アプデ
三連休の中日、久々に千代子が私の家に来て、はしゃいだ顔でスマホを見せてくれた。
「見てみて、私の慧。バンド組んだんだよ、慧くんね、ボーカルやるんだー」
鼻歌を歌いながらスマホの画面をクリックしていく千代子。
見る度に千代子の推しはどんどんグレードアップしていく気がする。
私はこのゲームをちゃんとしている訳では無いからどの衣装が課金なのかどのステイタスを課金で得るのか分からないが。
新密度やキャラのレベルがまだ初めて間もないとは思えないぐらいの数値だった。
「アプデで新しい歌も追加されたんだよ、ちゃんとやってる?」
「へ?」
このゲームってそんな感じのゲームだったの?
「あ…違う。慧くんは音楽で生きて行こうとしてる男の子だから音ゲー要素入ってるだけだった」
「へ?何それ?キャラによって違うの?」
「え?今更何言ってるの?本当リカのゲームはイレギュラー過ぎて…。例えばこの人、右京さん」
そう言いながら、ゲームをオープニング画面に戻し緑色の短髪のキャラを指差した。
「右京さんは見て分かるように筋肉系彼氏で、彼の新密度レベルを上げるには、バトルをして上げていかないといけないの」
「バトル?」
何て言うこと…ただの乙女ゲームと思いきやそんなハイスペックな事をしてみんなは推し達を育てていたのね。
「リカの彼は特別だから何もしなくても新密度上がってるからいいよね!」
千代子にはまだ何も話していない。
そもそも前世の記憶が戻りましたとか、身分違いに好きだった相手が現世で次元違いになってました、とか言えっこない。
言ったところで信じてもらえるかどうか分からない。
(おおよその確率で信じてもらえないと思うが)
「うん…」
「次のイベントまでにあと少しレベル上げたいなー」
フンフンとまた鼻歌を歌って画面に出てくる音符をテンポよく叩き始めた。
夢中で画面を見つめる千代子を見ていて、最近、純の事何も言わなくなった事に気が付いた。
「ねぇ、千代子、千代子はまだ純の事好きだよね?」
止めた指を顎に触れ首を傾げた。
「うーん。今は慧くんがいるからいいかな」
な、な、なんと、恐るべし、乙女ゲーム!
現実の恋を忘れさせてしまうほどの威力とは!
純とはあれから話していない。
こんなに長く顔も合わせない事は初めてかもしれない。
顔を合わせないと言っても同じクラスだから生存確認はできているが。
いつもだったら休みの日さえもうちに上がり込んでいたのに。
意味深な言葉を真意を知りたいな…。
夕方、千代子を送るついでに私は純の家のチャイムを押した。




