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114、ナルリースvsアナスタシア



「完敗だにゃ」


 俺達の元へとやってきたジェラは、そう言うと座席についた。

 試合について深く語らないのが悔しさを物語っているように思えた。

 黙っていると、ジェラがぼそぼそと語りだす。


「前まではあれほど差がついてなかったのににゃ……いつの間にか背中が遠くなっていたにゃ……はっきりいって悔しいにゃ」


 ジェラの表情があまりに寂しそうだったので、ついついお節介とは思いながらもそれを口にした。


「お前は獣族では若いのにかなり強い部類だし、才能もある。数百年もたてばもっと高みに登れるだろう」

「…………そうかにゃ?」

「ああ、そうだとも。実際お前は同年代の獣族の中では抜けた実力だったんじゃないか?」

「そうだにゃ……子供の中では一番だったにゃ。だから夢を見て村を飛び出したんだにゃ」


 ジェラは空に手を伸ばす。

 そして何もない空間を掴むように拳を握りしめた。


「でも村を出てからは散々だったにゃ……奴隷となり無駄な時間を過ごしたこともあったにゃ」


 初めて聞く話だった。

 何事もなく過ごしていたイメージだったが、どうやら過酷な日々を過ごしていたようだ。

 俺は黙って話を聞いていた。



 魔族大陸には様々な種族がいた。

 その中でも獣族は奴隷として人気があった。

 力もあり、成長も早く、男も女も子供は可愛らしい子が多い。

 特殊な魔法具により首輪をつけてペットのように扱う者もいた。

 俺もそういう現場を目撃したことがあるのでよく分かっていた。


 ジェラは村を飛び出したのは良いものの、金がなくて腹を空かせていた。町で倒れていたところにご飯をくれるという若い男の誘いに乗ってしまい捕まってしまったという。

 それから数年、無償で労働を課せられおもちゃのように扱われていたところを斧の師匠に救われたのだとか。

 修行を重ね、立派に成長したジェラは冒険者となって日々の生活をしていた。

 そこでシャロと出会ったらしい。


「懐かしいね~。僕たちみたいに子供で冒険者っていうのも珍しかったからさ、すぐに仲良くなったんだよねぇ」

「そうだったにゃ。他のパーティーとかも誘われたけど、結局二人でいたんだにゃ」

「うんうん、僕たち可愛かったからさ~男たちがいやらしい目で見てくるから大変だったんだよ~」

「それは否定しないにゃ」


 シャロとジェラは懐かしむように会話に花を咲かせていた。

 どうやら落ち込んだ気分は直ったようだ。

 

 


 試合は順調に進み、死闘が繰り広げられている。

 だがどの選手もジェラの半分にも満たない実力だ。

 いずれリーリアに倒されることになるのは明白だ。

 そして試合は進み、ナルリースとアナスタシアの戦いとなる。


 

 ジュニアの部ということもあり、選手の戦いを保護者目線で見ていた観客も勇者がでるとなると目つきが変わる。

 相手は他を圧倒して勝ち進んできたナルリースだ。

 観客は否応なしにもナルリースとアナスタシアの戦いに期待する。


「さあ皆さん! 次は最後の準々決勝となります! 注目のカードはナルリース選手と我らが勇者アナスタシア! なんとナルリース選手はジェラ選手と同様にリーリア選手と修行をした仲ということで、これは期待ができますね!」

「勇者ー! 愛してるー!」

「きゃー! 勇者さまー!」


 先ほどまでの戦いとは打って変わり、異常なほどの盛り上がりを見せている。

 アナスタシアへの声援はリーリアの時と同等かそれ以上だ。やはり地元ということで大人気のようである。

 アナスタシアも声援に応えるように手を振った。

 そんな中、緊張しているのがありありと見て分かるナルリース。ぎこちなく闘技場に登りカクカクと指定位置まで歩く。


 観客も当然それを見ているので、微笑ましく思えたのか、「頑張れーエルフの子ー!」や「可愛いぞー! 全力でやってやれー」などの声援がちらほらと聞こえだした。

 それを聞いたナルリースはさらに顔を真っ赤にして、俯いてしまっていた。

 

「あれはダメだねぇ~」

「ダメだにゃ」

「そうだな」

「うむ」


 今までは相手が弱かったから何とかなったものの、次の相手はアナスタシアだ。

 あんなにガッチガチで勝てる相手ではない。

 アナスタシアもナルリースの様子が気になったようで近くに歩み寄っていき、耳元で何かを話した。

 するとナルリースの表情が変わり、戦う目つきとなった。

 アナスタシアは満足そうに微笑むと指定の位置へと戻っていった。


「何を話したんだろうな?」

「さーて、なんだろうね~」


 シャロはニヤニヤしながら果実ジュースを飲んでいた。

 どうやら分かっているらしい。

 なんだか悔しかったのでジュースを奪って飲んでやった。


「あー! 僕のジュース~! ……てか関節キッス奪われちゃった。ひーん責任取ってよね~」

「ああ、悪かったな。これでいいか?」


 チャリンと小銭を渡す。

 

「えーこれじゃない感……ちょっと意味が違うっていうか~」

「始まるぞ」

「わ~」


 今まさに試合が始まろうとしていた。


「ではっ! ナルリース選手vsアナスタシア選手──試合開始!!」

「ライトニングッ!!」


 試合開始の合図と共に魔法を放つのはナルリース。

 魔法のチョイスとしては悪くない。雷は鎧を着ていようが関係なくダメージを与えられる。

 ライトニングが盾を構えたアナスタシアに直撃する。

 いや、盾に当たると同時にかき消えた。


「くっ!」


 ナルリースは素早く闘技台の上を走り回り、いろいろな角度からライトニングを放つ。

 だが、動かず、その場でどっしりと盾を構えているアナスタシアにすべてかき消される。

 これではダメだと思ったナルリースは背中に担いでいた弓を取り出し矢を放つ。

 矢はアナスタシアの方ではなく上空に放たれた。


「アローレイン!!」


 弓の技だ。

 一本の矢が分裂し、大量の矢となってアナスタシアに降り注いだ。

 矢の威力はすさまじくアナスタシアの周りの石床に穴ぼこを開けていく。

 肝心のアナスタシアだが、天に向けて構えた盾がすべてをはじき返した。


「もうっ!」


 ナルリースは魔力を高める。

 威力の低い技ではダメだと悟ったのだ。

 一撃必殺の威力を持った攻撃でないとあの盾は攻略できない。

 高めた魔力が一本の矢に集束する。


「いっけええぇぇぇぇ!! スクリューアロー!!!」


 矢がすさまじい回転をして放たれる。

 スクリューアローに魔力による補強をしていて、確実に相手を貫く一撃必殺である。

 その矢がアナスタシアへと迫る。


「盾強化! オーラシールド! ホーリーシールド!」


 盾が強化され、薄く光ったかと思うと、青白い光に覆われる。

 三段階に強化された盾がスクリューアローとぶつかり合う。


「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 巨大な盾を押さえたまま、アナスタシアも力を振り絞る。

 スクリューアローは回転しながら盾にぶつかると、ガリガリガリと音を立て火花が散る。


「そのままいけえぇぇぇぇぇ!!!」


 魔力を使い切ったのか、ナルリースは石床に両手をついていた。叫ぶ声は最後の力を振り絞って発生した声で、祈るように結果を見守っている。

 スクリューアローのあまりの威力にアナスタシアの体も後方へとじりじり押されていく。

 アナスタシアは足を石床に突き立て踏ん張るも、石床を削りながら徐々に後方へ下がってしまう。

 

「うぐぐぐぐ……はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 場外まであと少し……というところでスクリューアローの回転は止まり、ぼとりと矢が石床へと落ちた。


「ああ……私の全魔力を使った一撃が……」


 がくりとナルリースは地面に膝をつく。

 戦意を喪失したようだ。


「これで終わりか?」

「私にはもう魔力がないもの……無理だわ」

「そうか」


 アナスタシアはそう言うと手を上げ高らかに勝利宣言をするのであった。

 審判も動かないナルリースを見て、アナスタシアの勝利と判定を下した。



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