115、リーリアvsアナスタシア 1
ナルリースが負けた後、一時間ほどが経過してから俺達の元へと戻ってきた。
「やっぱり敵わなかったです。もっと強くならないといけませんね」
毅然とした表情でそう言ったが、目は少し赤くなっているようだった。
シャロが気を利かせて俺の隣の席を譲ろうとしたが、「ここでいいわ」と端の席に座った。
シャロは席を立ったまま俺に、「なんとかして」と目で訴えていた。
俺は分かったと視線で返すと、ナルリースの隣に席を移した。
一瞬びくりと動いたナルリースだったが、何も言わずに視線は下を向いたままだった。
座ったはいいが、そもそもなんて声をかければいいのか分からなかった。
ナルリースは自身の事をしっかりと分かっていて反省するべきことも分かっている。
ならば俺にできることは……。
「お前はよくやった。あのスクリューアローは見事だったぞ」
そう言って頭をポンポンと撫でた。
しばらく俯いて撫でられていたナルリースだったが、そのまま抱きつく感じで俺の胸に顔を埋めてきた。
「私、悔しいです! もっと、もっと強くなりたい! それに……すぐ諦めてしまうこの気持ちが……本当は諦めたくないのに!」
そう言ってグスグスと泣き出してしまった。
俺は、「ああ」と一言答えると、頭を優しく撫で続けた。
「ベアルさん……私にもレヴィアにした修行をしてくれませんか?」
しばらくして落ち着いた後、最初の一言がそれだった。
しっかりと顔を上げて俺の目を真っすぐに見つめている。
真剣な目だ。
断る理由はなかった。
「わかった」
俺は一言そう言った。
とりあえず今夜でいいかと尋ねるとナルリースは嬉しそうに「はい」と答えた。
波乱も何もなく試合は進む。
決勝戦にまで勝ち残ったのは、大方の予想通りリーリアとアナスタシアだった。
そして、決勝戦が始まる。
実況もこれまで以上に盛り上がりを見せていた。
会場の熱気も高まり、どこから持ち込んだのか楽器も鳴り響いている。
「さあ皆さんっ! ついに決勝戦が始まります! まずは入場、リーリア選手です!」
歓声と共に姿を現すのは我が子リーリア。
堂々と歩き闘技台の上へ上がっていく。
「リーリア選手は12歳という若さでありながら、圧倒的な強さを見せつけてここまで上がってきました! 聞くところによるとエルフの国代表の娘さんであるということなので、その強さは納得と言ったところでしょうか!」
リーリアは笑顔で俺の方を見ながら手を振っている。
俺も頑張れと手を上げて返した。
「お次は皆さんお待ちかねっ! 勇者アナスタシアの入場です!」
歓声は最高潮に達する。
綺麗な姿勢でまっすぐ歩き闘技台へと上がる。そのまま中央へ立ち、拳を振り上げた。
うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
会場全体が揺れるほどの歓声。
溢れんばかりの勇者コール。
アナスタシアは満足そうに頷くと、自身の立ち位置へと移動した。
「さすがは我らが勇者様! 我らが姫様! 勇者の使命を背負った今でも国民の期待に応えて下さるでしょう!」
ん? 今なんて言った?
「うおぉぉぉっぉ!!! 姫様ー!! 今日も素敵ですー!」
「きゃああああ! 姫勇者様! 今日もカッコいいですー!!!」
俺の疑問をあざ笑うかのように観客は声援を繰り返す。
……どうやら聞き間違いではなかったようだ。
勇者であるアナスタシアはこの国の姫らしい。
「おどろいたにゃ……まさか姫だったとはにゃ」
「国民の事をよく考えているなとは思ったけど……勇者としての使命感だと思っていたわ。そういうことだったのね」
「あ~僕失礼な事いってないよねぇ?」
俺たちのところだけ温度が下がったようになっている。
それだけ衝撃的な内容だった。
「それでは決勝戦を始めたいと思います! リーリア選手、アナスタシア選手、双方準備はいかがですか?」
っとそんなことを考えている場合ではない。試合が始まろうとしていた。
リーリアもアナスタシアも真剣な表情となり、こくりと頷いた。
「それではジュニアの部決勝戦────開始!」
まず動いたのは意外にもアナスタシアだった。
剣を構えてリーリアに飛び掛かる。
リーリアも剣を取り出し、剣と剣を合わせた。
ガチンと鈍い音がして互いににらみ合う。
リーリアはそのまま流すように体をひねると、その反動を利用して後ろ蹴りをする。
それを鎧で受け止めるアナスタシアだったが、思ったより衝撃が強かったのか顔をゆがませる。
ここで動きが止まるリーリアではない。片足でバランスを取りながら体をひねり、そのまま上段から剣を振り下ろす。
かろうじて剣で防ぐアナスタシアだったが、衝撃で片膝をつくような形になってしまった。
「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
リーリアの咆哮。
剣にオーラブレードを発動させ一気に押し込む。
メリメリと音が鳴り石床にヒビが入る。
押し込まれるアナスタシアはついには両手で剣を押さえて踏ん張っていた。
バリバリと石床が割れ、めり込んでいくアナスタシア。
「ぐっ、なんという力だ!!!」
リーリアとアナスタシアの力に石床がついていけなかった。
ついには闘技台が真っ二つに割れ足場が歪む。リーリアがバランスを崩した一瞬の隙にアナスタシアは後方に飛びのいた。
「はあはあはあはあ……リーリア、お前はすごいな」
「はあはあ……これは予想外かも」
あまりにすごい光景に観客は言葉をなくしていた。
だが自分が息をするのを忘れていたという事実に気がつくと、一斉にぷはぁと息を吸い込む。
「うおおぉぉぉぉ!!! すげえ戦いだ!! こんなの見たことないぞ!!!」
「あの勇者様が押されているなんて! リーリアすごいぞぉぉぉぉぉ!!!」
再び会場が熱狂に包まれる。
リーリアとアナスタシアはそれを背中に受け、互いにニヤリと笑っていた。




