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とは言え不安に思ってる事全てが消えた訳でない。
むしろ大詰めだ。
解決の糸口にもなっていない、ランドールさまを殺害した犯人。
次に純の言葉。
二階の窓から、隣の家の純の部屋を見てみる。
電気が着いていないところを見るとまだ帰っていないみたいだ。
自分がランドールさまの本当の生まれ変わりだと言う言葉。
私とランドールさましか知らない事を知っていたのが引っ掛かるし、純のあの時の目が気になって気になって。
そして…。
サンティエさまと結婚を決めた私の心情は?
何をどこから解決していくか?
いや、そもそも解決なんてできそうにない。
仮にランドールさまを殺害した犯人の事ワタシが覚えていたらその内私の記憶として甦ってくるのだろうか?
犯人が分かったところで、今更どうする?とまたここで思考が途切れる。
だけど。
見付けたい、見付けて聞きたい。
どうしてランドールさまを殺害しなければいけなかったのか?どうして、そんな事をしたのか?
『おい、おい、聞いてるのか?』
ランドールさまがしびれを切らしたように声のボリュームを上げ、私を探してる。
あ、スマホ机に置きっぱなしだった。
「も、申し訳ありません、ランドールさま」
『…なぁ、そろそろその言葉遣いやめないか?』
「えっと…」
『普通にランドールって呼べないか?』
「え!そ、そ、そんな恐れ多い事む、む、無理です!」
『そうか、なら、オレへの想いをその口で伝えてはくれないか?』
「え!っと」
私の様子を楽しむように口元を緩ませるランドールさまは絵画のように美しかった。って、一応絵ではあるのか。
近代化のアニメ絵は肖像画のような堅苦しさが無くなった分、ランドールさまを身近に感じる事ができる。
愛しい愛しいランドールさま。ランドールさまがお望みであれば何度だってこの気持ちを伝える事不可能じゃない。
『さ、早く』
「うう…」
急かされるとなかなか言いづらいが…。
ランドールさまのボルドーの瞳が優しく私に寄り添ってくれているのを見て、私は口を開いた。
「私はランドールさまを心の底から慕っております。この気持ちは未来永劫…いえ、生まれ変わり次の時代も私は貴方を想い続けます」
束の間の沈黙の後に、ピピと言う電子音と満足そうなランドールさまの笑顔がそこにあった。
「え?今の音何ですか?」
『ああ…。今の言葉を保存しておいた』
「え!」
『ここを押すと…』
ランドールさまの細い指先が一点を押すと、
『私はランドールさまを…』
先ほどの私の声が流れ始め、
「え!ーー。ストップストップ!!!!!」
慌てて、その言葉を削除しようとしたもののどうしていいか分からず、ランドールさまを落としそうになり正気を取り戻した。
「何やってるんですか?ランドールさま!」
『いや、ちょっと試したくなってやってみた、便利な世の中だな、こうして大切な想いが保存できるとは』
私の言葉が終わり恥ずかしさが込み上げてきた。
ランドールさまがこんな事をするなんて思わなかった!
でもでも。気持ちは全て本物だから、いいのか?
熱くなった頬を冷やそうと窓を開けた時、純の部屋の明かりが点いた。




