最悪な風
「リリア、また食べなかったのか?ちゃんと食べないと本当に死ぬぞ、お前」
あれから毎日私の部屋を訪れてくれるデュオに、私はベッドの上で力無く頷く事しかできなかった。
「私…死罪なんでしょ?ランドールさまを……、ランドールさまを…」
暗殺…言葉にするのもおぞましい。
ランドールさまが亡くなった事を今だに受け入れられないのに…。
どうして、こんな事になってしまったんだろう?
自分が死ぬ事はどうでもいい。ランドールさまのいないこの世界に何の未練も無い。
ただ、私は…私は…。
「私はランドールさまをランドールさまの事を心からお慕いてた、ただそれだけなのに」
そんな想いがきっと良くなかったんだ。
やっぱり、私なんかがランドールさまを想う事自体間違っていたんだ。
ランドールさまと私の間には絶対に越える事のできないモノが存在しているのだから。
身分違い…今更何言ってるんだろ、私。
「分かってるよ、お前がどれだけランドールさまの事を思っていたか。だから、そんな事言うなよ。お前がランドールさまを殺す訳ない、だから、ちゃんと生きろよ」
私の横に座り肩を抱き寄せてくれるデュオの温かさが伝わってきた。
「…ありがとう、デュオ…」
でも、正直、私にはもう生きる意味がない。
「にしても、貴族ってのは血も涙もないのかねー、ランドールさまが暗殺された今、後継者の話ばかりでその死を悼む身内がいないってのさは…」
一人息子であるランドールさまを失った今、クレモン家はずっと忙しなく動いてる。
ランドールさまが亡くなったと言う事実よりクレモン家がどうなるのかが不安な人間しかここにはいない。
ランドールさまはずっとお一人でこの世界を生きていたのですよね。
ずっと一人で…。
また涙が出てきた。
今は…、リゾットを召し上がってくださった時のランドールさまの笑顔しか思い出せない。
「しっかし、本当どうなるんだろうなーこの家…」
デュオの言葉の途中で、ドアの開くきしんだ音がした。
窓からの光が銀髪を照らす。
そこにいたのは正装したサンティエさまであり、私たちに冷たい視線を送っていた。
「サンティエさま?」
デュオが驚くのは無理もない。
サンティエさまがお召しになっていたその服はランドールさまが生前式典の際などに着用していたものだったから。
「いつまでこんなとこにいる?」
「え?」
「クレモン家次代当主が決まった」
「……え?」
悪寒がした。
そんな事気付きたくなかった。
「まさか…次代当主って…?」
デュオの言葉を遮り、サンティエさまが言った。
「そうだよ、オレだよ、オレがクレモン家の次代当主だよ」




