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あなたは幸せですか?

本当だてに運動部入ってる訳じゃないなー。

純はやっぱりすごいんだなー、あんな風に見えてもエースとか言ってるし。

そう言えば純の試合一度だけ見に行った事がある。

今まで私が見ていた純とは全く違っていたその姿に衝撃を受けた。

今まで純に対して思ってたイメージが覆えされた気がした。

純の動きが他の部員達と明らかに違っていた。

1人だけスポットライトが当たっているかのようにほとんどの観客の彼の動きに釘付けになっていた。

これだけの人が同じ人物を見てる奇跡状況。

純がこんなにもすごい人だったなんて。

今までずっと一緒にいて、私から見た純は頼りなくて不安定で、正直見下していたんだろう。

それが明らかな差を見せつけられ、怖くなった。

純は私の知らないとこでたゆまない努力を続けていたんたんだと。

その間私は何をしていた?

特にやりたい事も目指す事も何も無い私。

適当に授業を受け、不平不満ばかり愚痴って、早く家に帰りたいそんな事ばかり思ったところで家に帰ったら帰ったで、スマホばかりいじってる1日。

何もしてないのにただ過ぎてゆくだけの時間。

そんな事考えてたらもう純の試合は見に行けなくなった。

純の目は私とは違う世界を映してるんだって。

割りと同じ時間を生きていたと思っていたのに、裏切られたと言う感情に似ていて何だか悲しかった。


『おい、大丈夫か?』


教室に入ってからの一部始終を静かに見守っていたランドール様がディスプレイの向こう側で瞳を動かしていた。


「ん、大丈夫。日頃の運動不足がたたったわ。千代子がこんなに早く走れるなん思いもしなかった」


推しのためなら火事場のバカ力と言う言葉が発動される事想定外だったわ。


「このまま追い掛けたところでもう授業始まっちゃってるし、遅刻してないのに、今さら学校行って遅刻って言われるのもシャクだしなー」


それでも、学校の方へ向かっている足を見てため息を吐いた。

通勤ラッシュも通学ラッシュも終わったこの時間帯、公園には小さな子供を連れたママさんが何人か見えた。


「まっ、千代子がまた戻ってくるかもしれないからそれまでここで待ってよう」


公園の隅に設置されているベンチには幸い誰も座っていなかったのでそこに腰を降ろした。

風が気持ちいい。


『気持ちのいい日だな』


ランドール様の言葉に驚いた。


『天気がいいか悪いかぐらいここからでも分かる。それにお前の顔見てれば過ごしやすい陽気なのかどうか一目瞭然だ』


「え…」


『…ずっとお前の事見てたからな。あの螺旋階段からいつもお前の姿を探していた』


キラキラ光るシャンデリアの下、大理石でできた螺旋階段、朝八時になると現れるランドールさま。

いつもランドールさまの視線の先を探っていた。

私達を見下ろすランドールさまのフワフワと動いていた瞳は私を探していてくれたと言うの?


「あ…」


あの時、目が合ったと思ったのは自分の思い上がりなどではなかったのだと。

ランドールさまが私の事を認識してくださっていた奇跡にまた涙が出てきた。


「あ……あ、ありがとうございます…」


ああ、あの時の私に言ってあげたい、貴女の想いは無駄じゃないよって。

ちゃんと届いてるよって。


「あの、大丈夫ですか?」


ふと、頭上から声を掛けられたので見上げると、そこにはツルの太いメガネの下ギリギリまでマスクをしている長身の男の人が立っていた。


「大丈夫です」


見られてた、恥ずかしい。

スマホ画面を胸に当て立ち上がろうとした時、その男の人は言葉を続けた。


「今あなたは幸せですか?」


え?何?この人…。宗教勧誘か何か?

訝しげに見上げる私の視線にバツが悪そうに答えた。


「あ、申し訳ない。悲しそうに見えたのでつい…」


少し頬を赤くしてメガネをずらすその姿から悪い人には見えなかった。

きっと、こんな真っ昼間に泣いてる女子高生に驚いただけだろう。


「私は幸せです」


初対面の人間にこんな言葉が出てくると思わず私も赤面してしまい、視線のやり場に困りキョロキョロと動かしてしまった。

男性は気を悪くするどころか、満面の笑顔を浮かべて、


「それなら良かったです。その気持ちが続く事を祈ってます」


それだけ言うと私の前から立ち去ってしまった。





























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