108、ケツァルとの戦い2
ケツァルも必死になって尻尾を振り応戦するも、俺の方が動きが速いため、そのすべてを避けながら何発も殴りつけた。
ダメージを与えているが致命傷とまでは至らない為、ケツァルは余計に怒り狂い、暴れるように尻尾を叩きつける。
だがそんな大降りが当たるわけもなく、胴を、顔を、上下左右に何度も何度も殴りつける。
「ウグググッググ!!!! ナゼダアアアァァ!!! 何故俺の魔力ガードがこんなにも簡単に突き破られる!!? 俺の魔力は世界最強だぞおぉぉぉっぉぉ!!!!! ウガアアアァァァァァァァ!!!!!!」
当たらない苛立ちからか咆哮のような叫びをした。
魔力を含んだ咆哮は強烈で、周りに観戦していた人や魔族たちの中でも弱いものはバタバタと倒れていく。
(ちっ……馬鹿どもが! ……仕方ない、トドメを刺すか)
俺が殴り続けていたのは訳があった。
それは魔力吸収の技を使っていたからだ。
実は魔石事件の帰り道、野営中にリーリアに魔力吸収の実験してもらっていた。
──結果……放出された魔力は触れただけで吸収できるとわかった。
つまり、魔力ガードは吸収できてしまうのだ。
魔法は精霊に魔力を支払う形式だし、身体強化は内部を魔力で強化するものなので吸収できないが、魔力ガードは体の表面を魔力で覆いダメージを和らげるものなので吸収できる。
……まあ、簡単に言えば魔力が空中に浮いてるような状態ならば吸収できるという訳だ。
なのでケツァルが魔力ガードで防御をしたとしても、俺が表面のガードを吸収してしまうため、実質魔力ガードは無かったことになる。
さらにケツァルが魔力ガードを強化すればするほど、それを吸収して俺は自身の力へと変えられる。
ケツァルは魔力ガードの上からダメージを与えられていると思っているが、実際は何もない状態の体をぶん殴っていただけにすぎないのだった。
そうとも知らずに俺の拳による攻撃がものすごい威力なのだと思い込んでいる。
一度与えた痛みはたとえダメージが入っていなくとも嫌なものだ。
俺を近づかせまいと、ムキになり大振りの攻撃や消極的な逃げの戦法しか取れなくなっていた。
こうなってしまえば俺の独壇場でああった。
しかしがむしゃらに暴れまわるケツァルが周りにも被害を出し始めていた。
暴れまわって町に損害を与えてしまっては面白くはない。
大会に出れなくなっても困るし、早々に仕留めることにした。
「そろそろ終わりにしてやる」
俺がそう言うと、ケツァルは狂ったように叫び出す。
「ウガアアアアアアアアアアア! 俺様がああああああああああ!!!! お前ごときにやられるはずがなあああああああいいいいい!!!!!」
その瞬間、ケツァルは容姿を変えた。
ドロドロに溶け、黒い塊となっていく。
「なっ!」
ケツァルは大蛇からスライムへと変化した。
「お前もエルサリオスと同じスライムなのか!!?」
何故か強い人魔獣にスライム型が多かった。
確かにスライムは弱いものは弱いが、強いものはものすごく強くなる。
それはスライムの性質上、コアを壊さなければ倒せないということもあって死ににくい。
だが、これほどまでに強者にスライムが多いとなると疑問も湧く。
そんなことを考えていたら、ケツァルはドロドロの体の表面に口を出現させると驚愕の事実を口走った。
「クカカカ! 何を言ってやがる! 俺とエルサリオス、あとオルトロスも本体であるカオスから切り離されたものよ!」
「なっ!! それは本当か!?」
「ああ? なんだ知らなかったのかよ」
それが本当だとしたら、化物はどれほどの力を持っているのか計り知れない。
俺が驚いているとケツァルはクカカと笑い出す。
「いいねえ! 絶望しちまったか? 俺達でさえこの強さだ……本体であるカオスがどれだけ大きいか……力をどれだけ蓄えているか想像つくだろ? クカカカカカ! だから絶対勝てねえんだよ、カオスにはなあ!!」
ケツァルはバカにしたように笑っているが、俺は冷静に考えていた。
なるほどな。
オルトロスがこの世界を飲み込むといっていた理由が分かった。
スライムだとしたらそれもあり得るだろう。
しかも話を聞く限りだとかなり大きいようだ。
……だが、逆にスライムだとしたら勝機はある。
「ふっ……お前は俺を絶望に落としたいらしいが無駄だぞ。カオスに勝つ方法はあるよな? じゃなかったらオルトロスやお前が強くなろうと努力するわけがない」
俺のその一言に、馬鹿笑いしていたケツァルはスンっと真顔になる。
「あーあ……だから頭のいい奴は嫌いなんだよ……」
「ふっ、悪かったな」
良い話も聞けたし、そろそろ倒そうと本気で考えた。
ケツァルもそれは伝わったようで、プルプルと分裂しだした。
「無駄だ! リトルスーパーノヴァ!」
周りに人がいたため、威力は落とさず規模だけを落とした縮小版のスーパーノヴァを発動させた。
ケツァルを中心に小さい球体ができ、その中で激しい爆発が起こる。
それが終わると分裂したものは消え、核があるであろう本体だけが残っていた。
「ウググググ! クソガアアァァァァァァ!」
苛立ったように飛び跳ねる。
それを見ていた周りの人々は、「すげえ!」「あんな魔法は初めて見た」などの感嘆の声を上げていた。
(……いい加減自分たちが足を引っ張っていると気付いてほしいんだがな)
先ほど倒れてしまった弱いものは運ばれたようだが、ギルドの関係者や兵士は離れた場所で見守っている。
それはギルドや国に報告するためとか、そういうものではなく、単純に強者の戦いを見たいという好奇心から見ている者が多いようだ。
(まあ、気持ちはわからんでもないがな……っと倒すことに集中だ)
俺はもう敵を逃がさないと決意を固くしていた。
オルトロスはそれで失敗をしていたからだ。
油断せず、確実に仕留める。
そのためにもケツァルからは一時も目を離さない。
「これから最大の一撃をかましてやる。残りの魔力をすべて出し切ってガードしてみせろ」
「グアアアアア!!!!」
もちろん本気でもあるし罠でもある。
残りの魔力をちまちまと逃亡とか修復に使われたら面倒くさいので一気に片付けたかったのだ。
ガードに全魔力を使ってくれたら吸収すればいいし、そうしなかったら破壊するだけだ。
俺は拳に大量の魔力を集める。
凝縮に凝縮を重ねた魔力は、それ一つで町を軽く破壊できるほどの魔力があるだろう。
それを今からケツァルに叩きつける。
凝縮された魔力をみて、ケツァルも覚悟を決めた。
体に纏う魔力は見たこともない形容をしている。
魔力が凝縮され、一枚の薄いベールのようにふわふわとケツァルを包んでいた。
見た目が弱そうだからとベールに触れてしまえば、簡単に消滅してしまうだろう。
それほど高濃度で強烈な魔力ガードであった。
「すごいなそれは……どうやってやっているんだ?」
「クカカカ……俺もわかんねえ……土壇場でできたのよォ!」
「ケツァル、この場でお前を仕留められて良かったと改めて思うぞ」
「クカカ! やってみろォォォ!!!!」
二人とも覚悟を決める。
辺りは静まり返り、二人の行方を見守った。
俺が動く。
ケツァルは俺を凝視する。
俺の腕がケツァルへと伸びる。
そして……魔力ベールはふわっと消える。
「そういうことだったのかああああ!!!! くそおおおおおおおぉぉぉっぉぉ!!!!」
消える瞬間をケツァルは見た。
そして俺の中に吸収されるのを。
ケツァルはあの一瞬で理解して見せた。
本当に恐ろしい奴だ。
だが──時は既に遅い!
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
俺は魔力をケツァルの体へと叩きつける。
スライムの体はぼこぼこと、まるで中でボールが暴れまわっているかのように隆起を繰り返す。
そしてそれが静まり返ったあと──
──ケツァルの核は砕け散った。




