前世の記憶
千代子の家からの帰り道、ランドールさまの事を考えて歩いていた。
ランドールさまの言葉全て嘘だなんて思っていない。
だけど、全てを信じられるほど思い上がってもいない。
どうすればいい?
どう思えば私は楽になる?
そこまで考えて、はっとする。
私…自分の事しか考えてない。
ランドールさまに高みの見物とか、下にいる私達の気持ちなんて分かるはずないとか。
それって全て都合のいい言い訳じゃないか?
自分の気持ちに逃げているだけなのじゃないのか?
「おーい」
頭上から聞き慣れた声がする。
階段の上にパックジュースを片手に持った純がいた。
ジャージ姿のところを見ると、部活の帰りだろうか。
「千代子の家の帰り?」
「うん」
「どうしたぁ?元気ないね」
「うん、ちょっとね…」
階段を降りてきた純はポケットの中から、スナック菓子を取り出した。
「食べるぅ?」
「ありがとう、大丈夫」
「そ」
そう言うと袋を破り食べ始めた。
「スマホ電源入ってないよ」
私が手のひらに握り締めているスマホの真っ暗な画面に気付き、
「ついに決別する気になったか?」
ちょっと嬉そうに口角を上げるからちょっとムカっとした。
「違う」
「なーんだ」
しばらく無言で歩を進めていたが。
ふっと立ち止まり、純を見上げた。
「ねぇ、純?貴方は誰なの?」
純も立ち止まりゴミの袋を後ろポケットに入れた。
「オレはオレだよ」
「それは分かる。じゃなくて…」
「前世の記憶が知りたいの?」
「…」
急に目を覗き込まれ、呼吸が止まった。
「オレはずっと前からこの記憶と向き合って、どれだけ苦しかったか分かるか?お前は何ともない顔でいつもオレの前にいて。オレだけがこんなに苦しくて。打ち明けたとこでお前に伝わる筈もなく、ずっとずっと苦しかった」
止めてたままの息が苦しくて、口を開けた。
きゅっと細められた目尻がよりいっそう下がって見つめられているこっちが苦しくなる。
そんな純を見ていてランドールさまと自分を見ている気になった。
ランドールさまもこんな風に苦しかったんだ。
ずっとずっとこんなに苦しい思いを抱えていたんだ。
「ごめん」
「別に謝って欲しい訳じゃない」
「…」
「この後時間ある?ちょっと話たいんだけど」
純こ言葉に私は首を縦に振った。




