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『最近眠れてないのか?』


洗面所の鏡にぼーっとしたままの私を見て、洗濯機横のランドリーボックスの上から心配そうなランドール様の目がこちらに向けられている。


「眠れてはいるんだけど…」


夢見が悪いとは言えない。

夢とは言えあれは前世の記憶だから。


『また何か思い出したのか?』


ランドール様にどこまで話したらいいのか分からないまま私は顔を洗った。


『何かあったらすぐに話して欲しい。もう二度とお前を離したくない』


何の先入観が無ければこんな愛の言葉を聞いて舞い上がっていたに違いない。

でも、昨日サンティエ様から聞いたランドール様の婚姻の話しを聞いた今。

ランドール様は自分のために私から離れた?


「それならどうしてあの日、あの夜、もう二度と会わないと仰ったのですか?」


あ…。気が付いたら口に出てた。

私ったら自分の身分も考えずに…。

って、今は身分なんて関係ないじゃない!


『それは…』


「どうしてあんなにあっさりと私の目の前から消えてしまわれたのですか?ご自身の縁談が決まったからですか?」


口ごもるランドール様に間髪入れずに立て続けに捲し立てると、ランドール様は眉間にシワを寄せて首を振った。


『それは違う。それが理由じゃない、そんな事でお前から離れたりしない』


「それならどうして…?」


私はあの時の気持ちを忘れない。

辛くて辛くてただ悲しくて、それでもランドール様の前で涙を流す事もできなかった。


『とにかく今はまだ言えないが…、オレもあの日の事一瞬足りとも忘れていない、そして後悔してる』


「……」


『だからこそもう一度会いたかった。今度こそお前と同じように生きてみたかったからオレはずっとお前を探してた、で、やっと会えた、お前に』


「…」


悔しい、私が言い返せる道理がない。

記憶を忘れていた私がこんな事言える立場じゃないかもしれない。

あのランドール様がそこまでして私の事を想ってくれていたなんて。

私なんて…。

ランドール様のお姿を見てもすぐに思い出せなかった。


「申し訳ございません、ランドール様に向かって…」


『いや、いい。と言うか普通に話せないか?そんな畏まった言い方やめろ』


「ですが」


『これじゃあ何のためにまたお前に会えたのか分からないだろう?オレはお前と対等の立場で生きたかったから』


「ランドール様…」


『何てかっこつけて言ったものの、次元が違うってのは予想外だったがな』


真面目なランドール様のお顔にくすっと微笑ってしまった 


「でも、そのおかげでこうして片時も離れず一緒にいられ…ます」


『だけど、これじゃ手も繋げない』


「手を出してください」


ディスプレイに広がるランドール様の手の平に自分の手を重ねた。


『あたたかい…』


「私もです」


今はこれでいい。

ランドール様の側にいられるそれだけで今の私は充分だから。
















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