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97、真相



 砕け散った魔石を見て、一同はようやく一息ついた。


 リーリアは俺に抱きついたまま、体を預けて眠たそうにしている。

 回復魔法で魔力や法力を激しく消費したナルリース、アナスタシアは空を見上げるような形で横になっていた。

 レヴィアも腕の再生を始めていて、ジェラとシャロは何もしていなかったのだが、なぜか疲れたようで座り込んでいた。

 鳥魔獣にやられていたモーリスも自力で回復したのか近くに寄ってきて座っていた。


 そんな中、俺は自身の吸収能力について考えていた。


 無我夢中でやったとはいえ、もし本当に魔力を吸収できるとしたら大変な事である。

 魔力というものは空中にもあるし、地面にもある。もちろん人も持っているし、意志を持たない物体にも備わっている。

 唯一魔力を持っていないのは人間族だけなのである。

 その魔力を吸収できるということは……俺は実質、無限の魔力を手に入れたことになるのだ。


 もちろん空気中にある魔力やそこら辺の石などに宿っている魔力は微力であるため、吸収しながら無限に魔法を放つと言った行為はできないだろう。

 需要に供給が間に合わないのだ。


 だが……もし人から魔力を奪えるとしたら?


 奪われた人は急激な魔力減少による魔力酔いを引き起こして倒れてしまう。

 そう、これは攻撃としても使えるものになるのだ。

 

「ふむ……あとでリーリアに付き合ってもらうか……」

「なに? お父さん?」


 どうやら独り言を声に出していたらしく、リーリアは首を傾げていた。


「ああ、魔力吸収が対人で実用できるかの実験をしたいんだ。魔力操作が完璧なリーリアに通じたら誰でも通用することになるからな」

「うん! いいよ! すぐやる?」

「まだ魔力が全然戻ってないだろ。あとで頼む」

「わかった!」


 ──さて、吸収能力もだが他に考えなくてはいけないことがある。

 しかも……かなり最悪な場面になっている可能性が高い。

 それを皆に伝えなくてはならなかった。


「みんな! 休みながらでいいから聞いてくれ」


 俺がそう言うと視線が集まるのがわかった。

 

「今回のチゴ村の件は勇者を狙った罠だということは話したよな。そしてやつらの作戦は失敗したことになる」


 皆はうんうんと頷く。


「アナスタシアが強かったからねぇ……でも~魔石まで使うなんて驚いたよね~」

「本当だにゃ! やり過ぎだにゃ!」


 比較的元気なシャロとジェラがそう言った。

 だが俺は顔を横に振る。


「魔石は奥の手だったはずだ……それにそんなことをしたら勇者を喰らうことができない……魔獣の親玉の目的はあくまでも勇者を喰らうことだったはず」


 俺がそう言うと、今度はナルリースが首を傾げた。


「なんでそう言えるのですか? 普通に倒したかっただけじゃ」

「敵の親玉があのケツァル・・・・・・だからだ」

「えっ!!?」


 皆の表情が驚いたものへと変わる。

 レヴィアとアナスタシアだけは頭の上に?を浮かべているようだ。


「そ、それは本当なんですか!?」

「ああ、鳥魔獣のやつがそう言っていた。勇者を喰らうようなこともほのめかしていたしな」

「そ、そんな……」


 ナルリースはショックを受けていた。

 それもそうだ、エルフが滅亡に追いやられた原因の一端をになっていたやつだからな。

 そんなやつが今度は人間大陸に来ていて傍若無人の行いをしているのだ。ナルリースでなくとも思う所はあった。


「でも……そう考えると余計におかしくはないか? 勇者である私を喰らいたいのであるならば魔石を暴走させたら意味ないではないか」

「確かにそうよね……」

「アナスタシアに敵わないと思ったから、いっそ殺してしまえと思ったんじゃないかにゃ?」


 普通に考えたらおかしい。

 だが視点を変えるとまた違って見えてくるものがある。


「いや、おそらく……俺がいたからだろう」


「「「「??????」」」」


 疑問の視線が一斉に投げかけられる。


「ベーさんそれは言いすぎだよ~。だって考えても見てよぉ。アナスタシアと一緒に依頼をこなすことは偶然だったんだよ? それにベーさんがこの大陸にきたことだって知らないはずだし~? 自意識過剰すぎー」

「その通りにゃ! ダンナもついに焼きが回ったにゃ!」


 言いたい放題である。

 だが俺は不敵に笑った。


「ふふ、いい反応だ。だけどな……もし俺が勇者と一緒に行動するということをケツァルが知っていたら?」


 俺がそう言うと、「そんなまさか……」「ありえないにゃ!」とまだ信じられないようだった。

 だがリーリアだけは何かに気がついたようでハッとした様子で俺を見上げた。


「リーリア、わかったか?」

「……もし、そうだとしたら……リアンダの港町がピンチかも?」

「そうだ……そして手遅れの可能性が高い」


 俺ははるか遠く、リアンダ方面の空を見上げる。

 無論、ここからでは分からない。


「二人だけで納得してないで教えてほしいにゃ!!」

「そ、そうだ! リアンダの港町がやばいとはどういうことなんだ!?」


 ジェラはともかくアナスタシアは自国であるから気になるのは当然だ。

 そしてこれから伝えることはとても残酷なことだった。


「落ち着いてきいてくれ……リアンダは今、ケツァルに襲われている可能性が高い」

「なんだと!!? どうしてだ!!」


 俺は一呼吸おいて、ゆっくりと答えた。



「ギルドに助けを求めてきた村人……あいつがケツァルだ」




「な、なんだと!? あいつが!?」


 驚くのも無理はなかった。

 ただの村人だと思っていたやつが魔獣で、しかも親玉という。

 そもそも俺は不思議に思っていたんだ。

 

 ──何故ただの村人が魔獣のでる街道を一人で歩いてこれたのかと。


 最初は運が良かったのだと考えた。

 だが……村人一人で街道をいかせるにはリスクがありすぎるのだ。

 途中で魔獣にやられてしまっては勇者をおびき出す作戦も水の泡となる。

 勇者に対する作戦や罠を幾重に巡らせてる頭脳があるのに、そこだけが妙に穴だらけだから気になっていた。

 でも村人が魔獣……しかもケツァルだとしたら辻褄が合うのだ。

 俺と勇者が一緒に依頼を受けたことも、魔石を暴走させて俺を殺そうとしたのもすべてそう考えると合点がいく。

 おそらく……俺たちを送ってくれた御者もケツァルの手下だろう。


 


 ──そして、次は俺たちを────



 

 ドンッ! ドンッ!


 でかい図体を左右に揺らしながら歩いてくる巨人がいた。

 その横にはポツンと見覚えのある顔。


「あははは!!! ケツァル様の言った通り皆さんボロボロね!」

「まさかあの暴走を止められるとは……ケツァル様が一目置いているのもわかるな」

 

 現れたのは巨人族の女と俺たちをここまで送ってくれた御者であった。




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