デュオ
今日のランドールさまもお美しかった。今日も私が念入りに磨いた螺旋階段の手すりにランドールさまのお手が触れた時ドキドキが止まらなかった。
手が触れた訳では無く、ただ単に私の磨いた手すりに触れられただけなのに。
好きで好きで仕方ないのです。
だけど、こんな想い誰にも言えない。
ここでお仕えしている女の子の誰もがランドールさまの事を想っているから。
私がその想いを伝えたとこで、それは皆と同じ想いだと思われてしまう。
そんなのただの自己中心的な考えだと分かってはいるけど。
こんな気持ち初めてでランドールさまの事を考えるだけで幸せになれる。
気が付いたらランドールさまの事しか考えていない自分に気が付いた。
私、ランドールさまの事本気で好き。
「もーらい」
宮廷の中庭でいつものようにお昼ご飯を食べていたら、調教された動物のように私の自信作のフルーツサンドがひょいと私の元から消えた。
「あー、それ最後に食べようと取っておいたのにー」
フルーツサンドを盗んだ犯人は何事も無いように木に凭れて座っていた私の隣に腰掛け、それを口の中に放り込みもぐもぐと頬張りながらもはっきりと言ってきた。
「大事なモノを最初に食べないお前が悪い!一寸先は闇だよ、ボーッとしてるお前が悪い」
デュオの滑舌は非常に良く、聞き取りやすいためそこをランドールさまにかわれている。
いい声と言うのとは少し違っていて、彼の声は聞いていて安心する上に説得力があるのでデュオに悩みを相談する人間も多い。
「で、ランドールさまとの妄想の続きに何か発展はあったか?」
ランドールさまのお名前に思い切り反応してしまった。
先日の夜中に起こったリゾット事件が嬉しくて、一人で抱えるにはあまりにも大きすぎる秘め事。(実際にはただランドールさまと二人きりになっただけ)
ランドールさまとの密会、それも言い過ぎだし、若干?の妄想が入っていたのは事実ではあるけれど。
だけど、あの日、ランドールさまにお会いできて、お話ができて、そして、そして…、あまつさえ私の作ったリゾットを召し上がっていただいたなんて、誰にも言えない、言えないけど、嬉し過ぎて、誰かに話したくて、そんな相手幼馴染みのデュオしかいないので、洗いざらい彼に話してしまった。
話してから少し後悔した。
「…後半は妄想だけど、ランドールさまとお会いしてお話できたのは本当の事よ」
「絶対あり得ないだろ…、あのランドールさまが夜中に厨房に入るだけでも信じらんねーのに、何でお前の作ったリゾット食べてベタ褒めとか、そんなのあり得る訳ねーだろ」
「…本当なんだもん…」
「お前のリゾットが旨いって言うのは紛れも無い事実だけどさ」
「…え?」
「オレも好きだぜ、お前のリゾット、てか、お前の作るもん何でも好きだけど」
言いながらかき上げたブラウンの髪の毛が陽に透けて赤く見えた。
「まぁ、また何か進展があったら聞いてやるよ、フルーツサンドサンキュッ」
「あ、私ももう行かなきゃ」
腰を上げてお屋敷に走り去って行くデュオの後ろ姿を追い掛けた。