サンティエ様3
サンティエ様の印象は無邪気で真っ直ぐな男の子だとずっと思ってた。
でも、それは宮殿で居場所の無かった彼が必死で作り上げた虚像だったのかもしれない。
取り合えず笑顔を見せていれば、無理して笑っていれば、僅かに残っている自分の心を壊さないで済むから、まだ立っていられるから。
サンティエ様のお側に仕えてもう3年経つのに私は本当のサンティエ様の事何一つ知らなかったんだ。
だから、先程私の唇を奪ったサンティエ様が本当の彼なのか?また偽りの彼なのかが分からないでいる。
私と言えば…平静を装うのがやっとだった。
「前にここで告白した事覚えてる?」
離宮に入り、冷えた身体を暖めるため暖炉に火を灯し始めたサンティエ様の様子はいつものサンティエ様に戻っているように見えたが瞳に見える陰が気になった。
「……うん」
「あの時の返事まだ聞いてないんだけど」
ニコッと頬を緩ませてたいたが目が笑っていない。
「サンティエ様…私は…ただの使用人でございます」
「そっか…」
脇に置いてあった薪を暖炉にくベリしばらく炎を見ていた。
炎がサンティエ様の陰を色濃くする。
「使用人って分かってるのに、兄貴の事は好きになるんだ?」
「え?」
サンティエ様に気持ち見透かされていた。
「リリアも結局他の人間と同じでオレの事見下してるんだろう」
「ちが、違う、そんな事ない」
「お前が兄貴の事をどんなに想おうが、兄貴はお前には振り向かない。兄貴は来月縁組が決まってるんだから」
「え……?」
ランドール様が結婚…?
え…そんなの知らなかった…。
「お前と兄貴じゃ身分が違い過ぎるんだよ、諦めろ」
急にそんな言葉を投げられても私には何の言葉も出せない。
頭か真っ白だった。
ランドール様が結婚?結婚?
だから…。
私ははっとした。
だから、あの夜、ランドール様は私にお別れの言葉を?
意識せずに涙が溢れて(こぼ)きた。
一度溢れた涙は止まらない。
「これで分かっただろう?」
立ち上がったサンティエ様に抱きしめられ視界が塞がれる。
サンティエ様の香り…どことなく懐かしく淡い香りに包まれる。
「オレはお前が好きだ。オレならお前の側にずっといる」
「…」
「でも、お前の気持ちが兄貴にあると言うのなら」
サンティエ様はそこで深く息を吸い、暖炉の上に置いてあったカッターで自分の髪を切り落とした。
バサ、バサと床に落ちてゆく髪の毛。
長かったサンティエ様の髪の毛はあっと言う間にランドール様ほどの短髪になり、
「お前が望むならオレは兄貴にでもなれる、これからはオレだけのモンだ、忘れるな」
そう言ったサンティエ様の表情は奇妙に歪んでいた。




