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125、決着!



「ではそろそろ本気で行くか」

「ふふふ、それは楽しみなのだ」

「よし、ここは一発!」

「──っ! おぬしまさか!」


 俺はスーパーノヴァを発動させた。

 観客席を守っている結界を境目に俺たちのいる場所で大爆発が起こる。

 あまりの爆音と衝撃に観客はパニックとなった。


「落ち着いて下さい! この結界はどんな衝撃や魔法にも耐えられる強力な結界です! 観客の皆さんは安心してください!!」


 実況が叫ぶが逃げ出す者が大勢いた。

 それほどまでに目の前で起こっていることが怖ろしかったのだ。


 スーパーノヴァが収まり辺りが徐々に静かになっていくと、今度は今まで見ていた闘技台が無くなり、底の見えない深淵の穴ができていることに驚愕し絶句した。


「こ、これはなんということでしょう! ベアル選手の魔法により闘技台が──いえ! 大地がなくなってしまいました!! これでは場外負けの判定ができません!」


 観客は呆然とする。

 こんな破壊力のある魔法を間近で見たのだから当然だ。


「──っと、そんなことよりもレヴィア選手はどうなってしまったのでしょうか! ま、まさか今の魔法で亡くなってしまったのでは!?」


 これでは試合どころではない。レヴィアが死んでしまった。

 観客のほとんどはそう思っただろう。

 そんな観客の視線は俺に集中した。

 大穴の上で宙に浮いている俺は空を見上げた。

 それにつられるように観客も空を見上げ始める。

 

「べ、ベアル選手が空を見上げています! …………あ! あれはもしかして!!」

「──レヴィアだ。スーパーノヴァを発動したとき、一瞬の判断で空に飛びあがっていた。そしてスーパーノヴァの爆風を利用して一気に空高く舞い上がっていたんだ」

「なるほど! そんなことがあの一瞬で行われていたんですね!」 


 レヴィアはゆっくりと俺と同じ高さまで下りてきた。

 そして睨むようにして文句を言ってくる。


「いきなりやりすぎなのだ! 我が粉々になったらどうするのだ!」

「俺はレヴィアのことを信じてるからスーパーノヴァを発動したんだ。お前はこんなものじゃ死なないってな」

「うぐっ……信じてもらえるのは嬉しい……って違くて! これじゃ場外負けがなくなってしまったではないか」

「…………そういえば忘れていたな」

「ベアルよ……おぬしたまに抜けておるよな」

「うるさい……こうなったらどちらかが負けを認めるまでやるしかないな」

「それしかないようだな」


「どうやらレヴィア選手は無傷のようです! 信じられません!! 果たして勝負の行方はどうなるのでしょうか!」


 実況の言葉を皮切りに俺たちは動き出す。

 互いに相手に向けて一直線に進む。

 俺が接近戦を仕掛けるのは意外だったらしい。驚いた顔をしている。

 レヴィアの手が伸びてくる。俺はそれを素早く手で払いのけると軽いジャブを放つ。

 ジャブを顔面で受けたレヴィアはのけぞるが、すぐに立ち直ると再び手を伸ばしてくる。

 ワンパターンだなと思いながらそれをまた払おうとするが、今度は手から水球ウインドボールが放たれた。

 近距離で放たれた水球ウォーターボールだったが、当たる直前に「ふん!」と気合を入れ魔力ガードでかき消した。

 水球ウォーターボールの直撃を受けても微動だにしなかったが、さすがに一瞬の隙はできた。

 その間にレヴィアは手の届かない位置まで後退している。


 むしろ中間距離は好都合とばかりに俺は長めの石槍ストーンランスを発動させ、それを手に持ち構えた。

 俺が二人分くらいの長さの石槍ストーンランスで高速突きを放つ。

 観客の目には全く見えていないであろう突きを、レヴィアは少しの動作で躱して見せた。

 俺の動きは止まらずに執拗に突きをし続け、段々と速度を加速させる。するとレヴィアは避けるのに必死になっていき徐々に後退していく。穂先が少しずつレヴィアの体をかすめ、擦り傷を増やしていった。

 そしてついに、結界の壁際まで追い詰めた所で、槍の穂先はレヴィアの右腕を貫いた。


「うぐっ!!」


 レヴィアはすぐにそれを抜こうとするがもう遅い。

 俺はレヴィアの両肩を掴むと、そのまま結界の壁へと押し付ける。


「降参するか?」

「まさか! 我はまだまだやれる!」

「そうか……ならばこのまま押しつぶす!」

「うぐぐぐぅ!」


 結界に押し付けたまま強引に力技で肩を押し続けた。

 レヴィアは苦悶の表情をしてなんとか逃れようともがく。

 結界は触れるものを消滅させようと働く効果がある。

 そんなものに長時間当てられるのは膨大な魔力消費を招いてしまうのだ。

 このまま魔力切れにしてしまおうと押しつぶすが、レヴィアもこのままでは不味いと空いている左手に消滅の魔力を発動させた。

 俺は咄嗟に後方へと飛び退ったのでレヴィアの左手は空を切った。

 

「あぶないあぶない」

「ちいぃ! よけるな!」

「無茶を言うな!」


 気を付けなくてはならないのが消滅の魔力。

 掴まれなければそれでいい。

 そうすればいずれはレヴィアの魔力が先に尽きて降参するしかなくなるだろう。


 この一瞬でレヴィアは石槍を引き抜くと、右腕は瞬時に回復した。

 やはり人の姿でも再生能力は一級品のようだ。

 

「やはりおぬしに出し惜しみしては全く歯が立たないみたいだ。我はここから本気で行くぞ!!」

「ああ──こい!」


 レヴィアの魔力が両手の平に集まっていく。

 消滅の魔力を両手に覆うと、戦闘の構えをする。

 そのプレッシャーはケツァルをも超えていた。

 すでにレヴィアは魔獣としては桁外れの域へと達していたのだ。

 不用意に飛び込めば一瞬にしてバラバラ……いや、俺と言う存在がこの世から消えてしまうだろう。

 そう思えるほどの異様な魔力と空間を歪ませるようなプレッシャーを周りにまき散らしていたのだ。

 現に観客の一部は、そのプレッシャーに負けて失神してしまっていた。

 失神していない者も無言になり、体の震えが止まらずに、ガタガタと足を鳴らす。それが合唱となり、場内に地震ののような地鳴り音が響き渡っていた。


 そんなレヴィアを見て、俺は思わずニヤリとしてしまう。

 ああ、この緊張感は何度味わってもたまらない。

 本当にレヴィアというやつはなんて最高の女なんだ。

 俺は素直にそう感謝していた。


「ではベアル……いくぞ!」


 レヴィアは今までにない速さで飛び掛かってくる。

 俺は時間稼ぎにと火槍ファイアランスを放つが、右手をかざしたレヴィアによってそれは消滅してしまった。


「すべてを消滅させるのだぞ! 忘れたのか!」

「ちっ!」


 レヴィアに張り付かれた俺は、連続攻撃をすんでのところで躱していく。

 手の平に気をつけながら腕を払ったり、回避したりして直撃をすべて避けて行った。

 カウンターとばかりにレヴィアにもパンチをお見舞していく。

 俺の攻撃はすべてヒットするが、レヴィアはめげずに何度も攻撃を仕掛けてくる。

 

 だが、その攻撃は俺には通用しない。

 何故なら消滅の魔力で覆ってある両手にだけ集中していればいいからだ。

 攻撃が当たらないことに苛立っているのかレヴィアの攻撃は段々と大降りになっていく。

 そこをすかさずカウンターしてレヴィアの体と心にダメージを与える。

 よろめくレヴィア。

 こちらに向ける視線は段々と弱くなっていった。

 

 そんな時だった。

 苦し紛れか両手を上げ突っ込んでくるレヴィア。

 ここまでかと思い、俺はその両腕を掴みまた壁際へ押し込もうとした。

 その時だった。

 レヴィアの蹴りが俺のモモにヒットする。

 なんてことない蹴りだと思った。

 だがその瞬間──激痛が走る。

 その激痛と共に、それが消滅の魔力だったと理解した。

 俺のモモから下が切り落とされなくなっていたのだ。


「ぐああぁぁぁぁ!!!」

「ベアルぅぅぅ! 降参するのだああぁぁぁ!!!」


 レヴィアは両手で俺の腕を掴む。

 すると今度は腕がちぎれ大穴へと落下していく。


「ぐうぅぅ! スーパーノヴァァァァ!!!!」


 一瞬の判断で俺は眼前でスーパーノヴァを発動させた。

 爆風により、互いの距離が開く。

 

「くそっ! いってえ!!」


 いくら魔力でガードしているとはいえ爆風により傷口が傷む。

 すぐに回復しなければ!

 俺はエンシェントヒールを発動させようとしたが、爆風の中から飛び出してくる者がいた。


「時間は与えぬ!!」


 レヴィアが猛然と俺に突っ込んでくる。

 両手両足に消滅の魔力がかけられていた。

 

 くそっ! 両手だけって言ってたのは噓だったのか!

 完全にしてやられた。

 あのレヴィアに騙されるとは!


 俺の脳内に戸惑いが走る。

 ──ちっ! まずい! こんなことを考えている場合ではない!!

 瞬時にその考えを打ち払い、最善の策を考える。


 脳をフル回転させ、何をすべきなのかシミュレートする。

 一瞬の思考の間に判断を下した俺はそれを実行するために行動に移す。


 突っ込んでくるレヴィアに向けて巨大な石壁ストーンウォールを張った。

 当然の如く、レヴィアはその石壁ストーンウォールを手で払おうとした。

 だが、そこでレヴィアは戸惑った。

 なんと手で払った部分だけが消えていて、他の部分は残っていたからだ。


「くそっ!」


 慌てたレヴィアは何度も攻撃をして自身が通れる穴を作る。

 この時間、ほんの2秒にも満たなかっただろう。

 しかし、俺には十分すぎる時間だった。


 エンシェントヒールによって手足を再生させた俺は、レヴィアのいる場所に向けて魔法を放つ。


絶対零度アブソリュートゼロ


 レヴィアを中心に冷たい空気が辺りを漂い次の瞬間には巨大な氷塊ができた。

 氷塊は大穴に向けて落ちていくが、すぐにパリンと氷塊が割れる。


「こんなもので我は倒せんぞ!」

「わかっているさ」


 今度は割れた氷塊が小さな氷礫こおりつぶてとなってレヴィアに襲い掛かった。

 

「うぐぐぐぅぅぅ!!!」


 両手両足で氷礫をかき消していくレヴィアだったが数が多いせいか処理しきれずにダメージを与えていく。

 その間に俺は巨大な石球ストーンボールを作ったかと思うと、それを派手に割り、今度は石礫を作った。

 石礫をレヴィアへと放つ。

 あまりの数にレヴィアはガードだけに専念をしだした。


「うぐぐぐくそぉぉ!」


 俺はそれを何度も繰り返し、レヴィアをその場に貼り付けにする。

 たまりにたまった石礫は嵐のように襲い掛かる。


「うるさい礫だ!!!」


 レヴィアはそれに嫌気がさしたのか、消滅の魔力を解除し、全身の魔力ガードを強化した。

 それにより石礫は粉々に砕け散り、バラバラと落下していくのであった。


「お前の消滅の魔力が完成していたら……この勝負どうなっていたか分からなかったな」

「────っ!?」


 俺はレヴィアの背後へと回っていた。

 レヴィアの両腕を掴むとそのまま後ろに回し押さえた。

 背中に膝を当て壁に押さえつけながら俺は魔力吸収を開始した。


「ああぁぁぁ力が抜けて……」

「もうお前の負けだ」

「いやなのだぁぁぁぁ!!!」

「では最後まで魔力吸収で吸い取ってやる」

「ああぁぁぁ……!!!」


 数分後、レヴィアは気を失った。

 魔力を失いすぎたのだ。

 俺はレヴィアを抱きかかえると実況に視線を送った。

 すると呆然と見ていた実況はハッと気がついた。


「べ、ベアル選手の優勝です!!!!」


 …………うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

 

 観客も同じ状況だったのだろう。

 震えながらも遠い意識の中戦いを見ていた。

 実況の台詞でやっと我に返ったのだ。


 こうして世界最強決定戦は俺の勝利で幕を閉じたのだった。



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