電話
アイツとは誰の事なのだろう?
ランドールさまがアイツと呼ぶぐらいだから、まぁまぁ親しい間柄である事は間違いない。
いや、一方的にランドールさまが知ってる人間?
そうだとしたら私が知るよしもない人物になる。
まぁ、そうだとしなくてもランドールさまの人脈なんて私が知る筈もない。
「ランドールさまの方こそ、何か思い出されましたか?」
しばらく考える仕草をしていたランドールさまだったが、一瞬眉を寄せ、あっ、と短く声を上げた。
「何か思い出しました?」
『いや、全く…。ただ久々にお前のリゾットが食べたくなった』
前世の私が初めてランドールさまに作ってさしあげたリゾット。
ランドールさまが望むなら今すぐにでも作ってさしあげたいが…。
『ここにいると腹が減ったりしないんだが、お前のリゾットはスゲー食いたい、と言うかずっと食べたいと思ってた』
切実なランドールさまのお言葉。
ランドールさまのためなら…と。思いはするが…。
「…私、料理した事ないんです!ごめんなさい。一人娘としてぬくぬく育てられた結果、包丁さえまともに握った事が無いんです」
私の言葉を聞き終えると、え!ってまた短く言葉を発して目を数回開いたり閉じたりしてみせた。
『リゾット作れないのか…?』
「ごめんなさい!」
スマホを片手に頭を下げる事数回。
『もういい。どうせ食えねーし』
と諦め半分の口調が聞こえた。
『今はそれよりも、考えなければいけない事があるしな…。…本当は癪に触るが…』
スマホ画面が一瞬通話履歴画面に変わり、上下にスクロールしていき、ある一人の人物のところで止まり、数回の呼び出し音の後、眠そうな声がした。
「誰ぇ?」
聞き慣れた声がすぐに純だと分かった。
『今すぐリリアの部屋に来い』
「は?何でお前に命令されなきゃなんねーんだよ?」
『お前が誰だか分からねーが、今すぐ来い、分かったな?』
相手の返答も待たずにスマホを切ったランドールさまを見た私は。
「ランドールさま、そのような事もできたのですね…」
そう言いながら脳内は軽くパニックを引き起こしていた。
と言う事は私の通信記録もデーターも見放題じゃない!
恥ずかしい事は何も残していないと思うけど、それでも、やっぱりいい気はしない。
ランドールさまと出会ってからスマホはランドールさまが占拠しているから、彼に対しての惚けなども誰にも伝えていないけど…。
『どうした?』
「いえ…その…そのような事ができるなんて存じていなかったので」
『使ってみたのは今が初めてだ』
「そうですか…」
私だってランドールさまの手帳を見てしまったし、いや、でもそれはランドールさまが亡くなった後だし…。
うーん、ごちゃごちゃ考えても仕方ない。
今は取りあえず、ランドールさまに呼ばれた純が来るのを待とう。




