアスはすばらしい人物だった。

 アナスタシアの剣の師匠なだけはあり、深い見解と経験があった。

 ついでに酒についても知識が深く、聞いているだけでも引き込まれるものがあった。酒に関しては俺の師匠となりえる人物かも知れない。それだけ尊敬できる人物だ。

 ついつい長話をしてしまった。今度いい酒場に連れて行ってくれるということなのでとても楽しみだ。

 リーリアに対しても、「お嬢ちゃんは剣の才能もありそうだ。もし頼ってくれるなら教えますぞ」と言った。

 途中からアナスタシアも加わり、「リーリアも一緒に学ぼう! セレアソードを扱うならば訓練も無駄にはならないはずだ」と言ってきた。

 リーリアは数年後にまた来た時に学ぶかも知れないとお茶を濁していた。

 一緒にフォレストエッジへと帰る気満々の答えだ。

 アナスタシアは肩を落としていたが俺が、「お前も一緒にダンジョン攻略するんだからくるんだろ?」と言うと、ハッと顔を上げ、「そうだった! また一緒に旅できるんだったじゃないか!」と喜んでいた。

 どうやらアナスタシアはリーリアと一緒にいたかっただけらしい。ちらちらと俺の顔をうかがっているのはなんなんだろうか。


 

 しばらくすると授与式が行われた。

 渡されたのは王家の紋章が入ったメダルのようなものだ。

 これは優勝者の証であるのと同時にこの国でいろいろと優遇処置を受けられる代物だとか。城下町の出入りはフリーパスになり、特定の店で特別な対応を受けられるとか。それは自分で確かめてほしいとのことだ。

 あとはお金で、小綺麗な巾着に大金貨100枚が入っていた。1000万ゴールド分である。

 授与式が終わるとあとは自由の時間だ。

 帰るのもよし、談笑するのもよし、飲み明かすのもよし、各々が自由に過ごしていた。


 俺とリーリアはレナート王に個室に呼ばれていた。

 どうやら重要な話があるようだ。

 レナート王はこれからどういった日程なのかを俺に聞いてきた。

 俺はすぐに帰って大会の結果を報告したのち、魔族大陸に渡りダンジョン攻略をすると伝えた。

 レナート王はしばらく考えた後に、少しだけこの国に留まってくれないかと言ってきた。

 理由はリーリアの事をこの国の人々に伝えたいということだった。


 実はリーリアが王女だということは既に城中では広まっていた。

 それはそうだろう。王妃が手厚くもてなし可愛がる姿を見ては誰もが疑問に思う。理由を尋ねられれば、「あの時の第二王女モニカが帰ってきた」と王妃は嬉しそうに答えていたそうだ。知らないのは城下町にいる一般人だけである。

 神託により王女モニカが海に流されたことはこの国の者なら誰もが知っている事実だった。当時は全国民が涙し、神に祈りをささげたという。

 なのでリーリアが神託の第二王女モニカであると国民に大々的に発表したいと言ってきた。そうすれば国民は歓喜して喜ぶだろうと。

 だが話の途中でリーリアが首を横に振った。


「気持ちは分かるけどそれはイヤ。私はリーリアであってモニカではないから……ベアルお父さんの子だもん」


 断固として発表を拒んだ。

 するとレナート王は、


「分かった。無理に発表してリーリアがこの国に来なくなってしまったら元も子もない、王妃が悲しんでしまう……むろん俺もな。すまなかったなリーリア。だがこの国の人々は第二王女モニカのことを本気で心配し、愛していた事も知っておいてほしい」


 そういってすぐに引き下がった。

 リーリアは何も言わなかったが、コクリと一回頷いた。



 俺は嬉しすぎて涙が出そうだった。

 かっこ悪いから何とかこらえたが危なかった。

 誰もいなかったら号泣していたに違いない。


 リーリアが第二王女モニカだと知れ渡ることはこの国にとっては良いことかもしれない。

 神託の第二王女モニカが帰ってきて、この国と世界の平和を守るために第一王女アナスタシアと共に再び旅立つ。

 誇らしく立派な王女達はこの国の英雄となるのだ。

 さらには美人王女姉妹として、人気はさらに爆上がりするだろう。

 ラグナブルグは安泰だ。

 もちろん王や王妃がそんな打算的なことを考えてるわけではないだろう。

 その証拠にリーリアが嫌がったら迷いもせずにやめた。

 あくまでもリーリアを第一に考えていたのだ。



 俺としてもリーリアが断ってくれてほっとしていた。

 リーリアが第二王女モニカだと発表されてしまったら、俺の手の届かない場所に行ってしまいそうだからだ。

   



 王たちとの会話も終わり、俺達は与えられた部屋で休んでいた。

 今日は夜遅いので城に泊まっていって欲しいのだという。

 王妃がリーリアと一緒に寝たがっていたが、今日はお父さんと寝るといって俺と同じ部屋になった。

 俺はニヤニヤが止まらなかった。


 ふと夜風に当たりたくなり酒を片手にバルコニーへ出ると、眼下には城下町が見えた。

 城下町の夜は長い。人々の生きている証の明かりはとても美しく、ただでさえ美味い酒がよりおいしく感じられた。


「おとーさんっ!」


 わっと驚かすように背中から抱きつかれた。

 気配は感じていたので驚くことはなかったが、背中から感じる温もりが嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。

 リーリアが抱きついたまま横から俺の顔を覗き込む。


「あっ! お父さんが笑ってる! かっこかわいい!!」

「なんだそのカッコカワイイっていうのは」

「かっこよくて可愛いの! お父さんに似合う言葉だよ」                                        

「それは褒められているのか?」

「もちろん!」


 可愛いと言われても全然嬉しくはないのだが、リーリアが俺に合うと言うのならそれでいいのだろう。                                                     


「何してるの?」

「城下町を見ていたんだ。美しいだろ」

「わぁ! 本当だ! 綺麗!」


 リーリアの目がキラキラと輝いている。

 月明かりで照らされて見える表情は一段と可愛く見えた。


「リーリアちょっと可愛くなったか?」

「え! 本当!? えへへ、アデリーナお母さんにいろいろと教えてもらったの」

「そうか……それはよかったな」

「うん、お父さんに可愛いって言ってもらえて嬉しい!」


 まぶしい笑顔だ。

 リーリアは純粋に喜んでいる。

 なのにこんな時ですら王妃に嫉妬してしまう俺は情けない男だとおもう。

 王妃の事をリーリアが口にするたびに、俺は心を締め付けられたような苦しみを覚えていた。

 こんな感情は初めてだった。

 気がついたらリーリアのことを思いっきり抱きしめていた。


「お、お父さん? どうしたの?」

「すまんリーリア」

「…………謝ることないよ」

                                                                                                              

 リーリアも抱きしめ返してくれた。

 

「不安にさせてごめんね? そうだよね、お父さん300年もずっと一人でいたんだもんね……離れちゃってごめんね」

「ああ……もう離さないから。誰にも絶対に渡すものか」

「うん。ずっと一緒だからね」


 子供をあやすように優しい言葉をかけてくれるリーリア。

 俺にとってそれは、本当に心地よく、とけてしまいそうな言葉であった。


 しばらく抱きしめ合っていたら急に睡魔に襲われた。

 安心したら眠たくなるなんて、まったく子供に戻った気分だ。

 だが、悪い気分ではなかった。


「お父さん眠くなっちゃった? じゃあ今日は久しぶりに一緒に寝よ」

「ああ」


 少し大きめのベッドに二人で横になる。

 久しぶりにぐっすりと寝られそうだ……。

 意識が遠のいていく中、リーリアの優しい声が聞こえてきた。


「ねえお父さん。私ね、家族っていいなってちょっと思ったの。だからね……私、お父さんが誰かと結婚しても……楽しい家族になるきがするんだ……だから…………………」


 俺はまどろみの中、リーリアのその一言に涙するのであった。



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