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101、発情、ふたたび



「はあ……大した相手ではなかったな」


 レヴィアはそう言うと変身を解いて・・・人の姿となった──のだが。


「あああ!!! お父さんは見ちゃ駄目!!!!」


 裸だった。

 それは当然であり必然なのだ。

 だって服を脱がずに変身したらそうなるよねって話だ。

 そして……思ったより胸は……。


「お父さん……見ちゃ駄目っていってるでしょ!!!」


 怒られた。

 リーリアが俺の顔に飛びつきしがみついた。

 俺の鼻腔をかすかな香水の匂いがくすぐった。


「すまんすまん、レヴィアの変身は初めてみると思ってじっくり見てしまった」

「……そういえば確かにそうかも」


 敵の変身はよく見ていたのだが、レヴィアは今までしてこなかった。

 そこに意図があるのかは分からないが、急に変身すると服が破けてしまうという欠点がある以上むやみに出来ないということは分かる。


「むうぅ……チビと言われてついつい本気を出してしまった……せっかく買った服が台無しに……」


 声からもはっきりと落ち込んだ様子が分かった。

 俺は自分の外套を脱ぎ、レヴィアに差し出した。


「ほら、とりあえずこれを羽織ってろ。じゃないとリーリアが俺の顔面から離れてくれん」

「ありがとう…………ふふっ、本来ならカッコいいのにリーリアが抱きついているからしまらないな」

「本当だな」


 外套を羽織るのと同時にリーリアは地面へと降りた。

 視界が開けると、目の前にはしきりに外套の匂いを嗅いでいて、たまに何とも言えない顔になっているレヴィアがいた。

 

「すまん、なんか匂うか?」


 俺がそういうと、レヴィアはハッとした表情となりみるみるうちに顔が赤くなっていった。


「ち、違うのだ! 臭いとかそういうのじゃなくて! 男の匂いがするとかそんなことを思ってはいなくて……そ、そうだ! ベアルのいい匂いがするって思ったのだ!!」

「そ、そうか……」


 焦り過ぎていて自分でも何言ってるのか分かってないのだろう。

 俺としては少し恥ずかしいのだが、レヴィアが気付いてないので、これ以上深堀するのはやめよう。


 案の定、ナルリースとリーリアは俺の事をジト目で睨むし、ジェラとシャロは面白そうにしている。アナスタシアはなんだかよく分かっていない顔だ。

 ……いや、俺は悪くないのだが。

 

 なんだかばつが悪くなったのでもう一人の男を探す。

 

 ──あれ? モーリスがいないな。


 辺りを見渡すと、大蜘蛛を倒したところに立っていた。

 死骸をじっと見つめて何やらつぶやいているようだった。

 俺はそっとモーリスに近づいた。


「……変身して死んだら人の姿には戻らないのだな」


 その声に生気は無い。

 妹を喰らった魔獣に敵討ちが出来た訳でもなく、死んだ後も姿すらない。これでは供養するにも何をしたらいいのか分からないのだ。

 

「せめて墓を作るか?」


 俺がそう言うも、モーリスは首を横に振る。


「巨人族は墓を作らない。死んだ者は火で焼き供養するのだ……だが姿がないのではそれもできん」

「じゃあこいつを焼かないか?」

「憎い敵であるこいつを供養するというのか!!」


 俺の体をその巨大な手で掴む。

 その目は怒りに満ちていた。


「違う。そいつの中に入っている魂を解放してやるんだ」

「──ッ!」


 はっきりいって魂があるとか俺は信じてはいない。

 だが今のモーリスにとっては、そういうのが大事なのだと感じていた。


 怒りで満ちていた目は落ち着きを取り戻し、一言、「すまない」というと近くの木材を集め始めた。

 俺も手伝い始めると、皆も集めるのを手伝ってくれた。

 そうして魔獣を燃やせるくらいの量が集まった。


 モーリスが手慣れた手つきで、火をつけるとそれはあっという間に巨大な火柱となる。


 皆は手を合わせ祈った。

 モーリスはいつまでもその火柱を見つめていたのだった。



 ────



 俺たちはリアンダの町へと向かっていた。

 理由はやっぱり気になるということと、結果を報告をするためだ。


 ちなみにモーリスは集落に残っている。

 町を出て出稼ぎをしている巨人族もいるらしく、戻ってきたときに説明をしなくてはならないということだった。

 とても辛くて残酷な役割だが、誰かがやらなくてはならないことなのだ。

 そしてそれは巨人族であるモーリスでしか出来ないことだ。

 

 

 それはそうと、少し困ったことが起きた。

 なんと……レヴィアがまた発情してしまったのだ。

 どうやら外套の俺の匂いを嗅ぎ続けることでスイッチが入ってしまったようだ。

 先ほどから俺にしがみついて体をこすりつけてきている。

 柔らかい感触が腕に伝わり、とても心地よい……じゃなくて──大変な修羅場となっていた。


「ベアルゥベアルゥ! もう離れたくないのだ! 早く我と繋がってほしいのだ」

「ちょ、ちょっとレヴィア! いい加減に離れなさいってば!!!」

「これが噂に聞いていた発情かにゃ……すごいにゃこれは」

「あぁぁ! 面白くなってきたねぇ~! 僕はこういうのを待っていたんだよ~」

「お父さん!! お父さんの力なら引き離せるでしょー! またそうやって感触を味わってるんだ!」

「こ、これはいったい何が起こっているんだ!? 誰か私に説明してくれー!」


 もうカオスである。

 正直いってこれを治める自信はない。

 つまり最善策は放置だった。


「……まあ、大丈夫だろ。こうなったレヴィアはしばらく続くから放置するしかないぞ。体にしがみついてくるだけだし気にするな」

「で、でもベアルさん! そんなズルい! 私だって──じゃなくて、そんな破廉恥なことをリアンダの町でもやるつもりですか!?」

「…………それは町についてから考えるか」


 ナルリースの発言はもっともで、確かにあんな大きな町で……しかもレヴィアは人の目を気にせずに過激な発言をするから、かなりまずいだろう。それは考えなくてはならないことだ。

 だが、町まではしばらく余裕がある。

 とりあえず馬車に乗ってから考えよう。


 俺たちが目指しているリアンダの町へは馬車を利用する。

 御者が魔獣だったために誰から操縦しなくてはならないのだが、これだけ人数がいるのだから大丈夫だろう。

 まずは馬車を置いてきた場所に向かうことにした。


「ベアルゥ……ちゅーしてほしいのだ」

「お父さんダメだからね!!!」

「やっぱり離れなさいってばーーーーーーー!!!!!」


 とても騒がしい道中となるのだった。



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