最後の告白
「ちょっとキミ何してるんですか?」
私の首に指を絡ませていた純は突如現れた人物に跳ね飛ばされ、今の自分の状況が把握できないようで、ぽーっと視線を上にした。
僅かに残るラベンダーの香りに、先程までの恐怖が和らいでゆく。
「大丈夫ですか?」
私に差し出された白い手。
顔を見なくても誰のモノか分る。
「ラベンダーさん!」
「あれ?まだ僕の名前教えていませんでしたっけ?まぁ、そのままでいいです、それより大丈夫ですか?」
「邪魔するな!」
ラベンダーさんの言葉を遮って純が声を重ねた。
私の事を見るその目は今までの純とは全く異なっていた。
今ここにいるのは本当に純なのだろうか?
いつも優しかった純は本当の純だったのだろうか?
腰を屈めた私を見上げる純の事、私には知らない人間に見えた。
豹変したのは純だけじゃ無かった。メガネのツルを軽く持ち上げてから、視線の高さを純に合わせたラベンダーさんも今までと違うトーンで話し始めた。
「まさかお前も生まれ変わってたとはな」
低いのに通るその声はあの人にそっくりだった。
毎日毎日聞いていたあの人の声。
「ランドールさま…?」
ああ、ランドールさまの声だ…。
どうして?ラベンダーさんが?
「ずっと言い出せずにいて悪かった。キミを騙すつもりは無かった。ただ少し猫被ってたら思ったより高い声になってた」
クスっと唇の端に笑みを浮かべるその表情はランドールさまのそれだった。
「デュオ、もういいだろう?これ以上自分を傷付けるなよ」
「…何でお前がここにいるんだよ!何でお前が…こっちの世界にいるんだよ!」
舌打ちをしながら立ち上がった純は口調は荒かったがいくらか落ち着いたように見えた。
「今日はもういいや。いや、今日ってかもうどうでもいいや」
頭を掻きながら私に近付き眉をしかめた。
「何て言うか、謝って済むことじゃないし、今更何言ってもふざけるなって思われるだけだよな…」
純の大きな手が頭に触れた。
「お前はずっと気付いて無かったけど、オレ、お前の事ずっと好きだった、ずっとって言葉じゃ全然足りない、生まれた時からお前の事探してた、まさかこんな近くにいるなんて思いもしなくて。もっと早く打ち明けてれば良かった。お前が記憶を戻す前に、お前がランドールに出会う前に」
顔を上げるとよく知っている純がそこにいた。
「まぁ、言ったところで何にも変わってなかっただろうけど」
そう言い終わらないうちに抱き締められた。
突然の事で何が何だか分からずに、
「…ちょ、純?」
「もう大切な幼馴染みにも戻れないから、最後に」
お前に会えて良かった、純の言葉が胸に伝わった。




