124、決勝戦
その後の試合は楽なものだった。
なんせ、戦う前から相手が戦意を喪失しているのである。
皆ユンゲラとの戦いを見ていたようで、まるで子ども扱いするような戦いぶりに敵うわけないと思わせるのには十分だったようだ。
ある程度全力で戦った後に降参してくるという流れが続いた。
そんなこんなで決勝戦。
予想していた通り、レヴィアが勝ち残った。
レヴィアの戦い方は圧倒的というよりは試行錯誤しているような戦いが続き、最後に逆転をして勝つという流れを繰り返していたようだ。
逆転劇は観客の心を魅了する。その為レヴィアにはファンがいっぱいできた。
見た目も麗しい女の子なのに年齢はミドルということで『ロリ姉ちゃん』という妙なあだ名がついたほどだ。
今では俺よりもレヴィアに対する応援のほうが圧倒的に多かった。
「ロリ姉ちゃん頑張れー!」
「今回も逆転勝利を見せてくれー!」
「レヴィアー可愛いぞー!」
「勝ったら結婚申し込むぜー!」
「「「それは止めておけ」」」
レヴィアは観客の声など我関せずといった風であった。
そんなことよりも俺と戦えることを喜んでいるようであり、表情を見ればそれが伝わった。
「さあ、ついに決勝戦となりましたが勇者様、ここまでご覧になられていかがでしょうか?」
「私にとっては予想通りの展開だった。ベアル選手はもちろん、レヴィア選手も私を超える実力を持っている。世界最強決定戦の歴史上稀に見ないハイレベルの戦いを期待できるだろう」
「おおっと! これは期待ができそうです! わたくしも今からワクワクが止まりません!!」
解説が盛り上がってる最中にレヴィアが近づいてきた。
「ベアル! 今日は勝たせてもらうぞ」
「ほう、自信があるのか?」
「あるのだ!」
自信満々にそう言い放つ。
屈託のない笑顔がまぶしい。
「それでだな! 我と賭けをしないか?」
「賭け?」
「ああ、昔やったであろう? 我とお主が久しぶりに島で再開した時のやつだ」
「そういえばそんなこともあったな! 2つお願い事を聞くってやつな」
「そうだ! 今回は1つのお願いでいいから賭けないか?」
レヴィアの提案は悪くない。
昔の願いがまだ1つ残っているから、俺が勝ったら2つの願いを聞いてもらえることになる。
ていうかレヴィアのやつは意外と律儀だな。俺も忘れかけていたことをずっと覚えていたのか。
「分かった、それでいいぞ」
「本当か!?」
「まあ勝つのは俺だけどな」
「くっ! その余裕な顔を絶望に叩き落としてやるのだ!」
踵を返し、定位置へスキップで戻っていくレヴィア。
ご機嫌なようで何よりだ。
「大変長らくお待たせしました! それでは決勝戦を開始させていただきたいと思います!! では、勇者アナスタシア様! 開始の合図をお願いします」
「それでは────試合開始!」
まずは様子見だ。
得意の火球を次々と放つ。
レヴィアは器用に左右に躱す。だが火球のすべてに魔力の糸をつないである。避けたからと言ってそれで終わりではない。
放ったすべてを意のままに操り、執拗にレヴィアを狙う。
「くっ! 多い!!」
レヴィアは避けるのに精一杯だが、俺は追尾をしつつ、さらに火球を量産し続ける。
空中に待機させている火球が300を超えたあたりですべての動きを一旦ストップさせた。
「くっ! いつの間に!」
「いくぞ」
「~~っ!」
手を振り下ろしすべての火球が闘技台の上へと降り注ぐ。
雨のように落ちてくるからさすがのレヴィアも避けられない。
火球は連なるように燃え広がり巨大な柱となって上空へと燃え上がる。
炎の中で立ちすくんでいるレヴィアの姿が見える。
観客の悲鳴が響き渡る。
それほどまでに強力な火炎が闘技台を包んでいたのだ。
しばらくして火が消えると、そこには風魔法でガードしているレヴィアがいた。
闘技台は石炭のように黒くなっているが、レヴィアの足元だけが綺麗な原型を留めている。
場内に安堵のため息が合唱のように響いた。
「本当におぬしは容赦がないな!」
「ふっ、手加減してほしいのか?」
「まさかっ!」
レヴィアはまた走り出す。
なんとかして俺に近づこうとしている。
俺と遠距離でやりあうのは割に合わないことを分かっているのだ。
真剣勝負であるため俺も易々と懐に入れるわけにはいかない。レヴィアの勝機が接近戦にあるのは分かっているからだ。
俺は巨大な風壁を前方一面、闘技台上に壁を作るように展開する。
それを分厚くすると、レヴィアへ向けてゆっくりと解き放った。
強力な暴風壁がレヴィアの行く手を阻む。
レヴィアが咄嗟に張った風盾がぶつかりゴォォォと轟音を奏で、一歩また一歩と後方へ後ずさっていくが、風壁にめり込むように入っていくと、あとはすんなりと通過した。
「修行の成果が出ているな」
「おぬしにみっちりと叩き込まれたからな!」
レヴィアは俺に飛び掛かるようにダッシュする。
だが俺も次の手は打ってある。
ぴちゃ。
レヴィアの足元に水たまりを設置していた。
「ライトニング!」
その水たまりに向かってライトニングを発動した。
「うぐっ!」
まともにくらったレヴィアは一瞬動きを止めた。
その一瞬だけでよかった。
レヴィアの眼前には巨大な石球が迫っていた。
高速で放たれた石球をレヴィアは避けることができない。
「ぐうううぅぅぅぅぅ!!!!」
ゴンッ!
嫌な音が場内に響く。
何か硬いものがあたった音のようだ。
ピシッ!
俺の石球にヒビが入った。
ピシピシッ!
縦に綺麗にヒビが入ったかと思うと、さらに鈍い音が大きく「ゴンッ!」と鳴り響く。
次の瞬間、石球は粉々に砕け散った。
砕け散ったその先にはおでこを突き出しているレヴィアが見えた。
どうやら頭突きで壊したようだ。恐ろしい奴だ。
少し意表を突かれたせいで、眼前までせまっているレヴィアの対処に遅れた。
レヴィアは手を伸ばし俺の腕を掴もうとしている。
────っこれは!
危険を察知しその手首を寸前で掴む。
そのせいか体が密着してしまい。レヴィアと間近で顔を見合わせる姿勢になってしまった。
「なっ……ち、近いぞベアル!」
かといって手を離すわけにはいかない。
そのまま背中に手を置き抱き寄せると、まるでダンスをするような体制となった。
「お前……完成したのか?」
「気がついたのか!?」
掴んだ手を凝視すると、何やら手の平にオーラのような魔力が集まっていた。
レヴィアはふふふと笑った。
「さすがはおぬしだな。その通り『消滅のブレス』だ。まだ手の平に発動させるのがやっとだがな。我はこれを『消滅の魔力』と呼ぶことにした」
竜王が使い、竜王を吸収したオルトロスが進化させた技。
あの手に触れらると一瞬でその部分は無くなってしまうだろう。
魔力ガードしたとしても掴まれ続ければ大幅に魔力を削られることになる。
俺には魔力吸収があるとはいえ、消滅の魔力は強力だ。お互いに腕を掴んだとしてもきっと消費される魔力のほうが大きいだろう。
「なるほどな。自信があったわけだ」
「我が勝つには新しい技が必要だった。それを手に入れるためにベアルに鍛えてもらったというのは締りが悪いがこの際目を瞑ってもらおう」
「いや、負ける可能性がある戦いとほど面白いものはない。少し昔の血が騒ぎだしてきたぞ」
「ならばよかったのだ」
互いにニヤリと笑いあう。
やっぱりレヴィアとの戦いは面白い。
「──っていうかいつまでこの格好でいるのだ! さすがに恥ずかしいぞ!」
「そうか? 俺は楽しいが?」
「くぅ……鬼畜なのだ!!」
レヴィアは大きくのけぞると、頭突きをしてきた。
俺はさっさと手を離し、後方へと飛び退る。
「その頭突きは痛そうだ」
「おぬしの頭も一回割ってみて覗いてみた方がいいかもしれないぞ」
「それは遠慮しておこう」
俺はふっと笑うと、レヴィアも笑った。




