大切な幼馴染み
「おーい、おーい、おーい、純!おーい!」
向こう側の窓に向かい何度か呼び続ける事数秒…。
窓が開いた。
元からタレ目の目をいっそう下げた純が訝しげに首を傾けていた。
子供の頃は糸電話を使って純と会話したりしたけど、普通に話しても変わらないと言う事に気付くまでそう時間はかからなかった。
学校や家庭でイヤな事があった時、逆に嬉しい事があった時とかいつも一番に純に聞いて欲しかった。
肯定も否定もしないで私の話を最後まで聞いてくれる純が目の前にいると安心した。
ただ聞いて貰えるだけで嬉しかった。
それはきっと…。
「何かお前にこうやって呼ばれるの久し振りだなぁ」
「うん、私も同じ事思ってた」
「何かあった?」
「…うん」
私の手を見て純は、少しだけ気まずそうに目を泳がせた。
「スマホ電源入れたんだ?」
「うん…」
「そっか。…で?俺に何の用?」
「純がランドールさまの生まれ変わりって嘘だよね?」
嘘だとして、どうして純がそんな嘘を言ったのかは分からない。
100%嘘だと言い切る自信は私には無い。
だけど。
純を見てランドールさまを感じる…ランドールさまを思い出す事は全く無い。
「何でそう思うのぉ?」
私は自分の直感を信じただけ。
「直感」
「相変わらず単細胞だね、お前って。自分の事となると盲目的になって周りの意見なんて全く聞かない」
「それとこれとは話しが別!本当の事を教えて」
純はじっと私を見て頭を掻きながら深く息を吐いた。
「絶対ばれないと思ったのになー」
「…」
「そうだよ、俺はランドールさまじゃない」
「…やっぱり、どうしてそんな嘘をついたの?」
「そんなの決まってるじゃん」
深い藍色の瞳が私の目を覗き込む。
深く深く見つめられ、鼓動が早くなる。
「お前が好きだからだよ、お前を俺だけのモノにしたかったから」
「…え?」
「またダメだったかー、何度生まれ変わっても結局オレは振られる運命なのかー」
両手で大袈裟に頭を抱え、クソーと暴言を吐き出した。
「今度こそ、ランドールさまに勝てると思ったんだけどなー、だって、今のランドールさまとお前、次元が違うんだぜ、絶対に結ばれる訳ないし、だったら、同じ次元のオレと一緒になった方がうまくいく!」
純の言いたい事も分かるが、でも、それって。
「かなり一方的じゃない?私の気持ちガン無視じゃん…」
私の言葉を聞き終えると。
は!
と音が聞こえるほど大きく息を飲み、傍目にも分かるほど、しょげた顔で項垂れていた。
「だから……いつもうまくいかないのか…」
「ごめんね」
「謝んなよ、余計に凹む」
「ごめん…て」
先ほどまで陰っていた空が月明かりで優しく純を照らした。
「いつもありがとう」
「何?今さら?」
「純は私の大切な幼馴染みだよ」
きっと……純はあの時の私の一番大切な男の子だったから。
「純とはきっと来世もこうして幼馴染みでいたいなー」
何か言いたそうに唇を尖らせていたがそれ以上純は何も言う事はなかった。




