110、部屋で話すと実感した
宿の部屋に入ると待っていたリーリアに出迎えられる。
「お父さんおかえりなさい!」
「ああ、ただいま」
俺に向かってダイヴしてきたので、いつも通りにキャッチするとギュッと抱きしめた。
相変わらず柔らかく、腕にフィットする抱き心地である。
「おっか~ベーさん」
「おかえりにゃ」
シャロとジェラもドアから顔を覗かせていた。
部屋は全部で3つほど取っているのだが、騒ぎをかぎつけた皆が俺の部屋にやってきた。
皆とはケツァルを倒した後にギルド前で合流したのだが、報告に大勢いても仕方ないと思い、宿で待機してもらっていた。
なのでやっと一息ついて皆と話をすることができる。
「ではとりあえず報告し合うか」
────
「なるほど、魔石は罠の時と同じくらいの大きさだったか」
「うん、何をしようとしていたかは分からないけど……発動していたらヤバかったかも」
「ああ、皆よく止めてくれた」
「いえ、ベアルさんの作戦が見事だったんですよ」
ナルリースの一言に皆もうんうんと頷く。
「ねえ~よく魔石があるかもしれないって思いついたよねぇ~」
「ケツァルの性格から何かしらの罠を仕掛けているんじゃないかって思っただけさ」
「はぁ~そういうものかにゃ」
3人娘は感心しているが、本当にまぐれである。
魔石の大きさがエルフの国の結界に見合わない大きさだったっていう疑問があったっていうのもあるが、今回のは念のためにかけていた保険が上手くいった特例だ。
「それで……ケツァルはどれほどの強さだったのですか?」
ナルリースの発言にレヴィアの眉がピクリと動く。
何とも言えない空気になる中、俺は発言をした。
「魔力だけでいうならオルトロス以上だ」
「あのオルトロスより!?」
驚いたのはリーリアだ。
それもそのはずでこの場でオルトロスの強さを間近で体験したのはリーリアとレヴィアだけである。
「ああ、だが総合的な強さで言えばオルトロスが上だろう。消滅のブレスも持っていたしな」
「そ、そうなんだ……でも前にエルフ城でケツァルを見たときは、そこまでのプレッシャーは感じなかったよね?」
「そうだな、前はあそこまでの力はなかったはずだ」
「魔獣ってそこまでの成長スピードがあるものなの?」
リーリアの疑問はもっともだ。
あんなスピードでバンバン強くなられては人類はもっと早く滅亡していたはずである。
なので普通の魔獣ではありえないだろう。だが俺はケツァルからとある情報を聞いていた。
「今回新しく分かったことなんだが、ケツァル達は化物の体の一部を切り離して生まれたらしいぞ」
「え!? それって……」
リーリアも顔が青ざめる。
他の皆もそれがどういう事か分かって青ざめていた。
……沈黙が部屋を支配する。
誰もが何を言っていいのか分からずに口を閉ざす。
そんな時、おもむろにリーリアが口を開いた。
「お父さんはケツァル達っていったけどオルトロスもそうだってことだよね?」
「ああ、そうだ。ついでにいうとエルサリオスもだな」
「そっか……じゃあ倒せないこともないよね? だって核さえ壊してしまえばいいんでしょ? ようはすごく体が大きくて魔力が強力ってだけなんだもんね」
「ああ、よく言った! その通りだぞリーリア」
俺は隣にいるリーリアの頭をよしよしと撫でる。
「はっきり言って勝つのは難しいかもしれない。だけど倒す手段は確実にあるんだ。気負わずあと3年間、自身を高める修行をすればいい!」
俺の言葉に一同頷く。
中には難しい顔をしている者もいるが、こればかりは仕方ない。
魔族にとっての3年間はあっという間である。
今更悪あがきをしたところでそれほど変わらないのである。
唯一伸びしろがあるとすれば、リーリアとレヴィアくらいだが……。
それは一旦置いておくとしよう。
「……ところでケツァルの死体はどうなったんでしたっけ?」
沈黙に耐えられなくなったのか、ナルリースが聞いてきた。
「ああ、それなら宿に届く手配となっているんだが」
その時、宿の玄関口付近が騒がしくなっていた。
「噂をすればだな」
俺は宿の玄関口までいってブツを受け取った。
それを抱えてすぐに戻ってくると、レヴィアの前にドカンと置く。
「じゃ、レヴィア」
「う、やっぱり食べないとダメなのか?」
運ばれてきた樽には黒い塊がどろどろとなっていた。
樽を覗き見たリーリアも3人娘も思わず口を押える。
「食べづらいならあーんしてやるぞ?」
「うぅぅぅぅ!!! 鬼畜なのだぁぁぁぁ!!!」
────数時間後。
「うぎゅぎゅうぅぅぅぅまじゅいいぃぃぃ!!」
「ほら、あと少しだぞ頑張れ」
「もう入らないのだぁぁぁ」
「ほら、あーん」
「うぎゅぎゅううぅぅ」
最後の一口を食べ終えたレヴィアはばたんと倒れた。
他の皆は、気分が悪いと自分たちの部屋へと戻ってしまった。
俺は頑張るレヴィアを見てとても満足した。
「お主は幸せそうだな……」
そんな表情を見られていたのかレヴィアが睨みながらそう言った。
「ああ、お前の頑張る姿で元気をもらえたぞ」
「……やはり鬼畜」
うぐぐと納得いかない様子のレヴィア。
「お主ばかりズルいのだ。我にもなにか褒美が欲しい」
「褒美?」
「う、うむ…………ちゅーとか?」
今にも消えそうな声でそう言った。
……なるほど。
俺は毅然とした態度で、
「さすがにこれを食べた後は嫌だ」
「ひ、酷いのだ! お主が食べろといったのに!!」
「ははっ」
正直、驚いていた。
レヴィアは本当に人らしくなっている。
…………いや、もう人らしいとか、そう言う風に思うのは止めよう。
──レヴィアもう魔獣ではない。恋する女の子である。
「じゃ、じゃあ頭を撫でてほしい」
「ああ、それならいいぞ、ほらこっちこい」
「……うん」
近くに寄ってきたレヴィアは大人しく頭をこちらに向けた。
綺麗な水色の髪を優しく撫でる。
すると体もぴたりとくっつけてきた。
抱きつくような至近距離で、お互いの鼓動が聞こえてきた。
「ベアルは撫でるのが上手いのだ」
「ああ、好きだからな」
「えっ!?」
「……撫でるのが好きなんだ」
「あ、ああ……そっか……そうであったな」
何となくぎこちなくなる。
調子が狂うが、不思議と嫌な感じではない。
むしろ心地よくも思えた。
そんな時間が数十分ほど続いたが、心地よい時間は唐突に終わりをむかえる。
「ねえ~僕お腹空いちゃったよ~! とりあえずご飯にしよーよぉーってあれ?」
ドアをバンっと開け、そう言いながら入って来るシャロ。
すると、すぐにニヤニヤとしだし、あらあらあらと言いながら近づいてきた。
「二人ともごめんねぇ~! 邪魔しちゃったみたいで!! あらあらあら! まさかの展開にお姉さんビックリだよぉ! これは報告しないといけないね~」
いつものやつが始まった。
だがまあ、シャロはそういうやつなのでほっといてもいいかと思った。
俺が無反応でいると、
「え……あー……まじですか。 ……そっかぁ~うーん。お邪魔しましたぁ~」
何故かテンションが下がったシャロは、そそくさと部屋から出て行った。
なんだ、構って欲しかったのか?
それにしても落ち込みすぎだと思うが……。
まあ、いい時間になったしご飯にするのも悪くない。
「レヴィア、ご飯にするか?」
「美味しいものが食べたいのだ!」
「あんなに食べたのにまだ腹が減ってるのか?」
「うっ……思い出させる出ないわ! 我はもっと美味しいもので締めくくりたいのだ!」
「はは、口直しだな」
「そうだ! 夜ごはんもあーんしてくれるか?」
「それは自分で食え」
「なんでなのだー!」
「ふはははは」




