サンティエ様 2
私はいつも自分の気持ちばかり押し付けていた。
ランドール様にだって自分の気持ちを押し付けようとしていた。
こんな最低な私にデュオが想いを打ち明けてくれた事で頭がパンクしそうだった。
「おい、どこ見てんだよ、さっきから呼んでるだろう?」
本殿とは違い離宮の敷地の中は自然で溢れている。
この離宮はクレモン家の初代当主のバチスト様の奥様エレオノール様が農民出身と言う事もあり、奥様がゆったりと過ごせるように建てたらしい。
バチスト様とエレオノール様の身分を越えた恋話しは時が経つ事に尾ひれがついてしまい、今ではどの話が本当なのか分からないほどだったが、この手の話は恋に敏感な若いメイド達の中では永遠に語り継がれている。
池で小さな魚を捕まえていたサンティエ様が不愉快そうに頬を膨らませていた。
「申し訳ありません!サンティエ様のお声ちゃんと耳に入っております」
「嘘ばっかり、最近のお前ボーッとしてばっか…」
「申し訳ありません!」
「オレといる時はちゃんとオレの事見とけよ」
「申し訳ありません…」
池から上りつかつかと私の前に立ち、濡れた指で私の顎をクイと持ち上げられた。
生暖かい体温に気をとられたものの、私は、この間会った時よりまた少し背が伸びてる、なんて思っていた。
「どこの誰だか知らねーけど、そんなにソイツの事が好きか?」
そんな私とは対照的に静かな口調だが、憤りを消せないらしく反対の手で持っていた小魚を握り潰し地面に落とした。
「サンティエ様?」
初めて見るサンティエ様の姿に不審の念を抱き彼から離れようとしたが肩を捕まれ動けなくなった。
「お前だけだったんだよ、ちゃんとオレと向き合ってくれてたのは、それなのに…」
陽が陰っていき、気温が下がってきた中、私から目を反らさないサンティエ様から離れたかった。
「サ、サンティエ様お召し物を…お持ちいたしますので離していただけませんか?」
「…」
「サンティエ様…?」
顎を捕まれた手に力が入るから呼吸が苦しくなる。
初めて怖さを感じ思わず目を閉じてしまった。
その瞬間。
更に呼吸が苦しくなった。
目を開けるとサンティエ様の顔が目の前にあり…、私の唇の上にサンティエ様の形のいい唇が…。
え!え!え!
これって。キスー?




