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98、フィールとサイモン



「あら? でも元気そうなのが何人かいるわね」

「何もできずに指をくわえて見ていた者だろう。くくく、そんな雑魚は俺たちの敵ではないがな」

「あははは! 言えてる!」


 ジェラやシャロを見て笑う二匹の人魔獣。

 

「う、うるさいにゃ!! お前たちなんてあたしがやっつけてやるにゃ!」

「ジェラ……足が震えてるよ」

「武者震いにゃ!」


 二人の冒険者ランクはAランクであって人の中では優秀である。

 だが、目の前にいる人魔獣はその域を完全に超えていた。

 実力があるジェラとシャロだからこそ相手の強さが分かるのである。


「あら可愛い。こんな巨人族の体じゃなくて獣人の体の方がいいわ」

「くくく、そのデカい体もいいじゃないか」

「よしてよ! こんな可愛くない体なんて願いさげよ!」


 相変わらず二匹の人魔獣は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で会話をしていた。

 そこにずずいと前にでたのはレヴィアであった。


「我も戦うぞ。先ほどは何もできなくて不甲斐なかったからな」

「レヴィア!」

「レヴィちゃーん! 正直ほっとしたよぉ」


 前にでたレヴィアにしがみつくようにシャロが抱きついた。

 どうやらマジで怖かったようである。


「へぇ……この子は……かなり強そうね」

「だな。下手したら俺達よりも強いかもしれんぞ」

「それはないわよ! 馬鹿なこと言ってんじゃないわ!」


 これで人魔獣二匹とこちらのレヴィア、ジェラ、シャロチームは互角といったところか。



 …………ていうか俺、完全に出遅れたな。



 ──そんな時、突然叫ぶ者がいた。



「ラキシス! ラキシスではないか!! 俺だ! お前の兄モーリスだ!!」


 モーリスの瞳は驚きに見開かれていた。

 だが、ラキシスと呼ばれた巨人族の女は、


「ああ? もしかしてこの体の家族? あなたねえ……こんな使えない体だなんて聞いてなかったわ。人サイズになれないおかげで町の潜入任務に私はいけなかったじゃない……どうしてくれるのよ、まったく役立たずな種族ね」

「くくく、そんなに責めてはお兄さんが可哀そうじゃないかラキシス・・・・

「あんたもそんなダサい名前で呼ばないでよ! 私はフィールという可愛らしい名前があるの」

「体に似合わぬ名前をつけおって」

「サイモン! うるさいわよ! 今に見てなさい……もっといい体を手に入れるんだから! ……今目の前にいる獣人の子とかね!」


 人魔獣2匹はまるで仲の良いコンビのように言い合いを始めていた。

 そんな様子を見ていたモーリスは、がくりと膝を落とし、泣き崩れていた。


「くそおぉぉぉぉ! ラキシス!!!」


 ある程度覚悟していたとはいえ、実際に目の当たりにしては受け入れがたい事実だったのだ。

 それどころか妹の体を使えないだの役立たずだの言われ、名前もすらも否定される。

 ……こんな屈辱があるだろうか?

 泣き崩れるモーリスの姿をみてフィールという名の人魔獣はクスクスと笑う。


「あーあ、哀れなやつね。でも安心していいわよ! あなたもすぐに妹の元へ送ってあげるから!」

「そうだな、可哀そうだし殺してやれ」


 そう言ってフィールはモーリスの頭上につららの様な巨石を出現させた。

 そして片腕を下すと、つらら型巨石はモーリスの体めがけて急降下し始めた。


「さよなら……哀れなお兄さん」


 フィールはそう言って不敵に笑うが、つらら型巨石はモーリスの体を貫く寸前に止まってしまった。


「お前ら俺の存在を忘れてないか?」

「なにっ!?」


 俺はゆっくりと二匹の魔獣の前へと躍り出る。

 すると、俺の異様な魔力に圧されたのか二匹は一歩下がった。


「お、お前はベアル!? ……まさかあの魔石の暴走を抑えたうえでまだ力が残っているのか!?」

「え!? ケツァル様が唯一警戒していたあのベアルだというの!? そ、そんなはずはないわ! だってもし万が一魔石の暴走を止められたとしても瀕死だって言ってたじゃない」

「……へえ、俺って有名だったんだな」


 俺が一歩前、また一歩と歩みを進める。

 そしてレヴィアの隣に並ぶと、


「お主がでてきたら我の活躍の場がなくなってしまうじゃないか」


 そう言って拗ねたような顔でこちらを見てきた。

 

「一匹は譲ってやるよ」

「本当か!?」

「ああ」


 嬉しそうに顔を輝かせるレヴィア。

 まるでおもちゃを与えられた子供のようだ。

 思わず頭をなでなでしてやると、子猫のように目を細めた。

 そんな俺たちのやり取りをよそに、二匹の人魔獣はうろたえていた。


「くそっ! なんだあの魔力は!!?」

「いえっ! ただ強がっているだけよ! あの魔石の暴走を止められることが奇跡だもの!」

「だが事実、目の前にいるのは化物じゃないか!」

「うるさいうるさいうるさい! 何かの間違いよ!!」


 二匹の魔獣は動揺し、互いに違う違うと言い合って真実を見つめられないでいた。

 俺の魔力は異様なほどに体から溢れでており、誰が見ても異常な魔力を秘めているのは明らかだった。

 だがそれを認められないでいるのだ。


「あたしは……あたしは死ぬわけにはいかないのよ……」

「信じられん……しかしどうやって……」


 すでに現実逃避を始めているのか二匹の会話はかみ合っていない。

 まあ、俺にとってはそんなことはどうでもいいことだ。

 落ち着いたようだし話をすることにした。

 

「ふ……ショックなのは分かるがそろそろ落ち着いたか? 少し質問をしたいんだがいいか? もちろん強制だけどな」


 俺がそう言うと、ぎょっとした目をして二匹は互いに視線を交わした。


「え、ええもちろんよ! なんでも聞いてちょうだい!」

「おい! フィール!! ケツァル様を裏切るのか!!!」

「サイモン! あんたバカァ!? こんな魔力の持ち主にかなうわけないでしょ!! だったら寝返って言うこと聞く方がいいに決まっているわ!」

「ケツァル様にばれたら殺されるぞ!!」

「寝返らなかったら今殺されるわよ!!!」

「黙れ」

「────ッ!!!」


 俺の一言で二匹は静かになった。

 そもそも俺はこの二匹を許す気はない。

 ケツァルのやったことで俺のリーリアが苦しんだのだ。

 やつの部下であるならば、それ相応の報いはさせてやるつもりだ。


「では質問だ……ケツァルの目的はなんだ?」


 俺の単刀直入の質問に二匹はぎょっとする。

 もちろん素直に答えたらそのうちケツァルに消されるだろう。

 だが答えなかったら今消されるということも分かっている。

 なのでフィールが口を開いた。


「ケ……ケツァル様の目的は……」

「お、おい! フィール! お前!!! やめ──」

「──黙れ」


 瞬時に距離を詰め、御者の顔を掴むと地面に叩きつけた。

 勢い余ったせいで御者の顔はぐしゃりと潰れる。


「ひいぃぃぃぃぃっ!!」


 フィールはその巨体を揺らし地面に倒れ込む。どうやら腰を抜かしたようだ。


「えっ……全然見えなかった」

「今なにしたのにゃ?」

「ベアル……お主というやつは……」


 他のみんなも驚きで目を見開いていた。



 …………やべえ、身体強化をしすぎて制御がきかなかった。



 正直叩き潰すつもりはなかったのだが、魔力があふれて仕方なかったためにそれを身体強化に回していたのだが、今までの比ではないくらい強化されてしまったらしく自分でも驚くくらいのスピードが出てしまった。


 ──っち、まだ実戦では使えないな。

 少し訓練をしてなれないとダメだな……しばらく身体強化は抑えめに行おう。


 だが、そんな動揺を悟られないように平然とした態度でフィールを見る。

 お前もこうなりたくなかったら素直に話せと言う圧力だ。


「全部しゃべりますからどうか命だけはぁぁぁ!!!!」

「ならさっさとすべて話せ」

「はいぃぃ!!!」


 フィールはゆっくりと語りだした。



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