116、リーリアvsアナスタシア 2
「今度は私からいくぞ!」
アナスタシアは背負っていた盾を取り出し構える。
「シールドブーメラン!」
盾を思い切り放つと回転をしながらリーリアを襲う。
直線的な軌道であったため、難なく躱すリーリアだったが、そこにアナスタシアが斬りかかる。
ガキンと鈍い音をさせギリギリと剣を交える。
抑えつけられているその時、リーリアの後方からシュルシュルと何かが回転する音が聞こえた。
「ぐっ!」
咄嗟に剣を離し、床を転がった。
丁度胸だった辺りを回転した盾が通り過ぎる。
間一髪盾を躱すに成功したが、剣を手放してしまったのは致命的だ。
そのチャンスを見逃すアナスタシアではない。
怒涛の勢いで剣を振るい追い詰めていく。
土魔法で剣を作り出しなんとか防いでいたリーリアだったが、青白い光を放つアナスタシアの剣の前には紙切れも同然だった。
アナスタシアの連撃の隙を突き、反撃にでようとするものの、飛んでくる盾がリーリアの行動を制限する。
連撃、盾、連撃、盾……。
あっという間にリーリアは闘技台の端へと追い詰められた。
「これで終わりだ!」
アナスタシアの剣と盾が同時に襲い掛かる。
斜めから振り下ろされる剣、真横から飛来する盾。
どっちか一つをガードするのも難しいのにほぼ同時の攻撃だ。
「はあああぁぁぁぁぁ!!!」
リーリアは剣の方に全集中し、それを両手で挟み受け止めた。
「こちらを選んだかリーリア! 私の勝────」
ガシャアァァァン!!
盾に吹き飛ばされたのはアナスタシアだった。
ゴロゴロと転がるが、かろうじて指を床にめりこませ場外を逃れる。
「なっ! なんだと!?」
驚いた顔でリーリアを見る。
リーリアは既に落ちていた剣を拾い上げていた。
「私が操作を誤った!? いや、そんなはずはない……とするとリーリアの魔力の糸か!!?」
「うん、正解」
平然とそう言ってのけるリーリア。
だがアナスタシアは首を振る。
「いや、操作された感覚はなかった! そんなことをされれば私も気がつくはずだ! 一体どうやって!?」
「ううん、操作する瞬間はあったよ……一瞬だけね」
「え?」
「これ見て」
リーリアはそう言って脇腹を見せた。
そこには血がにじんでいた。
「当たった瞬間だよ……その一瞬、油断したでしょ?」
「…………くっ、まいったなこれは」
一か八かの賭け……いや、もっと分が悪かったかもしれない。
リーリアはその勝負に平然とした顔で臨み、勝ったのだ。
「それに盾の強化は最大じゃないでしょ? 殺さないように手加減してるのは分かってたから」
「それはお互い様だからな」
二人とも攻撃力が高すぎるために技をセーブしなくてはならない。
殺してはならないというルールということもあるが、そもそも好きな相手に深刻なダメージを与えたくはないのだ。
互いに場外を狙っているということだ。
「ふふ、これは試合が長引きそうだな」
「うん、でも楽しいよ」
「私もだ」
試合は時間いっぱいまで続いた。
二人とも楽しそうに笑っていて、互いに死力を尽くし戦った。
観客も二人の戦いを存分に楽しんでいた。
もはやどっちが勝つということよりも、一分でも長くこの試合を見ていたいという気持ちの方が大きくなっている。
だが無情にも時間は迫っていた。
「両選手の激しいバトルが続いております! ですが残念ながら残り1分となりました!! 実況の私もずっと見ていたい気持ちでいっぱいですが決着をつけねばなりません!」
この実況を聞いた観客も残念そうに不満を漏らす。中にはブーイングをする者まで現れる。
「私だって終わってほしくありません! ですが終わりは必ずくるのです! 明けない夜はないのです!!」
実況にも力が入る。
その実況を聞いていたのかは定かではないが、リーリアとアナスタシアの動きが止まった。
「もう終わりなんだね」
「そうだな……私も永遠にこうしていたかったぞ」
「でも終わらせないとね」
「決着をつけようか!」
「うん!」
その場で互いに集中する。
リーリアは魔力を、アナスタシアは法力を高める。
「残り10秒です!!」
実況の合図で互いに駆けだす。
「はああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「てやああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
轟音がしたと思ったら、二人の体が宙に舞っていた。
互いに気を失っているのか動くそぶりはない。
そして、一人は闘技台の上。
もう一人は場外に落ちた。
闘技台の上に落ちた者はふらふらと立ち上がる。
周りを見渡して状況を確認し、自身の勝利だということを理解する。
リーリアは勢いよく拳を突き上げた。
「勝者────リーリア!!!!!!」
うおおおおおおおおおおぉぉぉっぉぉぉぉぉ!!!!!!!
耳を塞ぎたくなるような歓声が会場中に轟く。
「真チャンピオンの誕生だ!!!」
「最年少記録を達成したぞ!!!!」
「うおぉぉぉ! リーリアァァァァ!!!!」
鳴りやまない歓声。
それは興奮が収まらない中、しばらく続いたのだった。
こうして歴史に刻まれる世紀の一戦が終わった。




