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1、プロローグ

初投稿です。よろしくお願いします。

 


 俺はふらふら浜辺を歩いていた。

 黒い髪はだらしなく伸び、不衛生な無精髭は伸ばしっぱなし、服は奴隷のようにぼろぼろでかろうじて高価そうに見えるマントも色あせている。

 顔立ちは若く昔はカッコいい部類だったはずなのだが、生気のなくなったその顔はまるでゾンビのようである。


 浜辺にはさまざまな漂着物が流れ着く。

 昨晩、嵐が通り過ぎ本日は雲ひとつ無い晴天だった。

 俺は何か使える物が無いかと波際を歩く。これは毎日の日課となっていた。

 

「……今日はシケてるな」


 本日はどうもハズレの日のようである。戦利品といえるものは、ぼろぼろで今にも千切れそうなロープのみ。


「前みたいに酒樽が流れ着いてないかなあ」


 運がいい日は時折、流れてくる事がある。

 この辛い生活を一瞬でも忘れられるのなら、粗末なエールでも最高の美酒となろう。


 しかし眼前に広がるは白く綺麗な浜辺。それに不満はないができれば沢山の漂着物を希望する。


「くそ……何でもいい……俺に娯楽を…………」


 俺は欲していた。目新しいものを。ひまつぶしを。

 唯一の暇つぶしといえば漂着した木の板に魔力で彫り、木版画を作る事くらいか。



 なぜ俺はこんな事をしているのか?

 なぜ俺はこんな思いをしなくてはならないのか?

 なぜ俺はこんな惨めなことになっているのか?

 なぜなぜなぜ……

 


 ここは世界の南東にある島。

 300年前に伝説の戦いがあった場所。



 ──そして俺が島ごと封印されたところ。

 


 昔のことを思い出しそうになるが頭を振る。

 もう終わった事だ、戦いに後悔はなかったはずだ。

 しかし島で過ごした300年は俺を無気力にするのに十分な時間だった。

 当時、世界を席巻しようとしていた勢いはもはやない。

 


「……今日は暑いな」


 燦々さんさんと照りつける日差しが自分をさげすむかのように感じられて憎い。

 ひたいに汗が滲む。

 鬱になりかけていた気分と共に、袖でそれを乱暴にぬぐった。

 

「こんなに暑いと喉が渇くな──ウォーターボール」


 水魔法を発動し手のひらサイズの丸い水球が浮かび上がる。

 それを器用に操作しごくりと飲み込む。


「……ふぅ」


 少し気分が落ち着いたので改めて浜辺の見渡す。

 はは、なんとも酷い形だ。

 みかづき状の島なんだが、元は丸い形の島だった。300年前に俺が魔法で吹っ飛ばしてしまったのだ。

 今はすごく反省している。


 というのも島の大半を破壊してしまった報いが今の生活に影響しているからだ。

 まず森がなくなりその所為で生物の大半が全滅、海は大きな穴が開きそこに海水が流れ込んだ。海洋生物は豊富になったのだが毎日魚しか食べられないのはかなりきつい。

 

 俺は探索を開始する。とはいってもほぼ島の南側、浜辺の先端まで歩き終わり、引き返そうとしたとき目の端に妙なものが映ったのを逃さなかった。


「…………あれは何だ? ……船か?」


 俺は格好に似合わぬ素早い動きでその船に近づいた。よく見ると小型の丸木舟が暗礁あんしょうに乗り上げていたようだ。


「何か乗ってるな」


 足が濡れるのもかまわず丸木船に近寄った。そしてその丸木船に乗っていたものに驚愕きょうがくする。 


「これは赤子ではないか!」


 目も眩むような白い肌に薄い紫の髪の毛。そして何よりも印象的なのが力強い瞳であった。

 俺はそっと手を伸ばし赤子の髪にふれた瞬間、強い衝撃が手を襲った。


「……高位の法術だな……だが!」

 

 俺は手に意識を集中させ魔力を送り込んだ。するとまるでガラスが割れるかのごとく、赤子を覆っていた結界が消滅した。

 待ちきれないとばかりに赤子を包んである毛布ごと抱き寄せる。毛布から伝わる赤子の体温が心地いい……俺はしばらく愉悦ゆえつに浸っていた。


「はは……人はこんなにも温かい」


 俺は大事に赤子を抱え砂浜に戻る。一応丸木舟も運んで、持っていたロープで木にくくりつけておく。そして一目散に自分の建てた小屋に帰った。


「まずはこの子の名前を考えなくてはな! それに食べるものとかどうすればいいのだ!? ああ、やることがたくさんだ!」


 そう言う俺であったが、顔はにやけている。これからの日々を考えるだけでもワクワクが止まらないのだ。


「今ならどの神にでも感謝の祈りを捧げられるぞ!!」


 俺の名はベアル。

 この出会いが俺の人生を変える事になったのだ。



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