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10、リヴァイアサンとの戦い

 



「ほう、なにやら美味そうな匂いがすると思ったら……」


 ぎょろりとひと睨みし、しばしの沈黙の後リヴァイアサンがそう話しを切りだした。

 「しゃべった!」と小声で驚くリーリア、だがその手は俺の服を掴み小刻みに震えている。


「久しぶりだなリヴァイアサン」


 リーリアを背中に庇うように隠しながらリヴァイアサンに向き合う。

 

「誰かと思ったがベアルか、こんな所で何をしているのだ」

「ちょっとな」


 封印されてるなんて恥ずかしくていえない。


「ほう……してその子は?」

「俺の子だ」


 俺の後ろで隠れているリーリアが気になるらしい。首を左にちょっとずらし覗き込んでくる。だが俺もそれに合わせて動き直隠ひたかくし。


「む、何故隠す?」

「……なんとなくだ」


 リヴァイアサンはむきになり、しきりに左に右にと首を振る。

 俺も負けじと左に右にと動く。


「……まあいいだろう、なんかその子から良い匂いがしたから気になったのだが」


 ふ、勝った。

 って良い匂いってなんだ?


「リヴァイアサン……お前は子供好きだったか?」

「いや、そういう訳ではない。まあ食べるなら大人より子供のほうがいいのは確かだが」

「そんなことしたら殺す」

「分かっている」


 殺意を込めて視線を向けるが、リヴァイアサンは意に返さず「ふん」と鼻から息をもらす。

 どうやら食べようと思っている訳ではないらしいが、だとしたら何の用があるのだろう。


「じゃあ何故この島にきた?」

「不思議な魔力探知を感じてな……多分その子の魔力が他の者とは違うのだろう」

「なんだって?」

「何といったらいいかわからないが……妙にざわつくのだ」


 どうやらリーリアに惹かれて来た事は間違いないようだ。

 しかし不思議な魔力とはなんだ?

 魔力の質に個人差なんてあるのか?

 いや、そんな話は聞いた事がない。

 

「ところでベアルよ、久しぶりに決闘でもしようではないか、我もかなり力をつけたのだぞ」

 

 やっぱりきたか!

 そう、こいつは会うたびに戦闘を仕掛けてくる戦闘狂だ。かく言う俺も昔は戦闘狂だったので文句は言えないのだが、今はすっかり落ち着いてしまったので、ただただ面倒くさかった。


「お前と戦う理由がないが」

「む? 理由が無くても戦うのが我々だろ?」

「……それは昔の話だ」

「ほう……なるほど、その子の影響か」


 勝手に理解して納得しているようだが、まあ大体あっているので否定はしない。

 

「しかし我はもう我慢ができん、おぬしにやる気がなくともやらせて貰うぞ。その子を巻き込みたくはあるまい?」


 そう言うと鎌首をもたげた。

 どうやら俺に選択肢はないようだ。

  

「……はあ、仕方ねえ」


 しかしどうしてここまで自分勝手なのか。

 ああ……そういえば俺も昔はこんなんだったっけ。

 人の振り見て我が振り直せというが、そもそも同類だったから何も感じなかった。

 今は思う。ああ、こいつ面倒くせえと。

 リヴァイアサンを見ていると得も言われぬ感情が湧き出る。

 何ていうか……恥ずかしい。昔の自分を見ているようだ。

 

 リヴァイアサンはうきうきと長い体をうねらして準備運動をしていた。


「お父さん、なんであんなに動いているのに波が立たないの?」


 リヴァイアサンを指差し、落ち着いた声でそんな疑問を投げかけてきた。

 どうやら俺とリヴァイアサンが顔見知りと知り緊張が解けたようだ。

 しかしそこに目をつけるとは……さすが俺の娘、着眼点がよい。


「基本魔獣は発声なしで魔法を使う。それにリヴァイアサンは水魔法に関しては卓越した技術をもっているんだ。まるで手足のように水を操れる」

「そんなことできるの!?」

「上級精霊となればできるぞ……まあ見ていなさい」

「えっ」

「これからお父さんが本気の戦いを見せて上げよう」


 俺はそう言うと一歩前にでる。

 やる気があろうがなかろうが戦わなくてはならない。

 ならばこの戦闘を楽しもう。今の俺の全力を知る機会だと思えば気が楽だ。

 それに俺の闘いを見せる事は良い勉強になる。


「やる気になったか、久しぶりに血が騒ぐわ! 海の中にはもう我の敵となるものはいないからな!」

「やるのはいいんだが、一つ条件がある」

「ほう、なんだ?」

「俺が勝ったら二つ言う事を聞いてもらうぞ」

「む? なんだそれは、死ねとかは嫌だぞ」

「そんな下らんことは言わないさ……まあ簡単なことだ」


 露骨に嫌そうな顔をするリヴァイアサン。

 でも面倒くさくても戦ってあげるのだから報酬が欲しい。

 

「じゃあ我も勝ったら一つ言う事を聞いてもらうぞ」

「リーリアはやらん」

「わかっとるわ! もっと違う事だ」

「……俺にできることならいいだろう」

「よし、じゃあ交渉成立だ」


 こうしてリヴァイアサンと戦う事になるのだった。


「リーリア、ちょっと戦ってくる」

「……うん、お父さん大丈夫だよね?」

「安心しなさい、お父さんはこれでも最強だからね」

「うん……ちょっと落ち着いたら、何となくお父さんのほうが強いってわかったけど……」

「ほう」


 魔力の違いがわかるのは実力がついてきている証拠だ。早速、魔力探知の練習の成果があらわれてるな。やはりリーリアの成長は早い。


「それでも私心配だよ……」

「リーリア……」


 万が一にも俺がいなくなると考えたら不安で仕方ないのだろう。

 俺はリーリアをひょいと抱き上げた。


「わっ! お父さん?」


 驚いて顔を掴まれるがその手は柔らかい。ほのかにお日様の香りがする。

 

「ほら、リーリアをこんなにも簡単に持ち上げられるぞ」

「ええー、なにそれー!」

「ははっ」


 お互いに顔を合わせてクスリと笑う。


「おーい、我のことを忘れるなよ」


 リヴァイアサンが魔力をみなぎらせて佇んでいた。




「では……リーリア、巻き込むつもりは無いが、念のため魔力バリアを展開して見ていてくれ」

「ええと、魔力を放出してればいいんだっけ?」

「ああそうだ。自身を魔力で強化し、さらに魔力で体を覆う様に放出するんだ。リーリアならできるはずだ」

「えっと……こうかな?」


 リーリアの周りを魔力の膜が覆う。力、強度共に申し分ない。


「さすがだ、偉いぞリーリア!」

「えへへ! お父さん頑張ってね!」

「まかせろ」


 サムズアップをお互いに決めて、リーリアを見送り豆粒サイズまで遠ざからせる。それ位しないと範囲魔法を使った際に巻き込む危険があるからだ。


 十分に離れたのを確認して、俺は精神を統一する。

 本格的な戦いなんて約300年ぶりだから体は確実に鈍っているだろう。


「ふんっ!」


 気合と共に魔力操作で全身に魔力をめぐらせる。

 細胞一つ一つに魔力が行き渡るのを感じた。

 これで力、強度、速度、すべてが強化された。

 

 準備は万端だ。

 

「待たせたな」

「ふははは、いくぞ!」


 リヴァイアサンの咆哮。

 そして高まる魔力。

 口に集約されたブレスを放つと、小さな水球の集合体となり豪雨のように降り注ぐ。同時に俺は土壁アースウォールを展開した。

 ブレスは轟音と大量の砂を撒き散らし、土壁アースウォールが刻々と削られる。それでもブレスは止まらない。

 ついに土壁アースウォールが崩れるがすでに俺の姿はない。

 空中へ跳躍。風魔法ウインドによって空中で静止していた。


「ファイアーピラー」


 一瞬ちかちかと火花が散ったかと思うと、爆音。そして巨大な火柱ファイアーピラー

 天まで続くかと思われるその火柱はリヴァイアサンを飲み込んだ。

 火柱の周りの海は枯れ、焼かれた海王がそこにいた。

 激しい波の音がして海が元通りとなる。

 こんがり焼かれたリヴァイアサンは海に浮かんでいたが、体の表面を水が這うように行き渡り、みるみるうちに回復していった。


「やるではないか!」

「降参するか?」


 俺は勝ち誇ったように空中から見下すが──


「するわけがなかろうっ!」


 一言のもと海から触手のように水が暴れまわる。

 その数、百はあるだろう。

 空中にいる俺の元に次から次へと襲い掛かる。

 ウインドを駆使しそれを器用に避けるとリヴァイアサンに向かって急降下する。


「ばかめ!」


 勝ち誇った風に、リヴァイアサンは大きく口を開けるとブレスを放ってきた。

 ふん、そんなものっ!

 俺もまけじと急降下しながら火炎球を連続で投げつける。

 水の球と火炎球がぶつかり合って視界は白く染め上がって行く。

 白い水蒸気は煙幕となりブレスが避けやすくなった。

 そしてリヴァイアサンの背中へと着地すると、


「ふはは! こっちだぞ! 絶対零度アブソリュートゼロ


 魔力の放出とともに広がっていく氷の世界。

 海は流氷のように凍り、巨大な塊となった。

 ブレスも氷の粒となりぼろぼろと落ちていき、がつんと重い音がする。

 力は抑えて発動した。ふとリーリアを見ると目の前まで凍った地面に驚いているようだった。

 さて、リヴァイアサンは──


「グオォォォォォ!!!」


 さすがに凍らなかったが、氷の塊に邪魔されて身動き取れないでいた。

 俺はストンと氷上にお降り立ちお決まりの質問をする。


「降参するか?」

「するかっ!」


 即答である。

 すでに怒鳴り声となっているのは思うように戦えないからだろう。

 しかしさすが海王。

 氷は溶け始め海へと戻っていく。

 すでに大半は溶け、俺の立つ場所の一部を残す形となった。


「ベアルよ、おぬしは昔からかわらんな」

「そうか? 大分大人しくなったが」

「いや、戦うと分かるぞ、その姑息な手段はかわらぬ」

「いや別に、普通の魔法じゃ──」


 がぶり


 喋り途中の俺へ、噛み付き攻撃をしてくるリヴァイアサン

 俺は宙返りをして飛翔、島へと着地した。

 リヴァイアサンを見るとニヤリと笑っていた。


「姑息なのはお前じゃねーか!」

「はん! なんとでも言うがいい!」


 もう手段は問わないということか。

 それだけリヴァイアサンは焦っているのだろう。

 何せやつは水魔法しか使えない。

 火、風、土魔法が使えないので、当然ながらその上位の複合魔法も使えない。

 だがリヴァイアサンは最上級の魔獣である。

 それは何故か。

 自慢の鱗は物理攻撃を殆ど通さず、治癒能力が非常に高く大きな傷を負ってもすぐに回復してしまう。それに戦いのフィールドは海になるので、その優位性によって並の剣士では歯が立たないだろう。

 それに海では魔法も効果が薄くなるし、倒せるくらいダメージを与えたとしても簡単に逃げられてしまう。

 なのでこの魔獣は長い間、力をつけ海王と呼ばれるまで登り詰めたのだ。


 だが俺のような魔法特化の魔族にとっては戦いやすい相手である。

 むしろ耐久性のあるリヴァイアサンは、魔法撃ち放題、使い放題なので絶好の練習相手といえる。威力を見るのにこれほど都合の良い相手はいないだろう。

 まあ、それはリヴァイアサンも理解しているとはいえ、負けたままでは自身の誇りが許さないのだろうが。

 

 

 リヴァイアサンの内から見たことも無いような膨大な魔力があふれ出てきていた。


「仕方が無い……これは我のとっておきだ」

「ほう、なにかするみたいだが俺にはきかんぞ」

「その余裕がどこまで続くかな?」


 海全体が荒れ始め、それは巨大な渦となり、空には薄暗い雲が集まる。

 やがて巨大な竜巻が発生した。

 

「我のとっておきだ……くらえ!」

「なっ!?」


 巨大な竜巻に稲妻が駆ける。その姿はまるで檻の中に捕らわれた竜が暴れているようだった。

 

「これは雷の竜巻(サンダートルネード)じゃないか」


 上位の複合魔法である。まさか風魔法も使えるようになっていたとは。

 それがすぐ目の前にきている。まずい。

 これに触れれば最後、感電したままバラバラにされ、しまいには吹き飛ばされ地面に叩きつけられるだろう。


 水魔法しか使えないと侮っていたが……。

 これを魔力バリアで耐えようとしたら膨大な魔力を消費してしまうだろう。そうすると俺が不利になる。

 ……ならば仕方ない。


 俺は集中して魔力を高める。


 ──リーリアに被害がいかないように。


 ────威力は最小限に。


 ──────位置の調整完了。

 

超獄炎爆破フレアバースト!」


 一瞬の静寂。それは白い世界。

 そして時は動き出す。

 轟音。衝撃。爆炎。

 まわりの木々や砂、そして海水までもが耐えられない衝撃によって消えうせる。

 それは雷の竜巻(サンダートルネード)も不可避。

 跡形も残らない。

 眼前に残ったものは体がぼろぼろの状態となったリヴァイアサン。

 鱗は剥げ、皮膚は崩れ落ち、もはやその姿から原型はわからない。


 …………やりすぎちまったか。


 ちらりとリーリアの方を見がそこにリーリアの姿はなかった。

 だが俺は慌てない。

 空中を見ればウインドで飛び上がり唖然としているリーリアの姿があった。

 音や衝撃にびっくりしたのだろう。


 もちろん被害が及ばないように抑えてあった。

 その証拠にリーリアのいた場所は無事だ。

 

 ……この魔法は威力がありすぎる。

 本当は使いたくなかったがあの魔法を消し飛ばす方法を咄嗟に思いつかなかったのだから仕方ない。


 しかしこれ……生きてるかな?



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