ソシャゲ
『また明日の深夜ここに来たらお前に会えるのか?』
うっすらと揺らめく蝋の明かりが無機質な白い壁にランドールさまのシルエットを映し出し、その姿でさえ愛しく、この瞬間がずっと続けばいいのにと願ってしまう。
また明日と言う現実を生き抜けば、こんな風に夢のような時間を味わえる事ができるのですか?
本当にまたお会いする事ができるのですか?
いつもは幼馴染みのデュオにからかわれるぐらいのおしゃべりな口が開かない。
余計な言葉を発したらこの一瞬が消えてしまうのではないか、なんてそんな事さえ思ってしまう。
ああ、ランドールさまがお口をナプキンで拭いてらっしゃる、そろそろ、行ってしまう…。
その前に、席を立たれるその前に何か何かお声を掛けたい…。
一言でいいからランドールさまにお声を…。
『あ、あの!』
口を開けた瞬間景色が崩れて落ちていく。
左右対称にまるで雪崩でも起きたんじゃないかと思うぐらい大きな音を立てて部屋が崩れていく。
待って、もう少しだけ、ランドールさまの側にいさせて…。
「ランドールさま…」
相も変わらずカーテンの隙間から零れる太陽の光で目が覚めた。
また例の夢か…。
全部は覚えていないけど、まだドキドキしてる、胸の鼓動が止まらない。
頬が熱い。
ただの夢だと分かっているのに、さっきまで目の前にいたあの人を探してる。
これって、間違いない、私、あの人に恋してる。
え?嘘でしょ?
ただの夢だよ!
でも…。
私が今やるべき事は決まってる。
スマホのアラームを切るついでに画面を開き、この間リリースしたばかりのソシャゲをダウンロードした。
聴いた事のないメロディとしばしのローディングの後、タイトル画面が流れた後、白くて綿菓子のようにフワフワした丸い生き物が出てきた。
『やぁ、初めまして、ボク、トム。宜しくね!じゃ、さっそくだけど、キミのプロフィールを入力してね』
彼の言葉が終わらないうちに自分のプロフィールを入力する場面になった。
生年月日、名前、血液、身長、体重…、え?何これ?スリーサイズって何それ?こんな個人情報入力しなくちゃダメ?
今までいくつものソシャゲをやってきたけど、こんなの初めて、これ本当に大丈夫なやつ?
てか、こんなの本当の情報入れる人なん
ていないよね、うん、適当に入れよう!
と、画面をクリックしようとしたら。
『あ!念のために。ここでのプロフィール画面では正直に入力してね。偽りのプロフィールを入れた場合、推しキャラとの恋愛に支障をきたすので、いい?絶対に嘘は入力しないでね!もちろん、公開される事は絶対に無いのでご安心を』
へ?マジ?
何だか怪しいけど…。
私は…。
入力画面の背景に流れている、推しキャラの中でシルバーの髪、髪と同じ色の瞳をした彼を見つけた瞬間、スラスラと正直にプロフィールを入力し始めてしまった。
入力した途端暗転になり、長いローディングが始まった。
『次に…、インカメで自分の顔を映してね!その顔を元にアバターが作られるので楽しみにしていてね!』
インカメで撮影?そんな事までするの?
まぁ、今さら何を言われても驚かないぞ。
言われるままに、あまり得意では無い自撮りをして、入力画面をクリックするとチュートリアルが始まった。