嫉妬
『おい、おい?』
下から持ってきた親のタブレットを開いて、SNSをチェックしていると、ランドールさまに呼ばれた。
「どうしましたか?ランドールさま?」
広告メディア画面にランドールさま、もとい紅蘭のイラストが写し出されている。
ゲームの知名度は日に日に上がってゆき、先週のソシャゲ部門で一位だった。
ゲームの中でもやはりランドールさまの人気はすごくて。
ランドールさまはどの次元にいても常にみんなの注目を浴びているんだなと思わずにはいられなかった。
すごいよね、ランドールさまは。
誰の目にも止まらないこんな私なんかと違って。
結局私はランドールさまの輝きに当てられるだけで、どこの世界にいてもどこの次元にいても近付く事もできなければ触れる事なんてできるはずがない。
悲しい。
そんな私の目に新しい情報が入ってきた。
何この記事?
スクロールしていくと、紅蘭さまが某飲食メーカーのCMに起用と出てきた。
また知名度が上がってしまう!
『おい、どうした?』
「ランドールさま、TVCMに出られるんですね?」
『は?』
ランドールさまにディスプレイを見せると顔を曇らせた。
『これはオレであってオレじゃねー』
「え?」
『だから、オレ以外はオレじゃねー』
意味が分からない。
意味は分からなかったが、言いたい事は何となく伝わった。
ランドールさまの記憶を持つ紅蘭は世界でただ一人なんだと、そう言いたいのだろう。
「ますます人気出ちゃうね…」
『別に興味無い』
「私は悲しいなー」
普通に推しに人気が出るのは喜ばしい事なんだろうが、紅蘭は推しであって推しでは無い。私の大切な人だから。
「そう、紅蘭は推しであって推しじゃない。悲しいって言うか悔しい」
『今日の昼間オレもお前にそんな感情いだいたぞ』
「え?」
『お前が普通に幼馴染みと歩いて普通に会話をしてるのを見るだけで、オレは毎度毎度胸が苦しくなる、そんな当たり前の事許せないとか男として心が狭すぎて言わないつもりだった』
ああ…。ランドールさまはどうしていつもこうして私が幸せに浸れる言葉を掛けてくださるのだろうか?
もっと早く…もっと早くランドールさまとちゃんと向き合っていたら世界は変わっていたのだろうか?
あの日、ランドールさまに別れを告げられた日、もっと粘れば、もっと自分の感情をぶつけていれば、ランドールさまは殺されなかったのだろうか?
もう後悔はしたくない。
「一度は同じ次元で生きていたのだから、こんな次元の壁越えられるはずです!」
『…えっと?』
「生まれ変わり次の時代、きっと私達は一緒になれるはず!」
そんなに長く私は待てるのだろうか?
でも、今はそう考えるしかない!
『…すごいな、お前』
クスッと微笑うランドールさまが好き過ぎて。
私はタブレットを消した。




