118、第二王女
「できれば他の者たちには退席してもらいたいのだが」
「申し訳ないのですが、既にこの者たちは俺たちの事情を知っています。結局は後々説明することになるので、出来ることならばこの場に同席させていただきたいのですが」
「そうか……ならばわかった」
「ありがとうございます」
俺は丁寧にお辞儀した。
その様子を見ていた他の面々は目を丸くする。
「ベーさんって敬語できたんだ。てっきり──」
「こら! シャロ!」
「ふぐっ」
なんとはなしにつぶやくシャロの口をナルリースが塞ぐ。
……まあ、シャロの言いたいことはよく分かるが、あいつに言われるとムカつくのであとで何かしてやろう。
レナート王は警備兵に合図を送ると兵は全員部屋から出て行った。
この部屋には大理石でできていると思われる円卓があった。
そこの上座に王が座り、王の斜め前には王妃とアナスタシアが座った。
王妃がリーリアを手招きして自身の横に座らせた。
となると俺はアナスタシアの横だなと思いそこに座る。
他の仲間は空いてる席に適当に座った。
「さて……ではどこから話そうか」
「結論から言っていただけると」
「そうか、ではそうしよう」
王は一つ深呼吸をしてこう言った。
「リーリアは私たちの娘……第二王女であるモニカなのだ」
息をのむ音が聞こえた。
それだけこの場は静まり返っている。
だが、驚いているものはいないようだった。
当人のリーリアでさえ、まるで他人事のように平然とした顔をしている。
それは事前に『そうかもしれない』ということを予想していたからだ。
「何となく想像はついていました。ですがそれを示すものはあるのでしょうか?」
証拠はあるのかと問う。
言うだけなら誰でもできる。
もしかしたらリーリアが可愛いので娘にしたいだけかもしれないのだ。
……自分で言っておいてそれはないだろと突っ込みたくなる酷い理由だが。
「もちろんあるぞ……アデリーナよ」
「はい」
嬉しそうに返事をするとアデリーナ王妃は立ち上がった。
「私はこの時をずっと待っていました。12年前……モニカを手放さなくてはいけなくなったあの時から!」
そう言って我慢できないとばかりにリーリアの事を抱きしめる。
これにはさすがのリーリアも戸惑い、顔だけこちらを向けて「どうしよう」といった表情だ。
俺の心中も穏やかではなかったので、「すみませんがリーリアも戸惑っております。事情は分かりましたがまずは証明の方をお願いします」と言った。
「すみません……本当に嬉しかったものですから……では行きますね」
アデリーナ王妃は何かをブツブツと唱えると青白い光が全身を包んだ。
青白い光は魔法陣を形成し、リーリアの頭上へ浮かび上がる。
魔法陣が勢いよく回転し出すと、リーリアの体も青白く発光しだした。
「リーリアッ!!?」
「大丈夫だ! 害はない!」
俺が身を乗り出そうとすると、アナスタシアが俺の腕を掴む。
リーリアの体から頭上の魔法陣と同じものが胸元で浮かび上がった。
「ほとんど破壊されてますね……これはベアルさんがしたことですね?」
「ああ、邪魔だったからな」
「なるほど、さすがですね……ではいきます!」
アデリーナ王妃はさらに眩い光を放ち力を強化する。
するとリーリアの胸に輝いていた魔法陣は音もなく粉々に砕け散った。
「これが証拠となります。ベアルさん、あなたならもうおわかりでしょう?」
「……なるほどな」
不思議そうに自身の胸元をみていたリーリアはまたギュッと王妃に抱きしめられる。
リーリアはまた顔だけをこちらに向けて、「どういうこと?」と疑問を浮かべていた。
「……リーリアが島に漂流してきた時、体には強力な結界法術が張られていたんだ。それはかなり高位の法術使い……例えば聖女や聖天師しか使えないような結界だったんだ」
そう言ってアデリーナ王妃を見る。
王妃はこくりと頷いた。
「現状、聖女はわたくしだけとなっております……それにこれは私独自の法術であり他のものには解くことができない作りとなっていました」
「だが俺が強引に破壊したと」
「ええ……」
当時、結界法術を破壊した時かなりの魔力を消費した。
これほど強力な結界は勇者アランに匹敵する力だとその時は思ったものだ。
そして、そんな力を持つものは類い稀な存在であるわけで……。
目の前で解除するところを見せられれば、結界を施した本人であると納得するしかなかった。
「リーリアがあなたの子だということは分かりました……ですが何故海に漂流することとなったのですか?」
「それは……」
アデリーナ王妃がとても悲しそうな顔をした。
「それについては私が話そう……アデリーナよ、疲れたであろう? もう休んできてもいいのだぞ」
「いいえ、私はここに残ります」
「……そうか、分かった。無理だけはするなよ?」
「ありがとうございます」
王は優しく王妃の手を取る。
見つめあう二人には互いを思いやる気持ちが溢れていた。
「すべてはセクト様によるお告げから始まった」
レナート王はおもむろに語りだした。




