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12、精霊についてと新精霊



 リヴァイアサンに「もう一つの命令は残しておく」と言っておいた。

 そうしたら「命令じゃない、頼み事だ」と否定していた。

 ぶっちゃけ一つ言う事を聞いてもらうという事には変わりないのだがニュアンスの問題らしい。


 そんな話をしていたら、リーリアがこちらに近づいてきた。


「お父さんもリヴァちゃんも楽しそうでずるい!」


 別に楽しかったわけではないんだけどなあ。

 

「我とベアルは旧知の仲ではあったが親しかった訳ではない」

「そうだな、ここで一緒に会話できているのはリーリアがいるからだぞ」


 リーリアはジト目になり「やっぱり仲いいじゃん」とぼそぼそ言っていたがそれは聞こえないフリである。

 譲れない一線というものがあるのだ。

 はぁとため息をつくとリーリアは気を取り直して、


「お父さん前に言ってたけど、精霊さんが上級になると発声なしで呪文が発動できるんだっけ?」


 俺とリヴァイアサンの戦いが衝撃的だったのだろう。

 あの日からリーリアの魔法訓練は身が入っていた。自分なりに複合魔法の練習もしていたが上手くいかないみたいだ。

 

「そうだ、どちらかというと一方通行に近いが、こちらが思ったことがすぐ伝わるようになる」

「なるほど……精霊さんの思ってることは分からないの?」

「いや……精霊は意思がない。基本的にこちらから問いかけることになり、その返答が"はい"か"いいえ"か"無言"で返ってくる」

「うーん……それはちょっと寂しいね」

「そうだな」


 会話できればどんなに良かった事だろう。

 300年の島生活も少しは心穏やかに過ごせたのではないだろうか。


「そうそう、上級精霊となればこんな事ができる」


 俺は空に手をかざし、魔力を込めるとファイアーボールを十連射して見せた。


「わ! すごい!」

「ふふっ」

「むう、さすがに速いな。我もすごいがベアルには負ける」


 対抗してリヴァイアサンも連射して見せるが同じ時間で八連射まで。

 

「ふえー二人ともすごいよー……でもこの差が勝敗を分けることもあるんだよね?」


 

 その通りだ。

 ファイアーボールと発声している間に、俺はこの十連発を叩き込める。

 その十連発のうち一発でも当たればダメージになるし、隙になり次の攻撃に繋げる事もできる。なので連射はより速く、より強力にできることに越した事はない。


「どうだ、できるのとできないのとじゃ全然違うだろう?」

「うん、すごい!」

「ただな……注意しないといけないのが全ての精霊が上級にできないかもしれないってことだ。例えば火の精霊できても、水の精霊とはできないかもしれないぞ」

「え? 精霊によって、上級にできる子とできない子がいるの?」

「ああ、人によって得意な精霊と苦手な精霊がいるみたいだ」

「そうなんだ……ちなみにお父さんは?」


 その言葉待ってました。

 俺はどや顔になる。


「俺は四大精霊すべてが上級だぞ」

「さすがお父さん! すごーい!」


 リーリアのキラキラした尊敬の眼差しも大好きだ。


「ねえねえ! どうやったら上級精霊になるの?」

「そうだな、一番の近道は毎日魔法を使い続けることだ、魔力がすっからかんになるまでな」

「それはどうして?」

「通例ではそう言われているんだ」

「つうれい?」

「そうだな、つまり、『なんだかよくわからないけど毎日火の魔法使ってたらいつの間にか上級になったぜ』ってことだ」

「……ふにゅ」


 リーリアは首をかしげる。

 どうやらこの返答に不満があるみたいだ。

 頭のいい子だからしっかりとした理由が欲しいのだろう。

 しかし精霊と話せる訳ではないので何故そうなるのかは本当にわからないのだ。

 ある日突然"つながる"感覚がして上級精霊になっている。

 

「精霊と契約するってのは不便だな。我は使役しているので強制的に我の魔力を吸わせたが……」

 

 先ほどから黙っていたリヴァイアサンがそんなことを言い出した。

 

 ん? 吸わせる?


「吸わせるってどういうことだ? 魔法を使う以外でも使役するのに必要なのか?」

 

 俺がそう言うとリーリアがハッとしたような表情を見せる。


「もしかしてリヴァちゃん、その精霊さんを成長させてるの?」

「ん? 今更何を言っている。精霊は我々の魔力で成長する、そうして上級精霊にすることにより使える魔法も増えるのだろうが」

「……まじ?」


 今まで知らなかった事実。

 え、俺の勉強不足なの?

 一般常識が俺には無かったの?

 いやいや、今までそんな話聞いた事なかったし!

 そもそも精霊が魔力で成長しているとかわからんし!

 でもそうすると辻褄があうな……。


 精霊は契約することで魔力をもらう代わりに魔法という能力を与える。そしてもらった魔力で成長し上級へとなる。そうして魔法の種類も強力になる。そしてまた上級魔法を使う事によりもらえる魔力が増えると……。


 なるほど、これは相互利益の関係だ。

 俺たちにはメリットしかないわけだ。

 魔力というものは使わないで溜めすぎていると頭痛や倦怠感などを引き起こしてしまう。なので魔力操作や魔法によってたまには放出しなければならない。

 でも精霊にとっては必要なものなので、魔力を人から貰おうということか。

 世界は上手くできているんだなあ。

 

 そんなことをしみじみと考えていたら、クイクイと服を引っ張られた。


「ねえお父さん! 私も上級精霊にできるように頑張るね!」


 その顔はやる気に満ち溢れていた。

 もちろん俺の返答は、


「ああ、一緒に頑張ろうな!」




 精霊にも魔力が必要だという事はわかったが、それでも人によって成長速度が違うようだ。

 毎日同じ訓練を一緒にやっていたもの同士が、違うタイミングで上級精霊になったという話しを聞いた事がある。

 それは魔法の才能だったり得手不得手だったり……もしくはどちらかが隠れて練習していたとか、言い出したらきりがないのだが、どちらにせよ不覚的要素が多すぎる。

 でもすべてのことに言えるのは、魔法を使い続ける事が一番の近道である。

 それこそ成長させたい精霊の魔法を魔力が無くなるまで使い、回復してきたらまた無くなるまで使う。それの繰り返しだ。


 目的がはっきりわかるということは良い事だ。リーリアの今後の方針にも役に立つ。

 

 もしかしたら才能がなくてできないと思っていた人も、効率が物凄く悪いだけで、使い続けていればそのうちできるようになるのかも知れない。

 リーリアの魔法の才能は疑ってはいなかったのだが、そう考えると少し気持ちが楽になる。とりあえず四大精霊に関しては上級精霊を目指そう。



 ふとリーリアを見ると人差し指を唇につけ、考えるように首を傾げている。

 何か気になる事でもあるのだろうか。


「リーリア、どうかしたか?」

「あ……うん。少し気になったんだけど、お父さんいつも魔法を発声して発動してるよね?」

「ああ」


 そうなのだ。俺は魔法を口にして発動している。

 それはリーリアに分かりやすいようにしているだけで特に他意はなかった。

 しいて言うなら、言葉にしたほうがなんかカッコいい。それだけである。だがそれをリーリアに言うのは恥ずかしいので黙っていることにした。


「……発声したほうが気合入るからかな?」

「ふーん、そっか……でもそっちのほうがカッコいいかも」

「!!! そ、そうか!!!」


 これから絶対に発声して魔法を発動させるぞ。

 そう心に誓った。


「ベアルよ……単純なやつ」


 リヴァイアサンは呆れていた。


 

 ■


 

 その日からリーリアの様子が変わった。

 遊んでいるかと思えば、時々空に火炎球をぶちかまして、食事中の会話も「今日はリヴァちゃんと一緒に『ウォーターボール』で水遊びしたよ」という風に会話中でもしっかりと魔力を込め、海に手をかざし呪文を発動していた。

 四六時中、魔法を発動することを考えているようだ。


 常に魔力があるならば消費する。

 それができるのも島ならではの利点だ。町の中では到底できまい。

 ああ……島で良いと思える日がくるなんて。

 この事に関して教えてくれたリヴァイアサンには感謝をしなければならないだろう。


「ありがとうなリヴァイアサン」

「……突然なんだ? 気持ち悪いぞ」


 ひどい。



 ■


 

 そんなある日、リーリアが不思議なことを言ってきた。


「ねえお父さん、セレアって子……知ってる?」

「ん? 誰だ? 俺は知らないな……」

「うーん、そっか。契約できたからこの子も精霊っぽいんだけど」


 本当に誰だ?

 精霊は四大精霊はもちろんのこと、他にも多種多様にいる。

 世界のすべての精霊を知る事は不可能ではあるのだが、他人が見えているのに俺が見えないという精霊は今までいなかった。

 しかしリーリアは俺が見えない精霊と契約できているみたいだ。

 セレア……なんか引っかかる名だが……。


「そのセレアっていう子は、子供なのか?」

「うん、私と同じくらいかな」

「そうか」


 ちょっとショックである。

 自分の才能を疑った事は無かった。だが今日初めて疑ってしまった。

 ……見えない精霊がいるってことはすべての精霊を認識することは不可能なのだろう。

 別にすべての精霊と契約したいとか、そんな願望があった訳ではない。しかしできない精霊もいるという事実は正直堪える。

 


「そ、その子は何ができるのかな?」


 心の動揺を顔にださぬよう笑顔で、声が裏返りながらも言葉をひねり出す。

 気になるのはその能力。魔法としてどんな力を発揮できるのか。


「うーんわかんない」


 そんなことがあるのか……不思議な精霊だ。

 精霊は基本、契約した時点でその精霊が何の精霊か、どんな魔法が発動できるようになるかという情報が自然に体に入ってくる。

 うーむ、もしかしたらセレアという精霊は上級魔法しかないのかも知れない……これは完全な憶測だが。


「なんかまだ名前以外は聞き取れないんだ」

「ちょっとまて、話せるのか?」

「──あっ!!! そういえば話してるね! 何言ってるのかわからないけど!」


 自分から話す精霊なんて初めて聞いたぞ。

 本当に何者なんだ? 本当に精霊なのか?

 駄目だ、分からない事が多すぎる。

 しかしリーリアは違うことを考えていた。


「でもねお父さん! 私、その……女の子の友達って初めてだから嬉しい!」

「そうか、それは本当に良かったな!」

「うん!」


 まあ、リーリアが嬉しそうならそれでいいか。

 島生活で不憫な思いをさせてるからな……その意味では良かったと思う。

 正体がわからない精霊だが、きっと悪いものではない。そんな気がした。

 それに俺も興味が湧いたので温かく様子を見守ろうと思う。



 ■


 

 数日が経った。


 相変わらず魔法の練習は欠かさないが変わった事がある。

 セレアと遊ぶ時間ができたことだ。

 会話はまだできないようだが、リーリアが一方的に話すようにして砂で遊んだりしている。


 俺はそこに近づいて、


「リーリア、それにセレア、楽しいか?」


 別に俺と遊んでくれないから寂しい訳ではないぞ。

 挨拶はコミュニケーションの基本だ。


「うん! 楽しいよ! ね?」


 隣にいると思われるセレアに笑いかける。

 

「セレアはどんな感じだ?」

「笑ってくれてるよ」

「へえ……それは仲がいいな!」

「うん!」


 本当にセレアは何者なんだ?

 笑ったりできるなんてまるで人ではないか。

 精霊の輪郭はおぼろげだ。なんとなくそこにいるのが分かる程度。笑ってるなんて分かるはずも無い。

 

「……それにね、なんだかお父さんもたまに見てるよ」

「そうなのか?」

「うーん、なんか温かい目で見てる」

「温かい目……」


 それは可哀想な目って事だろうか。……それは嫌だな。

 まあ俺には見えないのだからどうしようもないのだが。

 でも見られてると知ったからには下手な事はできないな。

 立派な父として見られるように努力しよう。うん。




 そしてさらに3年が流れた。



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