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人生には必ず分岐点と言うのものが存在する。
1日に何度も何度もその分岐点を掻い潜って人は生きていく。
例えばそれは朝目覚めた時から始まっている。
目覚まし時計が鳴り響く中夢見心地のまますぐにベッドから起き上がるか、もう少し毛布の中でぬくぬくするか、たったそんな事でさえも分岐点と言うものが存在する。
現実の分岐点は間違えててもあちらの生き方き気付かずにやり過ごしてしまう。
何故なら選ばなかった方の生き方がどうなったか知る事は無いからだ。
だから、私は常に物事を慎重に選ぶ事にしている。
自分に正しいのは本当にAの答えでいいのだろうか?
考えて考えて考え過ぎるほど考えてしまう。
そう言う性格ゆえ、いまの私はとても悩んでいる。
どの答えが正解なのか分からないままもう何十分も悩んでいる。
左の手の平が汗ばんできた。
私は今。
スマホ画面の向こう側のこれから私の彼氏になり得るかもしれない銀髪の人に掛ける言葉を4つの選択肢から選ばなければいけないのだ。
あまりこう言うタイプのゲームはやっていなかった私でもある程度の流れは分かっているつもりだ。
選択肢を誤れば今後のルートにかなり影響を与えてしまう。
下手すればハッピーエンドを迎える事ができなくなるかもしれない。
始めたからには無事にハッピーエンドを迎えたい。
今私が悩んでいる選択肢は。
待ち合わせに30分以上も遅れてきた相手に何を言うべきか?
そもそも30分も遅れるとか常識的にあり得ないでしょ。
それなのに、あり得ないあり得ない。
①の選択肢から『何も言わない』なんて答え。
平然と遅れてきて謝りもしないこの男に何て言えばいいのだろうか?
この人、一条紅蘭は学園の理事長の一人息子と言う、ありきたりの設定で典型的なワガママ男である。
遠い、それこそすごーくとおーい親戚に当たる私は昔から彼にこき使われる人生を歩んできたらしく、他の2つの選択肢もどれも同じように私に落ち度があるような返事ばかり。
『おい、いつまで黙ってんだよ!早く行くぞ!』
催促するようにシルバーグレイの瞳の目尻が上がった。
はぁー!腹が立つ!
結局ゲームなんだからどれを選んでもそんな支障はないでしょう!
と、一番上の選択肢を押した途端画面が真っ暗になった。
何度も画面を叩いても何の反応も無い。
ゲームの演出?
だがすぐに画面が明るくなり困り顔の星蘭が現れた。
『遅れて悪かったな』
???さっきまでの横柄な態度とうってかわってしんなりした表情の紅蘭。
何で急に謝ってるの、これ間違ってない?
『あっと…、えっと、これで良かったんだよな?待ち合わせに30分以上遅れて、その答えを言うんで…で、オレはこの後…』
紅蘭が私を見た。
あ…最初にこのゲームで彼を見付けたあの時と同じだ。
今はっきりと彼が私を見てる!
『待たせて悪かった、リリア』
あ…。
何だろう、胸が、胸が苦しい。
彼が私を見付けてくれた…。