自分は自分
咄嗟の事で混乱しながらも、サンティエ様の腕を振りほどくと、驚いたように私を見る目に、以前の告白を思い出した。
あの時も。
彼は私に自分がランドール様の変わりになると言っていた。
私に愛されるなら自分はランドール様になると。
その場で長かった髪をお切りになったサンティエ様の様子はサドスティックで狂気じみていたが、全てを否定する事はできなかった。
暴走してしまうほど強い人の想いを目の当たりにしたのは初めてだったが、今の私なら分かる。
ランドール様のためなら私のこの命など惜しくない。
ランドール様がいなくなった真実が頭をおかしくする。
「俺じゃダメ?こんなにお前の事を好きなのに。こんなにお前を必要としてるのに」
どうして…と力無く続ける言葉が小さく響いた。
ああ、ランドール様によく似たそんな表情で言われると気持ちが揺らいでしまいそう。
よく似てるとかそんなレベルじゃない、ランドール様そのもの…。
それでも。冷たい指先をぎゅっと握り私はサンティエ様を見上げた。
「ごめんなさい。ランドールさまの変わりはいないんです」
ランドールさまの事だけが好きなんです。
「変わりとかじゃなくて」
壁際をカツンカツンと音を立てて歩くサンティエ様。
「俺にする事はできない?」
くそ、とセットしたウルフヘアをくしゃくしゃと崩しながら、大きくため息をついた。
「あー、もう止めた。兄貴の真似したとこでお前の気持ちがこっちに来る事無いって分かってんのに、お前の気持ちが少しでも自分に向くんじゃないかと思ってこんな事してたのがバカらしく思えてきた」
「…」
「兄貴はもういない。どんなに泣こうが帰ってこない。それに例え生きていたとしてお前と結ばれる未来はきっと無かった!」
ああ…、そんな事分かっていた。
ランドール様が自分の事を好きになってくれる事、そんな可能性少しも無いって…。
でも、生きてさえいれば、生きてさえしてくれれば…それだけで良かったのに。
「それでも。私はランドール様がこの世界にいるだけで幸せでした」
強い風が窓を叩き始める。
建物ごと壊れてしまうのでは無いかと思うほど、風が唸っていた。
このまま私も風に流されて遠くへ生きたい。
ランドール様の傍で生きていたい。
そんな私を見つめるサンティエ様の瞳の中にランドール様の面影が見えた。




