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グラタン

深夜の厨房は昔から嫌いじゃ無かった。

同室のウェンディは気さくだし話も面白いし何よりイイコ。

人の悪口も仕事の愚痴も言わない、マイナス用語を言わない彼女だから一緒にいて苦痛になる事はない。

それでも、やっぱり一人になりたい時があり、そんな時はここに来ていた。

きっかけはただ小腹が空いたから。

余り物で適当に調理する。

バレたらもちろん叱られはするだろう、それでもまぁ解雇になる事はないだろう。

と、たかをくくっている。

料理は物心ついた時から好きと言う事もあり、厨房は元から好きだった。

そして、あの日から前よりもこの場所が好きになった。

ランドールさまに出会えたあの日。

今でもはっきり覚えてる。

ランドールさまが初めて私の名前を呼び私の存在に気付いてくれたあの日。

今までの人生の中で一番嬉しかった。

こうして目を閉じているとあの時の情景がついさっきの事のように思い出される。


「リリア」


そうそう、そんな低音ボイスだった。

ぶっきらぼうな中に優しさを感じる声。

はぁー、大好き。


「おい、聞こえてねーのか、リリア?あれ?名前違ったっけ?いや、オレの記憶力に間違いはねぇ、リリア、リリア!」


あれ?

想像にしてはイヤにはっきり聞こえる!

これは…。まさか…。

パっと目を開けると、そこには紛れもない、妄想でも想像でもない、ちゃんとした現実。

ちゃんとそこにいた!

ちゃんとそこにランドールさまがいた。

腰掛けるとギシギシと音が鳴る古びた木椅子に腰を降ろし、シルバーの瞳をこちらに向けていた。


「ラ、ラ、ランドールさま!」


「腹減った、何か作れ!」


「えっと…」


「聞こえなかったのか?腹減った、何か作れ!」


圧力的な言葉に自然と体が動いた。


「はい!!畏まりました!」


ランドールさまはいつだって私の…私たちの主なのだから、彼の言う事は絶対だ。

残ったお米、チーズ、ホワイトソースなどを手際よく用意して、出来上がったモノをキレイなお皿に移した。


「…グラタンか?」


「はい!お嫌いでしたか?」


「いや、前食べたのがうまかったから」


ランドールさまの記憶にちゃんと残っているのが嬉しくてその場で跳び跳ねたくなってしまった。

やっぱり、あの時の事は夢じゃない、そして、今も夢じゃない!


「うん、うまないな、お前料理うまいな」


「ランドールさまにその用なお言葉…痛み入ります、ありがとうございます」


「この時間になると腹が減るんだよなー、今日もお前がいてくれて良かった

ありがとう」


口角を少しだけ上げるランドールさまの控えめな笑顔。


「へ…?」


何々?

私死んじゃうんじゃない?

紺色のお召し物が窓の外の月の光を浴びてキラキラしていて、ランドールさまの美しいお姿がより一層輝きを増していた。

ランドールさまにとっては何気ない一言。

だけど、私にとっては今まで聞いたどの言葉よりも嬉しかった言葉。

また勝手な妄想膨らませちゃうかも。

デュオに茶化されると分かっていながら私は懲りもせずに話してしまうのだろう。












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