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11、戦いその後



「お父さんっ!」


 物凄い勢いで飛んできた。

 そのまま俺の胸へと飛び込んでくる。

 

「すごい! すごい! お父さんって強いとは思っていたけど、こんなに強かったんだ!!」


 興奮がおさえられないようで顔をぐりぐりと胸板へと押し付けている。

 

「ふ、まあな! だがまだ全力ではないぞ」


 リーリアの尊敬のまなざしがすごい。

 

「ねえねえ! 最後の魔法はなんていうの? なんか竜巻を吹き飛ばしちゃったけど! あーあ、私もいつかあんな魔法使えるようになるのかな?」

 

 怒涛どとうの質問攻めだ。

 俺は興奮するリーリアをなだめながら、戦闘で使った魔法について説明していくのだった。




 ──時間が経ち、リヴァイアサンは復活した。

 驚くべき生命力。そこは素直にすごいと思った。

 しかしその表情たるや完全に敗北者のそれである。

 ギリギリギリと歯軋りをし、胸鰭むなびれをバシャバシャと水面に叩きつけている。

 相当悔しかったのだろう。

 

「ああぁぁぁ! くそ! 我の300年の努力は一体なんだったというのだ」


 胸鰭に加え、尾鰭まで激しく叩きつけている。

 それによって高く水しぶきが舞い、俺達に滝のごとく降りかかる。

 

 ……おい、ずぶ濡れなんだが?


「我の負けだ、新たな魔法も通じぬとは……」


 そんなことは気にも留めず、一頻り暴れて気が済んだのかそう切り出してきた。

 ぶっちゃけ十分すごい魔法なんだけどな。対応するのが難しかったから、より強力な魔法でかき消すしかなかった。

 

 ……まあ水ごときで怒るのも幼稚だろう。リーリアは楽しそうなので許す。だが塩対応をさせてもらう。


「……いや、かなり驚いたぞー、いつの間に風の精霊と契約したんだー?」


 適当に相槌を打ちながら服を火魔法で乾かし、「今夜の飯どうしようか、釣ったイーター消し炭になったよ」なんてリーリアと雑談しながらそう返した。

 

 するとリヴァイアサンは嬉しそうに「よくぞ聞いてくれた」、と数十分に及び自身の冒険を語っていた。

 それを話半分に聞きながらリーリアに夜飯の準備をしてもらう。

 探知をして、魔法で仕留め、魚を薪で丁重に焼く。

 そしてようやく「いただきます」の時にリヴァイアサンの話が終わった。


 要約するとこうだ。

 約300年前、俺との戦いで己の限界を知ったリヴァイアサンは海からでることを決意した。

 地を這い、木々をなぎ倒し、山を登り、風の高地と呼ばれる場所にたどり着いた。

 そこで強力な鳥の魔獣と戦い、それに勝利。

 風の精霊を取り込むことに成功したのだった。


「ん? 精霊って取り込むものなのか?」


 話半分に聞いていたのだが、最後の部分が気になった。

 魔族は精霊と契約するのだが、もしかして魔獣は……?


「何を言っているのだ、精霊は取り込むものだ。我々は体の中に精霊を使役している」

 

 まじか。

 そんなこと初めて聞いたぞ。

 ていうか会話のできる魔獣は稀有けうな存在であるため、今まで知らなかったのも無理はない。

 ……しかしまてよ、だからどんな魔獣も発声せずに魔法を使えるのか。

 この歳になっても初めて知る事はあるのだな……世界は広い。


「お父さん、しえきって?」

「ああ、そうだな……精霊の意思とは関係なく魔法を使わせてるってことかな」

「え、可哀そう」

「そうだな、リーリアは優しい子だな」

 

 リーリアの頭を撫でる。

 俺は何かと理由をつけて頭を撫でる。

 撫でるのが好きなのだから仕方ない……はずだ。


 使役している事が本当なら……利点も多いが欠点もある。

 しかしその事をリヴァイアサンに教えてやる義理もない。あとでリーリアだけにこっそり教えよう。


「風の精霊を取り込んだことで複合魔法を使えるようになったからベアルに対抗できると思っていたんだが……」


 そこまでいうと、ガクンと首を落としてうなだれてしまった。


 サンダートルネードは雷魔法で水と風の複合魔法だ。その中でも上位の部類であり、耐えられるものはそうそういないだろう。

 相手が悪かったといえばそこまでだが、そもそもリヴァイアサンを滅ぼせる奴・・・・・など、俺が知ってる中で5人といない。

 それにその再生力のおかげで高地にもたどり着けたのだから誇っていいし、言うなればまだまだ強くなる余地は残されている。


 ……でも調子に乗るので言わない。


「リヴァイアサンさん、元気だして。すごく強かったよ」


 ああ、リーリアは優しい。いい子だ。


 なでなで。


「うむうむ、リーリアとやら。我の事をリヴァちゃんと呼ぶ事を許そう」


 あーあ、やっぱり調子に乗っちゃったよ。

 よしわかった。もう塵も残さず消し去ってやろう。

 俺のリーリアに馴れ馴れしくするやつはゆるさん。


「え、いいの! えっと……リヴァちゃんこれからよろしくね!」

「リーリアは素直でいい子だな、ベアルの子とは思えん」


 プッチン


 俺は魔力を最大まで高める。

 地獄の業火で死ぬまで焼き尽くしてやろう。そうしよう。

 さようならリヴァちゃん。


「お父さん、その魔力しまって!」


 しゅん


 怒られた。

 リヴァちゃんのせいだ。


「なんか気の毒なほどベアルが落ち込んでおるぞ」

「うん、なんかお父さん今日はテンションが高いみたい。すごく楽しそう」


 楽しくないです。

 


 先ほどから何も言葉にできないまま感情が揺さぶられる。

 もしかしてリーリアが他人の話すのが初めてだから……


 ──あれ? 俺はもしかして嫉妬しているのか!?


 信じたくなかった。

 これほどまで度量が狭かったなんて。

 おいおい、相手は魔獣だぞ!

 それなのにこんな嫉妬して……もしこれリヴァイアサンが人型の男だったりしたら……


 ズゥン


 魔力を最大放出する。


「お父さん! だからしまってってば!!」


 しゅん


 先ほどより強く怒られた。

 だが睨んでいるリーリアも可愛い。


 ……しかしあぶない。妄想で世界を滅ぼすところだった。

 でもこれは本当にやばいと思う。

 どうにかしなくてはいけない。


「リヴァちゃんよ」

「お前にちゃん呼びされる言われはない」

「ああ、すまんつい」

「何がついなのかは知らんがなんだ?」

「しばらくこの島にいていいぞ」

「……ほう」


 まずはこのリヴァイアサンで慣れようと思う。

 そうしないと、もしこの島に人がきたら殺ってしまうだろう。

 それはいけない。


「何を企んでいるのかは知らんが、それはありがたい。我は常に暇をしていたのだ」


 どうやら良いらしい。

 てか暇とか言ってるし入り浸りそうだな……それはそれで嫌だ。


「やったぁ! これからよろしくねリヴァちゃん!」

「うむ、よろしく頼むぞリーリアよ」


 こうして一匹の魔獣が島の周りに住む事となった。

 

 

 ■


 

「そういえば二つほどベアルの言う事を聞くという約束をしていたな」


 リヴァイアサンは鬱陶しいやつだが正直なところは好感がもてる。ここは見習いたいと思えた。

 住み着いてから数日が経った。基本は海で自由にしているのだが、リーリアの特訓や遊びに付き合っていた。

 俺の貴重なリーリアとの時間が……ぐぬぬ。

 だがこれも俺の心の訓練だと割り切る事にした。てかそうしないと病みそうだ。


 今、リーリアは俺たちの目の前で魔法の訓練をしている。それを見守りながら会話をしているのだった。


「ああ、そうだったな。忘れたわけじゃなかったんだが、その一つがなくなってしまってな」

「ほう……というと?」

「今後二度とこの島に近づくなと言おうと思ってた」

「酷いな」

「……まあな、今は悪かったと思ってる。リーリアも楽しそうだしな」


 リヴァイアサンはまじまじと俺の顔を覗き込んで来た。

 

「なんだよ」

「おぬし変わったな……昔は思ってても、悪かったなどと言う奴ではなかった」

「そうだな、変わったんだよ」

「……ふっ」


 視線の先にその俺を変えてくれた存在が映っている。

 そうだ、全てはリーリアのおかげ。

 

「ベアルよ、我は魔獣ゆえに細かい機微までは分からぬ。だがお前のその目は昔とは大分違う」


 え、なんだよ。

 リヴァイアサンはこんな奴だったか?

 出会ったら5秒で即戦闘みたいな奴が?

 それとも俺が勝手にリヴァイアサンを同類だと思い込んでいたのか。

 ……あれ? もしかして俺に合わせてくれていたのか?

 今思い返すとそんな言動や行動があった気がする。

 俺も当時は戦闘狂であった為、疑問もなく戦っていたが……。もしかして俺から戦闘を仕掛けてた?

 やばい、記憶が曖昧だ。

 疑問もなくその行動を当たり前のものとして行っていたので記憶がない。

 もしかしたら俺が一方的だったのかもしれない。

 リヴァイアサンは付き合ってくれていた……?


 良くも悪くも俺はリヴァイアサンと対等になれる存在だ。

 リヴァイアサンは海にはもう敵はいない。つまり対等な存在もいない訳だ。

 

「もしかしてお前も……」

「なんだ?」

「……いや、なんでもない」

「変な奴だ」



 ──俺と同じく寂しい思いをしていたのか?



 そう言おうとして思いとどまる。

 なんていうかリヴァイアサンとは傷を舐めあうようなやり取りは非常に似合わない。

 出会ったら、言いあって、戦って、すっきり別れる。そんな関係がやはり良い。


「だから、鱗をよこせ」

「……は? なぜそうなる」

「言う事を聞いてくれるんだよな?」

「ち……それが一つ目か」


 ペリッ!


 首を胴体に回し、口で器用に鱗を剥がす。

 光の反射で虹色に輝く鱗が俺の手へと渡される。


「ほら」

「ああ、すまんな」


 鱗を見る。

 不思議な魔力を放っており、その頑丈さはもちろんの事、弱い水魔法ならば吸収することができる。戦った俺が言うのだから間違いはない。


「もしかしてリーリアに武器でも作って上げるのか? ふふ、おぬしも良い所があるではないか。剣か? 盾か? それとも鎧か? 足りないのであればまだ渡すぞ、特別サービスだ」


 よく喋る。

 リーリアの手元に置かれるのであれば満足と言わんばかりにニヤニヤとしていた。

 お前も本当にリーリアの事が好きだなリヴァちゃんよ。


「いや、売る」

「は!?!?!?」


 リヴァちゃんは意味がわからないと目を白黒とさせる。


「ふはは、リーリアが身に着けるものにお前の体の一部でも使うとでも思ったのか馬鹿め!」

「おぬし……やはり変わってないかも」



 そんな様子を遠めで見て、自分のことで盛り上がってるなんて微塵も思わないリーリアは、

  

「相変わらず仲がいいなぁ、うらやましい」


 そんなことを呟いていた。



 

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