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願望

「そんな事より電車大丈夫なんですか?」


私の言葉に、ラベンダーさんはハッとした顔で腕時計を見た。

話に夢中になってしまい時間の事全く気にして無かった。


「すごく楽しくて、時間を忘れるってこう言う時に使うんですね。ボク、友達いないんです。友達って括りを無くしたとしても、一緒にご飯を食べたりする人もあんまりいなくて。久々にこうして人とちゃんと会話したからつい話し込んでしまってごめんなさい、そろそろ行かないとですね」


ラベンダーさんはグラスについていた水滴を白くて細い指でキレイに拭き取り立ち上がった。


「これからお仕事ですか?」


ただもう少し話していたいと思ってしまった。

不思議な感覚。


「あ………まぁ、そんなようなものです。今日は付き合ってくれてありがとうございました」


「こちらこそごちそうさまでした」


「いえいえ。また何かあったら…」


「え?」


「え?あ?何言ってるんだろう?次があるみたいな言い方…それじゃあ、また会おうって言ってるみたいだ。でも、『サヨウナラ』って言う言葉もボク好きじゃないんです。そうなると、別れの挨拶って難しいですね」


マスクをつけ直しながら笑うラベンダーさんの笑顔につられて私も笑ってしまった。

おおよその人が考えつかないような事を真面目な顔で言ってくる姿が可愛かった。


「またね、でいいんじゃないですか?」


「そうですよね、それがいいですよね。じゃあ、また」


私達が立つと入れ違いに若い男女の二人組が席に座った。


『結構長く話してたな』


店を出てすぐにランドールさまがスマホの中から声を出した。


「そうだね」


初対面の人なのに一時間ぐらい話してしまった。

不思議と話が尽きなかった。

何だろう?ラベンダーさんのとの空気が居心地が良かった。


『なんつーか、胡散臭いヤツだったな』


ふわぁーと生欠伸をしながから面白くなさそうに言ってくるランドールさま。

少し唇を尖らせ、目を反らすランドールさま。

あれ?何か不機嫌?


「ランドールさま、何か怒っていませんか?」


『あ?何で俺が怒るんだよ?』


スマホのディスプレイの中尖らせた唇をバツが悪そうに噛んでいた。


「そ、そうですよね、ごめんなさい」


『…いや、怒ってるつーか、なんつーか、面白く無かった、ただそれだけだ』


「え?」


『オレはさっきのヤツと違ってお前とあんな風に過ごす事できないからな』


「あ…」


『お前と隣に並ぶ事すらできないから』


「…」


分かってはいる。けど、敢えてそう言われると悲しくなった。

そんな言葉をランドールさまの口から言われるなんて。

胸が痛い。私は本当にこの方に想われているんだ。

あの時…。何も気付かなくて自分の事だけで精一杯だったあの時。

ランドールさまのお屋敷に支えていたあの時。

ただランドールさまの目に映れば幸せだった。

ただランドールさまと言葉を交わせる事ができれば幸せだった。

今はそれは叶っているのに。

何てワガママなんだろう?

それじゃ足りない。足りないよ。


…貴方に触れたい…。

貴方に触れて欲しい…。


私はスマホを胸に抱き締めた。





















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