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現実逃避

「で?そのままスマホの電源入れてないの?」


千代子の部屋はいつ来てもいい香りがした。

乱雑した私の部屋と違い、あるべきモノがあるべき場所にきちんと置いてある千代子の部屋は突然の来客にも対応できてすごいなと感心してしまう。

そんな中にもきちんと置かれている推しの祭壇を見ると愛を感じてしまう。

千代子が作る祭壇はその時その時の自分の最推しのキャラであり、キラキラ笑顔の慧くんが並んでいた。

え?あれ?

慧くんのアクスタの隣に飾られている女のコのアクスタに違和感を感じ、問い掛けようとしたが、今の優先順位はそこじゃない。


「うん…」


私は首を縦に振り手持無沙汰に指を動かした。

数ヵ月前に紅蘭に画面を占領されて以来スマホ本来の役割を果たしてきていなかったスマホではあるが一応肌身離さず持ち歩いている。

そして、いつも画面越しに映るランドールさまを見る度に心がドキドキしていた。

この電源を入れればもう一度ランドールさまに会える。

もう一度ランドールさまとお話ができる。

そんなの分かってる。

肝心なのは本当にそれでいいのかと言うこと。

あんなひどい事言ってしまった。

正直、すごく悲しかった。

ランドールさまの事を思い出してから、毎日毎日すごく辛くて…。切なくて…。

それでも。


「でも、好きなんでしょ?」


無言のままの私の気持を千代子が代弁してくれた。


「でも!あの方は私の事なんて何とも思ってくださらない。私がこんなに苦しんでるのに!ランドールさまを暗殺したのは私だとも言われているのにその事も何とも言ってくれないのよ!」


ふぅーと小さく息を吐き窓の外の白い月に目をやった。


「ねぇ、リカは本当はどうしたいの?」


「え?」


「紅蘭ってか、そのランドールさまの事を本当に好きなんでしょ?」


「…」


「このゲームを始めてみて思ったんだけど、推しへの好きって気持ちは本当の恋から逃げているんじゃないかって」


「ん?」


「私ね、今も純くんの事が好きだよ。でも、純くんはリカの事が好きでその現実は変わる事はない。いくら私が振り向かせようと頑張ってみても純くんは私の事を見てくれない」


「…」


「で、ゲームの慧くんへ想いを移してみたの。要するに現実逃避ね、そうすればこれ以上傷つく事もない。その上、仮想でも何でも好きな人がいるってとっても幸せな事だから。何かで誤魔化してる間の時間ってもったいなくない?」


千代子の言いたい事は何となく分かった。

今の私のしてる事はただただランドールさまから逃げているだけ…?

ただ相手からの好きと言う言葉に酔う事だけが恋じゃない。


「私…。もう一度ランドールさまと話してみる」


「うん!それがいいよ」


「…それと、千代子…、さっきから気になってたんだけど、慧くんの隣に飾ってる女の子のアクスタって…、もしかして」


慧くんの祭壇を指差し恐る恐る聞いてみた。


「うん!私のアクスタだよ!」


恥ずかしげも無しに千代子が言った。

噂には聞いた事ある、自分のアクスタと推しのアクスタを並べる行為。

あれって都市伝説じゃなかったんだ。

慧くんの隣に並ぶ笑顔の千代子。

現実逃避…。

これも現実逃避の一環なのだろうか?










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