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13、成長した



「さあ、今日も張り切っていくぞ!」

「うん! いくよ!」


 魔力を高め練り始めるリーリア。

 

 ふむ、最初からでかいのくるか?


「──フレア!」


 俺を中心にして起こる爆発。閃光が走る。

 大地が海水が衝撃によってえぐられる。

 あとに残るのは巨大なクレーター。

 そして悠然と立っている俺の姿。


「う……無傷!?」

「ふはは、なかなかだがまだまだ魔力操作が甘いな! ウインドの魔法で防げたぞ」


 そう言うと俺はウォーターボールの魔法を発動した。

 

「わっ! ストーンウォール!」


 水球をくらうものかと土壁ストーンウォールを発動するリーリア。


 ズガガガガガガガッ!


 連射で土壁ストーンウォールを削る。


「ほらほら、穴が開いてしまうぞ!」


 数十発放ったところで土壁は粉々となったが、その後ろにリーリアの姿はない。

 もちろん俺は見ていた。粉々になる直前に海に飛び込んでいたのだ。

 どうやら海からの不意打ちを狙っているらしい。

 魔力探知で海を探る。

 しかしリーリアの気配はない。うむ、教えたとおりにしているな。

 魔力の気配を絶つことができるのとできないのとでは、戦闘において雲泥の差である。


 昔、魔王となる前にダンジョンで気配を断つ魔獣と戦った事があったが、その時は本当に苦労したものだ。

 魔獣だけではないが、人も攻撃する瞬間に魔力を集めるのが無意識に行っている習性だ。それに反応して攻撃を防ぐなり反撃するなりしないといけない。

 まあそんな魔獣なんてめったにいないのだが。


 しばらく様子をうかがっていたが一向に海からでてこない。

 

 1分……2分……3分……


 なかなか出てこない。これはきっと罠だろう。

 面白い。

 ならばどんな罠があるのか、あえて引っかかろうではないか。


 海に向かい歩を進める。

 片足が波の満ち引きにふれたとき、何か違和感を感じた。

 その違和感は次第に大きくなっていき、何かが足に絡み付いていた。


「これは魔力の糸かっ!」


 正体がわかると同時に俺は海へと引きずりこまれる。

 数十メートル引っ張られ、海の深度も深くなる。

 海の中ではいつの間にか空気の泡が大量に浮かんでいて、その泡の中にリーリアはすっぽりと入っており、満面の笑みでこちらを見る。


「お父さん、覚悟してねっ♪」


 どうやら海に飛び込んだときに咄嗟にウインドボールで空気の泡をいくつも作り、そして探知に引っかからない程度の微量な魔力の糸を大量に作り出し続けていたのだろう。そしてその糸をまんまと俺は踏んだって訳だ。


 いやいや、さすが俺の娘。


 リーリアは即座にストーンランスを発動する。

 

 俺は足に絡まっていた魔力の糸を手刀で切ると、魔力操作で強化した足で水を蹴る。

 さっきまで俺のいた場所を石槍が通り過ぎた。間一髪だ。


「なっ! ずるい!!」

「ごぼぼぼ! ごぼごぼごぼごぼ!(ふははは! 自在に動けるぞ!)」


 足をかくかくと動かしまるで海老のように飛び跳ねる。はたから見たらさぞ気持ち悪い事だろう。

 

「うう、狙いが定まらない!」


 次々と石槍が飛んでくるが俺には当たらない。

 そしてついに俺はリーリアの作り出した空気の泡へとたどり着く。


「──ぷはぁ! さあ次はどうする?」

「こうする!!!」


 リーリアは左手を振り上げる。

 すると先ほど俺をかすめていった石槍が次々俺へと舞い戻る。


「なるほど」

「まだだよお父さん!」


 左手で石槍を操りながら、右手を俺にかざし、


「はさみうちっ!!!」


 海水中に出してあったウインドボールをさらに操り、俺の周りをすごい速さで回り始めた。そしてじわりじわりと中心の俺へ向かい輪を縮める。

 左右には風球ウインドボール、上下からは石槍ストーンランスが迫ってくる。


「これは逃げられんな……」

「そうだよお父さん! てえぇぇい!!」


 リーリアはこれで仕上げだとばかりに腕を振る。


 ────しかし何もおこらない!


 風球も石槍もピクリともしなかった。


「えっ!!! なんで!?」


 なんどもなんども腕を振るが一向に動く気配はなかった。

 そしてリーリアはハッとした。


「まさか! この海水って!?」


 リーリアは風球の中から手をだし海水に触れた。


「気がついたか。そうだ、ここら一帯の海水すべて、俺が操っている」

「……そうか私、海水に触れてないから気がつかなくて……いつから操ってたの?」

「海に引きずりこまれて足に絡まっていた魔力の糸を切ったときには、もうすでに俺の手中に収まっていたぞ」


 そう言うとリーリアは信じられないといった風に呆然としていた。


「──ってことは私が操っていた風球と石槍って……」

「ああ、最初はそのままリーリアの好きなようにさせていたが、今この段階で俺が海水で動きを封じたんだ」


 そう、俺は海水中に引き込まれた時にこの作戦を思いついた。

 リーリアが風球の中にすっぽりと入っていたから、俺が海水に魔力を流していたのを気付けなかった。

 敗因があるとするならそれだろう。

 

 リーリアは風球の中でぺたんと座り込んでしまった。


「ううぅ、悔しい」


 悔しいと思えるならば上々だ。

 この子はそれをばねに成長する。そしてさらに強くなるだろう。


「よっ」


 俺は腕を縦に動かした。すると海水が縦に割れる。

 海底を歩き座り込んでいるリーリアに向かっていった。

 そしていつものようにリーリアの頭を撫でる。


「だが、今日の作戦はよかったと思うぞ。リーリアが海水の主導権を握っていたらお父さんは何もできなかったかもしれない」

「……その時はその時でお父さんはなんなく切り抜けちゃうんだろうけど」

「その時になってみないと分からないけどな、でも本当に今日は良かったぞ」


 まだ座っているリーリアに手を回すとひょいとお姫様抱っこをした。


「わっ! お父さん!?!?!? なに!」


 慌てるリーリア。しかし俺は離さない。


「よしよし、今日はパーティーだ」

「なんのパーティーなの!?」

「リーリアがすごいぞパーティーだよ」

「もう、わけわかんないよ!」

「いいんだよ、こういうのはノリだ」


 そのまま浜辺へと運んだ。



 ■


 

 リーリアは八歳となった。

 より一層女の子らしくなり、砂を引きずっていたローブもすねが見えるようになった。髪は腰でそろえてある。あまり伸びすぎてもな。

 リヴァイアサンは相変わらず島に居座っている。そのせいか島の周りには強力な魔獣がまったくいなくなってしまった。

 困った事だが、その代わりに深海に魔力を蓄えているカニがいるのだが、それをたまに捕まえてきてもらっている。これがまたすごく美味い。リーリアも大好物でおねだりされて、断りきれないリヴァイアサンがせわしなく狩りに行っていた。

 おかげでリーリアの魔力量は滝を登る魚のように急上昇している。この三年間で元々の三倍くらいは増えたのではないだろうか。


 

 例のセレアとはまだ会話ができないようだ。でも頷いたり首を振ったり、なにかとジェスチャーで通じ合っているらしい。

 俺は相変わらず見えないのだが、なんとなくそこにいるっていう雰囲気はわかるようになった。どうやら見られてるのは本当らしく視線を感じる。

 ふと近くにいる気配がしたので手を伸ばしてみたら遠ざかってしまった。

 リーリアからは睨まれて、


「お父さんのエッチ!!!」


 と言われる始末。

 え……俺、どこ触ったんだよ……。


 不思議なものだ。

 精霊に触れる日がくるとは。

 俺の中の精霊という概念が崩れていくのと同時に、知識が増えていくことに喜びを覚えていた。

 まだまだ知らない事が沢山ある。

 俺もリーリアと一緒に成長していこう。


 ところでセレアはなんと外見が成長しているらしい。今やリーリアと同じ八歳くらいの姿なんだとか。

 ある時リーリアがセレアと話しているのを聞いてしまった事がある。


「セレアってなんだか私と体型違うよね……なんか胸が大きくない?」


 ふむ、なるほどな。

 どうやらそういうことらしい。

 とりあえず紳士的に謝っておいた。


 


 魔法の訓練はというと、火の精霊は上級へと成長した。

 なんで最初に火を上級にしたのか聞いて見たところ、「お父さんの魔法を見てカッコよかったから」だそうだ。ニヤニヤが止まらなくなったね。

 次は風魔法を極めるらしい。

 というのも火と風は相性もいい。

 複合魔法もこの二つを組み合わせれば凶悪な魔法ができるしな。


 ただ複合魔法なんだが、これはもっと魔力操作が上手くなってからでいいだろう。

 複合魔法は失敗すると危険な魔法だ。下手をすると自分に誤爆してしまう。それだけ難しいのだ。

 リーリアにはファイアーボール連射七発できれば教えるといってある。俺が十連発した時と同じ時間で七発だ。

 

「えぇぇ! そんなの無理だよー!」

「大丈夫、リーリアならできる」

「うん……頑張るけど……」


 五歳の時は二連発だったのが今や五連発まで上達した。

 これにはリヴァイアサンも舌を巻いており、


「我、リーリアにもそのうち負けるのではないか……」


 なんてぼそぼそ言っていたのを俺は聞き逃さなかった。

 もちろん俺は言ってやった。


「何を今更……あと五年でお前を抜けると思うぞ」

「え……」


 リヴァイアサンはさすがにショックを受けている。

 仕方ないな。


「でもお前もリーリアの師匠だろう。弟子が強くなるのは嬉しいだろ?」


 そう言うとハッとこちらを見る。

 尾鰭をバシャンと一振り。首を大きく伸ばしてみせ、


「そうであったな! 我のおかげでもあるのだ! ふはは!」


 ご機嫌であった。よしよし。

 

 さて、今日はこんな話をしている場合ではないのだ。

 俺は一大決心したことをリーリアに伝えることにした。




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