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物音一つしない薄暗い厨房の中、きちんと積み重ねられた食器とは別に1枚だけ別の場所に保管している銀縁に彩られたディッシュ皿。

棚の一番奥、ランドールさまのための特別なディッシュ皿。

それを取り出しゆっくり撫でる。


「ねぇ、ランドールさま。ランドールさまにもう一度、いえ、叶う事ならばまた何度でも会いたいです」


ランドールさまに出会えた奇跡が愛しくて、愛しくて。

心の底から貴方に会いたい。

キッチンに置かれたナイフが月明かりを受け怪しく光っている。

蒼く冷たい光。

私もランドールさまの側に行きたい。

さぁ、私をランドールさまのお側へ連れて行って。

ナイフのハンドルを強く握り締め、切っ先を喉元に近付けると、ひんやりとした感触が心地よかった。

ランドールさまと過ごした時間の中にあった全てのモノが今となっては大切で愛しい。

だから、それらを汚す行為はもっての他だった。

ナイフを元の位置に戻し、ランドールさまがいつも座っていた椅子と対面側の椅子に腰を降ろした。

さて、一体どう言う訳だろう?

どうして、私がランドールさまを殺めた事になっているんだろうか?

私が作った夜食に毒が入っていてランドールさまは失くなったと…。

それはおかしい。

だって、ランドールさまはだいぶ前かこここには来ていないのだから。

陽が完全に沈みきると暖炉に火をつけないとここは一気に冷え込む。

部家の済みに常備されている簡易クローゼットの中にしまわれている上着を羽織った。

この世界は私にとって最早何の意味も無いところだけど、それでも、どうしても成し遂げたい事がある。

ランドールさまを殺めた犯人。

私は必ずその人物を見付ける!

つけたばかりの暖炉の火が風を受けて揺れた。

誰かが入ってきた!

引戸がギシギシと音を立て、壁に人影が映る。

息を潜めて手を止め影の方を見た。

ああ。ランドールさまそっくりの影に私の心が

ツンと跳ねたウルフヘア、細身のシルエット、カツンカツンと足音を立てこちらに近付いてきた。あれは間違いないランドールさまだ。

ランドールさまが戻ってきてくださった。

そんな訳無いこと頭では分かっている。

だけど、そこにランドール様は生きている!

私の心がはっきりとそう感じた。


「ランドールさま!」


私の声に影が動いた。

カツンカツン、足音が響く。

息を飲み込みシルエットを迎えた。


「兄貴はもういないよ、それは君が分かってる事だろ?」


目の前にいたのはランドール様ではなかった。

ランドール様そっくりのその風貌ではあるが、ランドール様ではない。

凛と立ち、静かに私を見ていた。

最後に見たサンティエ様とはだいぶ変わっていた。


「サンティエさま…どうしてこんなところに?」


「お前が兄貴の事を好きと言うならそれでも構わない。俺が兄貴の変わりになる、俺が永遠にお前の傍にいてやる」


言葉が終わるよりも早く抱き締められていた。

ああ…。

ランドール様はやはり戻ってこられないのですね。

息が苦しい…呼吸ができない…。

真っ暗な闇に放り投げられたように私は一人その中にいた。
















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