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120、神託について


 

 俺は複雑な気持ちとなっていた。

 神託の言うことなら我が子ですらも手放すという人間達にムカついていたし、そのおかげで俺は楽しい生活を送れたので感謝もしていた。


 ただやはり、自身に子供ができたとして、神託が下りたからといって子供を手放すような真似は絶対にしたくないと思った。

 無論、人間族は神が絶対であることは知っていた。

 だが、そこまで悲しい思いをしてまで海に流さなくてはいけないものなのか?

 理性では分かっているのだが感情が追いつかない。

 どうにもムカムカして仕方がないのだ。

 

「事情は分かりました……しかし今その話をする理由を聞かせていただいても良いでしょうか?」


 俺は口調は冷めている。

 棘がある言い方だがそんなことは百も承知だ。

 今すぐにでもリーリアの手を引っ張り、この場を去りたい気分なのだ。

 リーリアは俺が育てたし俺の子供だ。

 捨てたお前らが触れるな。

 自然と殺気が漂う。

 隣にいたアナスタシアがそれにすぐ気がついた。


「お、おいベアル……どうしたんだ?」

「どうもしないさ」


 レナート王はそんな俺に向き直ると静かに立ち上がった……そして。


「ベアル殿にお礼が言いたかったのだ……娘を育ててくれて本当にありがとう」


 自然な動作で見惚れるほどきれいなお辞儀をした。

 俺は咄嗟の事に目を見開く。

 まさかお礼を言われるとは思ってもみなかったのだ。


「ベアルさん……私からも言わせてください。本当にありがとうございました」


 続いてアデリーナ王妃。


「ベアル! 私の妹を大切に育ててくれてありがとう!」


 アナスタシアも笑顔でそう言った。

 俺は情けないことに「あ……いや……」と言葉が出ずに口ごもる。

 先ほどまでイライラとしていた心が急に温かくなる。

 急な温度差に感情がついていかず、自然とそっぽを向いてしまった。


「ベアルどうしたんだ?」

「なんでもない……気にするな」

「んぎゅ」


 アナスタシアが首を傾げながらのぞき込んで来ようとしたので、手で顔面を掴む。

 ……気を抜くと涙腺がゆるみそうになる。

 そんなことは絶対にさせないと必死にこらえた。


「話をしたのは育ててくれたベアル殿とリーリアにすべてを聞いてほしかったからだ。その上でお礼をしたかった……これで納得していただけるか?」

「……はい」


 王や王妃、それにアナスタシアが嘘をついているとは思えない。

 これは本心なのだろう。

 それにこの笑顔やリーリアに向ける優しい顔が偽物なはずがないのだ。

 俺はようやく冷静さを取り戻し、心に余裕ができた。

 すると脳も自然と働き始め、とあることに気がついた。

 

「では改めて問います。神託は続きがあったはずです……それはこれから起こる世界の危機に関することのはずです。違いますか?」


 俺がそう言うとレナート王は驚いた顔をした後、真剣な表情になる。


「なぜそう思った?」

「だっておかしくないですか? リーリアを海に流せというだけの神託なんて普通は従いたくないはずです……それでも苦渋の決断をできたのはそれが結果的に良いことになると分かっていたからです。神託の全容はきっとこんな感じのはずです。『産まれてくる第二王女を海に流せ、さすれば救世主となり世界を救うだろう』とか」

「…………」


 しばしの沈黙の後、王は言葉を発した。


「ベアル殿の言う通りだ。信託は続きがあり、内容もそのような内容で合っている」

「そうでしたか」


 だとしたら一応納得はできた。信心深い人間ならばなおさらである。


「きっと神はベアル殿に拾われるのも分かっていたのだろう。こんなに立派に成長し世界を救える力も有しているという。自分たちの力ではこれほど強くは育てられなかったであろう……」


 そう言う王の目は悲しそうだった。

 本来であれば自分たちの手で育てて上げたかった。世界を救う力を授けたかった。そんな目だった。

 王の言葉に王妃も同意をする。


「私は一度は神を恨みました。心が癒えるまでたくさんの月日を必要としました。ついこの間までずっと心にしこりが残っていたのです。ですがリーリアをこの目でみて分かりました……神は間違っていなかったのだと。もしもあの時神託が無くこの城で育てていたとしたら……きっと辛い日々を過ごさせていたでしょうから……」


 リーリアの中に星の精霊であるセレアが宿っている。その為リーリアには魔力があった。

 人間なら誰しも持っている法力が無く、逆に魔力がある。王女がそんな状態だったらいろいろと疑われたり爪弾きされたりしてもおかしくない。きっと第一王女であるアナスタシアと比較もされるだろう。


 王も王妃もリーリアの戦いを見てそれを感じたのだ。


「だから改めてもう一度言う。ベアル殿、娘を強く立派に育ててくれて感謝する」


 レナート王は笑顔でそう言った。

 ……俺も変な風に考えるのはよそう。素直にそのお礼を受け取った。


「いえ、俺こそリーリアに人生を助けられました。リーリアを産んで下さりありがとうございました」


 深々とお辞儀をした。

 前の席では「あぁ……」といってすすり泣く声が聞こえる。

 

「泣かないでお母さん。私もベアルお父さんと出会えて幸せだよ。それにいっぱい家族がいるってことが分かって戸惑ってはいるけれど、みんなと仲良くしていきたいと思ってるから」

「あぁ! リーリア!」

「うぅぅぅぅリーリアーーー!」


 わんわんと泣きながらリーリアに抱きつく王妃とアナスタシア。

 リーリアはよしよしと二人の背中をさすっていた。


 



「ベアル殿、話を進めるが最近になってまた神託があったのだ」

「──なっ! それはどのような!?」

「コロシアムにて救世主がやってくる。救世主と勇者、その仲間と共に魔族大陸へ向かい、力を合わせダンジョンへと潜れ。さすれば新たな力を手にするだろう」

「魔族大陸!?」


 なるほど。

 ダンジョンは強くなるにはうってつけの場所だ。

 出てくる敵も魔獣ではなく魔物と言われるものだ。

 魔物は魔力を豊富に持っていて、倒すと魔力が大量に手に入る。

 最下層の敵は変わった技も持っており、俺の『黒い炎』も異世界の魔王を名乗っていた『漆黒竜アポリオンロード』を倒して精霊化させたものだ。

 新たな力を手にするということならダンジョンに行くしかない。


「もちろん私もお前たちと一緒に行くぞ! 神託にも私の存在はあるのだからな! 父上、母上いいですよね?」

「ああ、もちろんだよ」

「気をつけてね……」


 席を立ち、王と王妃にハグをしにいくアナスタシア。


「ではいざ魔族大陸へ!」

「いやいや、明日は俺の試合があるんだが」



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