111、悲痛な特訓
夕食後、俺とレヴィアは部屋に戻ってきた。
これからレヴィアに対する実験をするつもりだ。
だがその前に、
「実験を開始する前に理解してもらいたいことがある」
「ん? 急にあらたまってどうしたのだ?」
これからどんなことをするのかワクワクしているレヴィアに水を差すようで申し訳ないが、強くなるためには理解が必要であると俺は思っている。
「魔獣の成長スピード、実力、どれをとっても人よりすごいことは確認済みだ。だが人も負けてないところがある……それは何だと思う?」
「突然どうしたのだ?」
「いいから答えてみてくれ」
「ふむ……」
レヴィアは真剣に考えて、一つの答えを導き出した。
「武器を使う所か?」
「ん~それは魔獣だって使ってただろう? ケツァルもナイフを使ってたし」
「そうか、ではなんだろう?」
可愛く首をひねっては答えるが、どれも正解ではなかった。
「答えは魔力操作だ」
「む……魔力操作なら我もできるぞ!」
むすっとした表情をするが、俺はふふっと鼻で笑う。
「俺とお前の魔力操作は天と地ほどの差がある。ためしに全力で魔力球を作ってみろ」
「む! わかった!」
レヴィアは手のひらに魔力球を作った。
熟練された冒険者でもなかなか作り出せないものだ。
「どうだ!」
「なかなかやるな……だが!」
俺は半分の魔力を込めて魔力球を練り上げる。
すると、まるで物体のように凝縮された小さい球体ができた。
出現させた球体はまるで生きているかのように空気を震わせる。
まるで地鳴りのように部屋が揺れ出し、球体を少しでも動かせば空間のバランスが崩れ部屋は崩壊するだろう。
「な、なな! ベ、ベアル! それをしまってくれ!」
「ああ」
何事もなかったかのように、俺はそれを吸収した。
部屋は静けさを取り戻すが、舞っている埃が振動の激しさを物語っていた。
「今のは俺の魔力の半分を使った魔力球だ。おそらくだがここら辺一帯に巨大な穴が開くだろうな」
「……恐ろしい奴だ」
「レヴィアは魔獣の中では魔力操作は上手い方だ。でも全体的に魔獣は下手なんだよ」
「それは何故だ?」
「答えは精霊を体内で使役しているからだ」
「ふむ?」
それがなぜ魔力操作が下手ということになるのか、それが分かっていないようだ。
「レヴィアはどうやって魔法を使っている?」
「そんなの……使いたい魔法を念じるだけだ。それが面倒なら声を発声すればいい」
「魔法の威力は?」
「それもイメージでやっている」
「そこがダメなんだ」
俺達魔族は魔力操作で魔力を調整して魔法を発動させている。
それはイメージなどではなく魔力の量だ。
普段からそうやってすることで魔力操作が上達する。
なので人魔獣は魔力操作がへたくそなのである。
まあ、その中でも比較的オルトロスは上手かった。あれは単純にセンスだろう。
「なるほど、普段から魔力操作を意識してやっていなかったのだな」
「ああ、そして今回の課題はそこだ。膨大にある魔力を活かすには魔力操作が重要なんだ」
魔力というものは持っていれば持っているだけ有利になる。
これは世界の常識であり、真理だ。
だが、俺とレヴィア程魔力を持った人は過去に現れていないだろう。
複合魔法のスーパーノヴァという魔法がある。
使えればSランク級ともいわれる大魔法だ。
それが二発撃てれば大英雄。
人の限界というのはその程度だ。
だが、俺たちはすでにその次元にいない。
最強の魔法でさえ足止め程度にしかならないのだ。
そもそも魔法というのは精霊に魔力を分け与えることで魔法という力を使わせてもらっているのだ。
少量の魔力で強力な魔法が撃てる……これが魔法のメリットだ。
だが、精霊にも限界がある。
4大精霊では扱える魔法に限界があるのだ。
より強力な魔法を欲するならば、セレアのように伝説級精霊から力を借りるしかない。
でもそれもできないのならば?
膨大な魔力を直接叩き込むしかない。
これが俺の答えだ。
ケツァルのトドメに使ったのも魔力球だ。
ケツァルの体内で消されないように、魔力を練りに練って強化し、さらに凝縮してぶち込んだ。
シンプルだが強力である。
魔力が膨大にあるレヴィアにはうってつけの技である。
それを今から教え込もうとしているのだった。
「ちなみにだが、オルトロスの使った消滅のブレスもこれだと思っている」
「む!? 今の魔力球と同じだといいたいのか?」
「ああ、作り方は同じだと思っている。その証拠に魔力ガードで防げるからな」
「そうだったのか……」
ただし、消滅のブレスは爆発をしないで触れたものを消滅させる力があった。
実際に俺にそれを作れと言われるとできないが、オルトロスを喰らったレヴィアならできるようになるんじゃないかと思っている。
ようは魔力操作の技術が低すぎて、覚えられなかったんじゃないかと。
その旨をレヴィアに伝えた。
「なるほど、使えるようになれば確かに強力だ……でも我にその魔力操作ができるのか?」
「ふふ、だからそれを体に教え込もうっていってるんじゃないか」
わきわきと俺の手が喜びに震えている。
それを見たレヴィアの顔が引きつっていた。
「ど、どうする気なのだ?」
「実は魔力吸収というのは魔力操作の上位互換なのではないかと思ってな……ならば俺の魔力をお前の中に入れることで操作できるんじゃないかと思ってな」
「えっと……つまり?」
「お前の中にたっぷり俺の魔力を入れて直接体に魔力操作を覚え込ませるんだよ」
「うぅぅぅ! とても痛そうなんだが!?」
「だろうなあ……くくく、でも強くなりたいんだよな?」
「そ、それはそうなのだが……ベアル!!? なんか楽しそうなのだ!?!?」
「ふははは! 今日はたっぷり可愛がってやる」
「うぅぅ!! 違う時に言われたいセリフなのだ!」
逃げようとしているレヴィアを壁際に追い詰める。
もう逃げる場所はないぞと壁にドンと手を置く。
「大丈夫だ……最初はゆっくり入れてやる」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
──その夜、レヴィア悲痛な叫びが響き渡り、やってきたリーリアに説教されたことは言うまでもない。




