表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/247

107、ケツァルとの戦い1



 ケツァルは静かに腰を落とす。

 不気味なほどに製錬で自然な動きだ。

 周りに音は無く、小さな吐息でさえ聞こえそうなほど静かだった。

 そこにコロンと岩場の石が転がり落ちる。


 それを合図にケツァルは猛然と飛び掛かってきた。


 ──速いっ!


 ケツァルは腰に隠し持っていたナイフを取り出し切りかかる。

 俺は間一髪避けると、水球ウォーターボールを発動する。


 ドンドンドン!


 三連射で発射するも岩に当たり砕け散る。

 側転するように避けたケツァルは、また俺に切りかかる。

 8を描くように何度も何度も交差する。

 切りかかるたびに速度は上昇していった。


「クカカカカ! ついてこれるか!?」

「ふんっ! ぬかせ!」


 俺はナイフめがけてインフェルノを発動した。

 

 ケツァルの腕ごと燃え上がり、一瞬にして消し炭と化す。

 「チッ!」と吐き捨てたかと思うと、迷わず腕を自身で切り落とした。


「やっぱり人の姿じゃもろいな」

「訓練が足らないんじゃないか?」

「クカカ! 町に潜入するだけなら十分だ」

「時間の無駄だからさっさと変身したらどうだ?」

「確かにこのままやっていても埒が明かねえ……服が破れるのが嫌なんだが」

「お前が女だったら脱がせてやるぞ?」

「クカカ! 惚れちまいそうだ!」


 俺たちは真顔で冗談を交わす。

 ケツァルはその場で大ジャンプして後方に着地すると、狂ったような声を出し始めた。


「ウゴオオォォォォォォ!!!! ウアアアァァァァ!!!!」


 みるみるうちに何倍にも体は膨れ上がり、巨大な大蛇の姿となった。

 背中には巨大な羽が4枚生えており、体の色は紫色で毒々しい点々の模様がちりばめられ、尻尾の先には丸い棘の塊のようなものがついていた。

 魔竜王オルトロスを一回り大きくしたような感じで、リヴァイアサンほどではないものの、今まで戦ってきた中では類を見ない大きさであった。これならば人など丸のみにできるだろう。


「クカカカ! 俺は邪蛇ケツァルコアトル……この姿見たもので生きていた者はいない。お前はここで死ぬのだ!」

「なるほど、言うだけはありそうだ」


 邪蛇ケツァルコアトルの魔力は魔竜王オルトロスを凌駕しており、禍々しい魔力を纏っている。

 それだけ見ていれば恐ろしい相手ではある。


 だが──


 俺は身体強化を施し、ケツァルのふところへと飛び込んだ。

 極限まで身体強化をした俺のスピードについてこれる者は今のところいない。

 そのためケツァルは俺を見失う。

 勢いそのまま、ケツァルの胴にパンチをくらわせた。


 ドガガガァァァァン!!


 ケツァルは体をくの字に曲げ、はるか後方に吹き飛ぶ。

 長い体は岩場のいたるところに当たり、岩を砕き、粉砕しながらなおも転がる。

 いくつもの岩石を粉砕したところでようやく勢いが弱まり、地面へと転がった。


「アアガガガガガガ……な、なんだと!?」


 ダメージを隠しきれないようで、立ち上がったはいいが、ふらふらと左右に揺れてはバランスを崩しそうになっていた。


「どうした? 魔力ガードを突き破ってしまったようだが手を抜いているのか?」

「お、俺様のガードを突き破るなんてことあってたまるか!!!」

「でもこれが事実だ」

「ふ、ふざけるな!!」


 ケツァルは羽を羽ばたかせて空を飛んだ。

 すると口に魔力を集中させているのでブレスを放つようである。


「グアアアアアア!!!!!」


 爆発するような爆音がし、灼熱のブレスが渦を巻きながら俺に向かってくる。

 俺は上へ飛んで逃げるが、逃がさないとばかりにブレスを上空へ向けた。

 

石球ストーンボール


 巨大な石球をブレスに向けて放つが、石球は一瞬にして消し炭となりバラバラに砕け散った。

 だが、その一瞬があれば俺は移動ができた。


 ケツァルは石球を破壊した後に俺がいないことに気がついた。

 ブレスを放つのを止め、辺りをキョロキョロと見渡す。


「どこいった!!!」

「ここだ」


 ドゴオォォォォォン!!!!


「グアアアァァァァアア!!!」


 俺の渾身の蹴りがケツァルの頭部へとヒットする。

 ケツァルは地面に頭を叩きつけられた。


「グガガガガ、な、何故だ! 俺はオルトロスも超えているはずだ!」


 立ち上がろうとしたところを、上空から降りてきた俺が顔を踏みつける。

 再び地面に顔をつけられたケツァルは憎しみで顔が歪んだ。


「ああ、お前は超えているよ……魔力だけな」

「な、なんだと!?」


 踏みつけられながらも視線はきっちりと俺の方を向いていた。

 その視線はどういうことだと訴えかけていた。


「簡単だ。魔力だけ持っていても怖くないんだよ」

「はぁ!? 馬鹿な! 魔力を多く持てば持つほど有利になる。それが戦闘でのすべてだろうが!」

「それは魔力操作が完璧な奴の言うセリフだ」

「グアァァ!」


 ぐしゃ。


 俺はさらに強く踏みつけた。


「その点、オルトロスはいい線いっていたぞ。竜王を取り込むことで竜王必殺『消滅ブレス』を手に入れることができた。あれは唯一無二の技であったため、俺でもかなり苦戦したぞ……それに引き換えお前は何を持ってるんだ?」


 ケツァルは叫ぶ。

 

「グググッグアアアアアアアア!!!!! お前がそれをいうなあああああ!!!! それを手に入れるために勇者を……勇者を喰らおうとしていたんだろうがああああああ!!!!!!」

「ああ、わかっている。だから阻止したんだよ!」


 俺は片手でケツァルの羽を掴むと、空中へ放り投げた。

 

「ライトニング」

「グアアアアアアア!!!」


 ほとばしる稲妻に全身を焼かれるケツァル。

 再び地面に落ちると、全身が焼けただれていた。



 ──



 ────その頃、町では騒ぎになっていた。

 町の外で、なにやらすごい音が聞こえるからだ。

 人間たちは魔獣だと騒ぎ立て、魔族はその異様な魔力から、よく分からないけどやばいから近づくなと警告を発していた。


 それでも野次馬はどこにもいるもので、なんだなんだと町の外に見に行くものも現れた。

 当然、状況を把握したいギルドや兵士たちもいかないわけにもいかないので、次々と町を飛び出していた。

 

 そして皆現場を目撃する。

 一人の魔族と強大な魔獣が戦う姿を。



 ──



 俺がケツァルを稲妻で焼いた後、近くから拍手が鳴り響いた。

 いつの間にか町のやつらが遠巻きに見学していたのだ。


(ちっ……こんな近くにまでやってきて、何のつもりだ)


 素人めと悪態をつきたくなる心をどうにか抑える。

 俺の魔法は派手で高威力なものが多い。

 こんなに近くにいられると放つことができない。

 無論調整は可能だが、無駄なことは極力したくないのだ。


 すると兵士の一人が俺に近づいてきた。


「あの……この魔獣はいったい──」

「馬鹿野郎! 近づくな!! まだ生きてるぞ!!!」

「え?」


 その時、ケツァルの尻尾がうねった。

 呆気に取られていた兵士は身動きができない。

 尻尾は器用に兵士を絡めとると、ケツァルはのそりと立ち上がった。


「クカカカカ! ベアルゥ! 油断したなぁ!!! さあこいつを殺されたくなければ今すぐ遠くへ離れるんだ!」


 どうやら人質ということらしい。

 だが──


「それがどうした? そいつは俺の知り合いじゃないぞ?」

「クカカカ! ベアルよ、いいのか? みんなが見ているぞ? 人質を見捨てたとなればお前の名声に傷がつく! お前はエルフ王国の代表なんだろ!?」

 

 その言葉に周りの人々からは、「卑怯者!」「正々堂々と戦え!」「これでは手が出せない! くそ野郎が!」と罵声が飛ばされていた。

 外野の言葉に気を悪くするどころか、ケツァルは「クカカカカカ!」と高笑いをする。

 その罵声こそがこいつの求めていた者なのだ。

 自分が悪者になればなるほど、人質が引き立つ。


 ……だが俺は自身の名声など気にしない。

 そもそも戦闘中に近寄ってきた兵士こいつが悪いと思っている。


「ふん……名声など今更だな。かつて魔王と呼ばれていた時期、俺がしでかしたことに比べれば大したことじゃないさ」

「なんだと!?」


 俺の一言に周囲がざわめき、「ベアルなんて魔王いたか? いまはサリサ様だよな?」なんて言っていた。


(……今サリサって言ったか?)


 かつての仲間だったものの名前が言われた気がしたが、俺は若干動揺しつつも平然を装った。


「じゃあ、そういうことだから戦闘開始といこうか」

「ま、まて! 本当にこいつを殺すぞ」

「好きにしろ」


 そう言って俺は飛び込んだ。

 ケツァルは慌てて兵士を俺に投げると、俺はそいつを避け、「レヴィア! 頼んだ!」と言い放ち、殴り掛かる。

 後方では慌ててキャッチするレヴィアが見えた。


「くそがあぁぁぁぁ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ