月夜の告白
暗闇が続いていく。頭も足も重い。
私は今どこに向かっているのだろうか?
とにかくここから離れたかった。
宮廷から、厨房から、ランドールさまのお側から遠く遠く遠くに行きたかった。
「おい、こんな時間にどこに行くんだ?」
宮廷の屋外に続く廊下で強く手首を掴まれ歩を止められた。
使用人に見付かったか、こんな時間に出歩いるのがバレたらお仕事辞めさせられる事になる!
誰かに見付かって一番始めに思った事がお仕事への執着心だったなんて。
もうここには何の未練も無いのに。未練が無いどころかここから消えてしまいたかったのに。
もう二度とランドール様に会わせる顔が無い!
と言うか…そんな保守的な考え、私はただもうランドール様のお顔を見る勇気が無いだけなのに。
「おい、こんな時間にどうしたんだ?大丈夫か?」
手首を掴んでいた手が私の肩に触れた。
ああ、聞き慣れたこの声知ってる。
「デュオ?」
「どうした?何があった?」
見上げると怪訝に揺れる垂れ目の瞳とぶつかった。
「お前泣いてるのか?何があった?おい?」
「ごめん、大丈夫…」
立ち去ろうと歩を変えると、視界が揺らぎ足に力が入らなくなった。
「大丈夫じゃないだろう?」
ふわっとした感触に守られ一瞬後私はデュオの胸の中にいた。
私の頭2つ分ぐらい大きなデュオ。
昔はこんな大きく無かったのにな。いつからこんなに差ができてしまったんだろう?
「何かこう言うの懐かしい…」
「は?」
「私、昔よく転んで、そんな時いつもデュオがこんな風に支えてくれたなって思い出した」
「…お前大丈夫か?」
「う…ん」
デュオの顔見てたら止まってた涙がまた溢れてきた。
「全然大丈夫じゃないだろう?ほら思ってる事全部話せ」
降り注ぐ声が素直にさせてくれた。
「そっか…」
泣きじゃくりながら頭に浮かんだ事を話しているので、聞いてる側としては何を言ってるのか分からないはずなのに、デュオは最後まで黙って聞いてくれていた。
中庭では虫の声が夜の静寂に響いている。
「それで、リリアはこれからどうするつもり?」
「え?」
「リリアはどうしたいの?」
私?
人に聞いて貰えると心が落ち着いてきた。
冷静になって考えてみる、考えると言うより分析に近い。
ランドール様はお別れを言うために今日わざわざ私のところへ出向いてくださったのだろうか?
ただの一使用人の私にわざわざそのような事を?
本当はランドール様、他に何か伝えたい事があったのでは?
芝生から立ち上がり、自分の周りをぐるぐると歩き黙考する。
「リリア?」
「私は…私は。ランドール様のお側にいたい…」
今もこれからもランドール様のお側にいたい。
一使用人の私が、脚下照顧まずは自分自身を見直すべき!
「ありがとう、デュオ」
「オレは特に何もしてないよ。だけど、リリアが元気にならそれだけでいい」
「ありがとう」
「あ、後さ、ランドール様の事しか見えてなくて気付いてないかもしんないけど、オレお前の事好きだから」
デュオの目が真剣に私を映した。
「え?」
「本気だよ」
月の明かりがいつものようにいたずらっぽく笑うデュオを照らした。




